笛吹き男と兎の悪魔その2
引き続き、2次の方々をお借りしております
街の外に出た所でマントを各人に配る。お面は既に配り終えて、全員着けていた。
ついでにパーティ登録をして、チャットが使えるようにした。
「で、細かい作戦はどうなさいます?」
「まずは索敵でしょうねぇ」
「東西南北有るからさ、4組に分かれて探せばいいよ。<隠遁>系ポーション使えば見つかる事も無いし」
菜穂美と十条=シロガネの言葉に三月兎が答える。シンプルに考えているらしい。
「早苗さん降りたらダメなんですか?」
「ダメ!コイツはあたしの足だから」
「俺の人権…」
シゲルの指摘をピシャリとぶった切り、ニヤリと笑う三月兎に、カイトは苦笑いを浮かべながらぼやいた。
「あの、いつ降りてくれるんすか」
「作戦が終わったらな」
カイトの質問に三月兎はふふんと鼻で笑う。
「早苗さん、まだ準備中なんだから、今は降りても…」
「ダメ!本番でいきなりだと慣れないから失敗するかもしれないし」
土方歳三の言葉も封殺した。三月兎の中では相当重要らしい。一応それなりに考えているようだ。
「で、早苗さんはマント着ないのですか?」
「うん、攻撃出来ないからねぇ。装備はコマンドメニューからでも出来るし」
菜穂美の問いに軽く答える。確かに、<雲隠れのマント>は装備中に攻撃が出来なくなるのが欠点と言えば欠点か。
その間はポーションで代用するそうだ。別に直前で脱いでも構わないとは思うのだが、頑として聞かない。
「それで、プランAは?」
「共通なのは先ず索敵。全員で<ハーメルン>のパーティを探す。見つけたら合流だ、逆に見つかるなよ」
「なるほど」
「で、プランAは、あたしが攻撃して幹部の気を引き付ける。マント被ってカイトと一緒に奥に誘き寄せるから、その間に初心者たちを保護してくれ」
「挑発に乗りますか?」
「ヤツらちらっと見た事有るけど、単細胞のバカだからな。きっと乗ってくるよ」
三月兎はけけけ、と笑いながら断言した。あの初心者たちを怒鳴り散らす態度は、多分そうだろう。
「では、乗って来なかった場合のプランBは?」
「そんときゃあ全員で囲めばいいよ」
マントを脱いで威圧するのだそうだ。まぁ<ホネスティ>が、しかもレベル90の猛者が相手なら、向こうも怯むだろうと考える。
「標的は幹部だけだ。どっちの作戦でも、そいつを縛り上げて初心者たちを保護する。決して神殿送りにはしない」
「その心は?」
「脱退させるのにギルド会館行くだろ?復活したヤツと途中で出くわしたら面倒だからな」
「なるほど…了解しました」
「うぇっへっへっへ。じゃあそゆことでよろしく♪」
大雑把な共有が済み、機動力の有る十条=シロガネと土方歳三が遠い方のエリアへと散らばって行った。三月兎が軽く手を振る。
シゲルは中距離を、菜穂美は比較的近場を見回る事にした。三月兎とカイトも巡回を開始した。
「菜穂美さんが近場ってなんか有るんすか?」
「え?だって<召喚術師>って足遅いじゃん?」
「え、でも憑依とかすれば…」
「うん、でも安全地帯確保してねえからよぅ」
レベル90なら、魔術師系でもそれほど苦にならないはずだが、索敵はスピードも要求される。
<召喚術師>は<幻獣憑依>が有るが、本体ががら空きになる。
自分達も動き回っていて他に誰も居ない以上、憑依は危険だと判断している。
そこでカイトは一つ気付いた。
「あの…」
「うん?何だ?」
「ギルドハウスで憑依すれば良かったんじゃ…」
「…あっ」
言われて三月兎も気付いたようだ。
「しかも俺、ペガサス持ってるから空飛べるっすよ」
「…」
「他の皆も空飛べる従者持ってるっすよ」
「…」
「合流する時にはそうすればいいんじゃ…?」
「…」
カイトの追い討ちに、三月兎が沈黙する。そして。
「…てへぺろっ♪」
「うわ~…」
「み、皆には内緒だ」
震えた声でカイトに釘を刺す。だが。
「あの…パーティチャット開いたままっすよ」
「…」
逆にトドメを刺された。三月兎は黙りこくる。
『早苗さん酷いですねぇ』
『いやはや全くもって』
『後で先生と御前に報告しておかないと』
『相変わらず詰めが甘いですわねぇ。ご心配なさらずとも、今騎乗生物に乗ってますから』
全員からコメントが入る。もはやオーバーキルだ。
そして。
「うわああああああああああああん!!皆で虐めるううううううううううううううううう!!!」
「痛いっす痛いっす!ちょっ、頭叩かないで下さいよ!!」
荒れた。
『カイト君も大変ですねぇ』
「すんません」
<似非紳士>の慰めにカイトも苦笑いのようだ。
「んだよ、んだよ、皆してさ…そらあたしは頭悪いけどさ、そこまで言う事ねーじゃんよぅ…」
「あの、いじけるのはいいんすけど、俺のつむじを弄るのは止めて欲しいんすけど…」
「ちくしょう、こうなったら<ハーメルン>壊滅させてやる…!」
「いいい痛いっす!頭締め付けるのやめて下さい!」
三月兎の目に怒りの炎が宿る。両手でカイトの頭を両側から万力のようにギリギリと締め上げ、カイトが悲鳴を上げた。
レベル差が有る筈だが、それを超えている。そして完全に私怨の八つ当たりだ。動機が増えたようである。
『早苗さん!』
「あん?トシか。どした?またあたしを笑うのか?」
『…本来の目的忘れてませんか?ターゲット見つけましたよ』
「(!)よっしゃ合流じゃああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
「う、うっす」
さっきまでいじけていたのに、テンションを上げて叫び、カイトに指示を出した。
◆ ◆ ◆
太陽が南中する頃、低レベルゾーンの一角に、彼らは居た。
アキバの中では比較的中堅レベルの冒険者が1人、その傍らに低レベルの冒険者が3人。
<武士>、<施療神官>、<盗剣士>のようだ。
「おら!行くぞ!」
「うっ…」
ガンマン風の男が武士の少年の背中を、急かすように蹴り上げた。
男の名前はトモシビと表示されている。蹴られた少年はトウヤという名前だ。装備はともかく、顔が泥だらけで覇気が感じられない。
「皆は…大丈夫か…?」
「な、何とか…」
「ちっ…おら、行くぞ…」
どうやら休憩が十分では無いらしい。詳しいステータスは分からないが、HPもMPも回復しきって無いように見受けられる。
だが、トウヤという少年は、それでも周囲の仲間を気遣っているようだ。手を貸して仲間たちを立たせる。
一応少しは回復したのか、全員装備を整え、トモシビに付いて歩き始めた。
その様子を茂みから観察する冒険者が6人。三月兎たちだ。<隠遁>系ポーションを使用しているため、今の所は見つかっていない。
「くそっ、あの野郎…悠梨ちゃんの友達を足蹴にしやがって…」
「マーチさん落ち着いて下さい」
「分かってんよ…」
カイトが背中の上の三月兎を宥める。
全員で後をつける。丁度この先が広場になっているようだ。
「よし、そこの広場で<パルスブリット>撃つから、それを合図に行動開始だ」
「うっす」
「仕方有りませんわね」
「腕が鳴りますねぇ」
「一丁やりますか」
「乗りかかった船ですしね」
皆互いに頷き、作戦を開始した。
カイトと三月兎が先回りをして、広場の茂みに待機する。
この辺は低レベル帯で有るため、レベル90の冒険者が居ると敵が寄って来ない。待機するにはうってつけなようである。
やがて、ターゲットの一団がやって来た。
「ようし…フッフッフ…」
お面で隠れて見えないが、三月兎の目がキラリと光る。
そして。
「むぅ~~~~~~……ていやっ!」
一発気合を入れて<パルスブリット>を発動させる。
「…えっ!?」
その現象に、カイトが目を丸くさせた。
「なっ……何すか…これ…」
カイトはキョロキョロと周りを見回す。
カイトと三月兎の周り数メートルの範囲内に、光弾が一気に数十発出現したのだ。前後左右上下、360°ぐるりと2人を囲んでいる。
三月兎はニヤリと獰猛な笑みを浮かべ、杖を振った。
「いてまえー!」
「えぇっ!?」
三月兎の小さな叫びを合図に、全ての光弾が飛散していく。
ここでカイトが驚いたのは、その全ての光弾が障害物を避け、うねうねと曲がりくねって飛んで行った事だ。
地面すれすれに飛ぶ物は蛇の様に這いずり、草むらを掻き分ける。
中空を飛ぶ物は木々を避け、上空から行く物は一直線に飛び、猛禽類の様に急降下していく。
また別の物は茂みの中を進んで大きく迂回し、獲物の後ろ側に回り込んだ。
更に全ての光弾が初心者を避けて飛んで行く。
「うわっ!?な、何だこりゃ!!?」
突然の現象に、トモシビが驚いて固まる。
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド――
全ての光弾が一点に集中し、全弾命中した。
「ぎゃあああああああああああああっ!!!」
男からすれば、全方位から光弾が飛んできて逃げ場が無かったように見えるだろう。
冷静に対処すればある程度回避出来た筈だが、突然の事に体が付いて来なかったようだ。
三月兎は素早くマントを装備し、カイトに指示した。
2人のカオナシが茂みから飛び出し、あっけに取られる集団の前に躍り出る。
「おしーりぺーんぺーーん♪」
「何を安直な…」
「てんめえええええ!!神殿送りにしてやる!!!」
「うわー…乗ったよ…」
安い挑発にカイトが呆れるが、我に返ったトモシビは顔を真っ赤にしてキレた。
「よし、カイト、行け」
「はい…」
「あ、こら逃げんじゃねえ!!」
三月兎の指示に従い、カイトが道の奥へと走って行く。
それを目撃したトモシビは、周りの低レベル冒険者たちに待機を命じ、2人を追いかけ始めた。
「うぇっへっへっへ、アイツバカだな♪」
「…俺も思ったっす」
「少し挑発してやるか♪」
「程々に…」
向こうの視界から消えた所で脇の草むらに姿を隠し、マントを脱いだ三月兎は光弾を放った。
朝霧の説明によれば、<雲隠れのマント>は、わざとプレイヤーに当てない威嚇や挑発なら撃てるらしいが、三月兎は確実に当てるつもりのようだ。
再びグネグネと曲がり、男の背後から一発命中する。
「ぐあっ!…くそっ!」
<付与術師>の使う<パルスブリット>、しかもダメージ量を考えると低レベルだ。
「マーチさん、別に当てなくても…」
「当てた方が反応おもしれーだろ♪」
トモシビは、飛んできた方角に振り向くが、何も無い。
「ふはははははははは!こっちだ間抜け~!」
「んのやろう!直ぐに捕まえてやっからな!!」
振り向く前に正面だった方向から、マントの2人組が姿を見せた。ついでにお尻ぺんぺんしておちょくってくる。
トモシビは額に青筋を立てながら走り出す。さっきより速度を上げるが、カイトはレベル90の<暗殺者>だ。おんぶしていても、その程度は訳も無く調整できる。
時に近づき、時に遠ざかり、着かず離れずの距離を保ち、トモシビを奥へと誘導して行った。
◆ ◆ ◆
トモシビが見えなくなって、呆気に取られた初心者たちはポカンとしながら待機していた。
そこへ、同じく黒マントにお面を着けた一団が脇の草むらから姿を現した。
ガサガサと言う音に、初心者たちが一斉に戦闘態勢に入る。
「だ、誰だ!」
「あぁ、申し訳有りません、敵では有りませんよ。ご安心下さい」
十条=シロガネがマントとお面を脱ぎ、紳士然とした雰囲気で話しかける。
他の者たちもマントを脱ぎ、姿を見せた。
「ッ…!レベル…90…!?」
「…ホネ、ス、ティ…?」
ステータスを確認した者たちが驚きの声を上げる。
普段、ここまで間近で高レベルの冒険者と接した事が無いためか、皆固まっているようだ。それぞれ目を丸くしている。
「さて、君たちに質問が有る。”リリー”と言う名前、聞いた事は有るかな?」
土方歳三の言葉に、3人全員ハッとした表情を浮かべた。
「リリー姉ちゃん…!」
「そう言えば<ホネスティ>って…」
<武士>の少年と<盗剣士>の少女が思い出したように呟く。
そこで<施療神官>の少年が前に出て来た。
「あ、あの…」
「何でしょう?」
「リリーさん、は…あのっ」
言葉を詰まらせながら、緊張を振り解くように勇気を絞り出して、目の前の<召喚術師>に問いかける。
「彼女は無事ですわ。知り合いの家で保護しております」
「ほ、ホントに!?」
「えぇ。そちらはご心配には及びません」
菜穂美の柔和な笑顔に、少年の糸が切れたらしい。その場にへろへろと座り込む。
「さて、今度はあなた方の番ですよ」
「…えっ?」
「我々が何故このような事をしているか、分かりますか?」
シゲルの問いに、<武士>の少年がピクッと反応した。他の2人は訳が分からずポカンと呆けているようだ。
「…俺は……残る」
「えっ?」
「ほう…あなたは中々聡い様ですね。しかし残るとは、どういう事でしょうか?」
<施療神官>の少年と<盗剣士>の少女が目を丸くする中、<武士>の少年は目の前の<暗殺者>を真っ直ぐに見据えた。
「あの、トウヤ君…?一体何の話?」
「この人たちはさ…俺たちを、<ハーメルン>から助け出そうとしてくれてるんだ」
トウヤと呼ばれた少年の言葉に、2人は息を呑んだ。
「私たち、出られるんですか…?」
「リリーさんに…会えるの…?」
「えぇ、もちろん」
2人の震える声に、十条=シロガネがゆっくりと頷く。
少年と少女の顔が明るくなるが、直ぐに気付いた。
ハッとして、正面から見つめ合う十条=シロガネとトウヤを見比べる。
「しかしトウヤ君、君は今、残りたいと言いましたね」
「…まだ、仲間が居る…ミノリも居る…俺は、皆を守りたいんだ…だから…」
<武士>の少年は、臆する事無く、真っ直ぐに目の前の<暗殺者>を見据えた。
「今はまだ、残らなきゃいけないんだ」
◆ ◆ ◆
「ふはははははははははははははははは!!!」
「待ちやがれええええええええええ!!」
<ホネスティ>幹部たちと<ハーメルン>の低レベル冒険者たちとの話し合いが続く中、2人と1人の鬼ごっこはまだ続いていた。
時折草むらに隠れ、或いはそのまま威嚇で、光弾を放ってトモシビを挑発した結果、男は頭に血を上らせ、只管に追いかけて来る。
<ホネスティ>から拝借した地図――菜穂美から借りた――によれば、そろそろ袋小路だ。
大災害以降、このギルドは本来の目的を延長した。すなわち、探索と情報収集である。
この地図もその成果の一つだが、この付近は以前と変わらないそうだ。
「そろそろっすね」
「おう」
小声で呟くように話すと、案の定、道の終わりが見えて来た。
減速した2人を見て、トモシビはニヤリと笑う。
10メートルほどの距離を持って、3人とも停止した。
「てめーらもう逃げられねえぞ!」
おんぶの体勢を解除するカオナシ2人を見てトモシビは叫んだ。
勝ち誇ったような余裕の笑みで、数歩歩み寄る。
「予定通りだ」
「うす」
トモシビに聞こえないように小声で言葉を交わすと同時、カイトは一気に間合いを詰めた。
<ハイドウォーク>や<ガストステップ>等を使い、数メートルの距離を瞬時に移動し、男の死角に回り込む。
「…なっ!?」
不意の動きに、トモシビは情けない声を出して狼狽する。
ドスッ――!
「ぐぅ…」
躊躇した一瞬の隙に、カイトに当身を食らわされて気絶した。
死角に回った瞬間にマントをコマンドで外し、呆気なく制圧する。
「しっかしまー…ここまでアホだとは思わなかったぜ」
「…何だか同情します」
地面にトモシビを寝かせながらカイトは苦笑いを返した。
「よし、縛るか」
三月兎はそう呟くと、鞄から<魔女の捕縛縄>を取り出す。
「それ使えるんすか?」
「手動なら普通の縄と同じだろ?」
「え?手動?」
「おぅ、自動発動じゃ無くて普通に自分で縛るんだよ」
「へ、へぇ~…」
半信半疑のカイトの目の前で、三月兎はトモシビ相手に実践してみせた。
手際良く縛って行く三月兎に、カイトは感心する。
だが。
「…あの…マーチさん…」
「ん~?」
「何で…亀甲縛りなんすか?」
しかも両手を後ろに固定してM字開脚の体勢だ。一応服や鎧はそのままだが、武器は外し、猿轡も噛ましている。
「いつかハゲ野郎で試そうと思っててさ。その練習だよ」
「そ、そうすか…」
いつかのようにニタリと嗤い、トモシビを縛り上げた。カイトの背筋に冷たい物が走る。
「これで良し…後はこうして…」
猿轡、後ろ手に縛り、M字開脚で亀甲縛り。この状態で更に、近くの木に逆さまに吊り上げた。
上の枝に縄を引っかけ、地面から1メートルほどの高さに吊る。更にその木に体をぐるぐる巻きに固定する。
因みに、トモシビの武器は木の根元に安置しておいた。
目覚めたら、羞恥心と怒りと重力で頭に血が上りそうだ。
「これ…時間制限とか有るんすか?」
「うーん、手動だからなぁ…」
2人揃って腕を組み、首を捻る。
取り敢えず結び目は強力で、トモシビ自身が自力で解く事は出来ないだろう。
「まぁいいんじゃね?時間制限有るなら1時間ぐれーだし」
「はぁ…まぁ最悪、仲間呼べば済むか」
「そゆこと♪」
手をパンパンと払い、三月兎とカイトは、皆が待つ広場に引き返して行った。
何故か再びマントを付け、おんぶした状態で。
◆ ◆ ◆
「おや、帰って来ましたね」
「あのお2人が、先ほど申し上げた<三月兎の狂宴>の方々ですわ」
十条=シロガネの言葉の先を、菜穂美が引き取った。
2人の視線の先を見ると、おんぶをした状態で2人のカオナシがこちらに走って来るのが見える。
「早苗さん、まだおんぶしてるんですか」
「え、だってこの方が速いからよぅ」
シゲルの呆れたようなセリフに、三月兎はさも当然と言わんばかりの口調で応える。
「それに、街に帰って手続き済ませて移籍するまでが作戦だからな」
「まぁ…俺はいいっすけど…慣れてるんで…」
仮面の下からカイトの苦笑いが聞こえる。
流石に仮面とマントはもう外しても良いだろうと幹部4人が説得し、2人とも脱いだ。
因みに、おんぶ状態は頑として保持している。謎の拘りだ。
「トウヤ君にテルオ君によりこちゃんか」
「で、話は着いたんすか?」
三月兎が3人の名前を確認し、カイトが周りに状況を尋ねる。
「えぇ…テルオ君とよりこさんは抜けるそうです。なるべく目立ちたくないらしいですが…」
「あぁ~、じゃあしぇんぱいの所かなぁ」
菜穂美の話に、三月兎が腕を組んでぼやく。
「それから、トウヤ君はまだ残るそうですよ」
土方歳三が続きを報告すると、三月兎がピクッと反応した。
「ふぅん、そう来たか…」
「マーチさん?」
何かを察した表情の三月兎に、カイトが怪訝そうな顔をする。
「いや、悠梨ちゃんから聞いたんだけどさ、トウヤ君には双子の姉が居るらしいんだ」
「ミノリって言うんだ。姉か妹かは別に関係無いけど、とにかく家族なんだ」
三月兎の話にトウヤ本人から補足が入り、カイトにも状況が読めた。どうやらミノリは生産班のようだ。
「あ~…なるほど…」
カイトが目を細めて溜息を吐くと、トウヤはコクリと頷いた。
「それに、まだ皆が居る。五十鈴姉ちゃんとかコハギちゃんとか…皆、守らなきゃ」
それが<武士>の役目だと、強い眼差しが語っている。
「ふむ…その心意気は買いますがねぇ。君1人では守り切れないかも知れませんよ?」
「それは、もちろん分かってる。だけど、俺が抜けたらアイツらの注意が他の皆に行ってしまうから…今はダメなんだ」
十条=シロガネの諭すような問いに、トウヤは悲痛な面持ちで、或いは覚悟を決めたような決死の表情かも知れないが、声を絞り出した。
「しかし…」
「分かった。それが君の意思なら尊重するよ。トシ、いいよな」
「…まぁ、早苗さんが仰るなら…」
土方歳三が食い下がるように言いかけたが、三月兎がそれを遮った。
基本的には自由意志であり、各個人の判断を尊重する、というのが三月兎が決めたこの交渉の約束だ。
残るか出るか、<ホネスティ>か<狂宴>か<放蕩者の記録>か。その最終判断は本人たちに任せる。
トウヤと言う少年が『残る』と言った以上、強引に変えさせる事はしない。
「だけどトウヤ君、これだけは忘れないでくれ。我々は、君たちを見捨てたりしないから」
「おじさん……ありがとう…」
少年が頷くのを確認すると、土方歳三は三月兎の方を向いた。
「それじゃあ、こちらの2人は御前に引き取ってもらうんですね」
「うんそだね。ちょっと念話するよ」
三月兎が念話を掛ける間、事態を見守っていたテルオとよりこが、トウヤと話し込む。
「トウヤ君、ホントに残るの?」
「うん、皆が居るからさ…2人は脱退した方がいいよ。<ハーメルン>には戻らない方がいい」
「だったら私も…」
「ダメだよよりこ姉ちゃん。出られる人は出た方がいいんだ。俺なら大丈夫だから」
2人が心配そうに見つめる中、トウヤは気丈に笑った。
「あ、しぇんぱい♪話纏まりましたよ~♪」
『む、そうか…で、どうなったんだ…?』
一方、三月兎はカイトの背中の上で、朝霧に念話して状況を報告している。
「かくかくしかじかで、2人引き取ってもらおうかと…」
『そうか、分かった。で、何処に迎えに行けばいい?』
「え~と、取り敢えず会館で脱退したら、一旦<狂宴>で待機してもらう予定なんで」
『それじゃあ、<狂宴>に行けばいいんだな』
「あい♪」
『今私は忙しいから、手の空いた者に迎えに行ってもらうよ。事情は話してあるし、作戦成功をこちらから連絡しておく』
「あいさー♪」
念話を切った三月兎は、全員の方を向き、爽やかな笑顔を見せ、親指を天に向かって突き立てた。見せた歯がキラリと光った。
「何でそんなドヤ顔なんですか」
自慢げな三月兎に、土方歳三が口元を引き攣らせる。
「ふふん♪流石しぇんぱいだぜ☆」
まるで自分の実力のように胸を張る。言っておくが、三月兎の実力では無い。
「処でトウヤ君」
この場に流れた微妙な空気を破ったのは、当の三月兎だった。
「この道の先が行き止まりになってるけど、そこにさっきのヤツを縛っておいたからよ…残るなら、そいつを助けて行け」
「…分かった…皆が…見えなくなってから、の方がいいのかな」
「うん、追いつかれると困るから、少し時間空けてくれると助かる」
三月兎は少し驚きながら言葉を返す。この少年はそれなりに聡いらしい。惜しい事だ。
「そんじゃあ行くか!」
三月兎の号令を合図に、6人のベテランと2人の初心者は、アキバの街へと足を向けた。
◆ ◆ ◆
街に入る直前に、三月兎は、やっとカイトから降りた。
会館に向かう道では、初心者2人を6人で囲む配置にした。
まだ脱退手続きをしていないため、他の冒険者たち、特に<ハーメルン>の幹部連中に見つかると至極面倒な事態になるためだ。
幸い、何事も無く会館に辿り着き、脱退手続きを済ませる。
8人はその足で<三月兎の狂宴>のギルドハウスを目指した。
「あー楽しかったー!」
ドアを勢いよく開けながら、三月兎が満面の笑みで叫ぶ。
その後ろをぞろぞろと皆が続いて行く。
全員が入って暫らくすると、2人の冒険者がやって来た。
「夜櫻先輩~♪フェイ君も~♪」
「さーちゃんおひさ~♪」
中から何人かの話し声や笑い声が聞こえる。
「またね~♪」
やがて、4人の冒険者が玄関を出て、ギルド会館へと向かって行った――。
十条さんと御前におんぶに抱っこだった…
あ~長かった。。。