笛吹き男と兎の悪魔その1
長くなったので分割
いわゆる準備編
借りた2次キャラ
・コハギ
・十条=シロガネ
・土方歳三
・朝霧
・フェイディット
実は…逃げて来たんです…早苗さんは知ってますか?<ハーメルン>と言うんですけど…
こうなってから数日後、声を掛けられたんです、初心者を救済したいって…先に早苗さんに連絡すれば良かったんですけど、混乱して忘れてて…
でも…あの人たちは、救済とか全然…逆らうと容赦なく斬られたり、魔法で焼かれたり…
あ、はい、あそこは戦闘行為を許可してあるんです…
後、<EXPポット>を家賃代わりに渡さなくちゃいけなくて…それから、レベルが比較的高い子たちは、外に素材集めに駆り出されたり…
サブ職が生産職の子たちは、私もなんですけど、アイテムを作ってマーケットに売ったり…
生産班は全然外に出してもらえなくて、1日中アイテムを作り続けて…
そうですね…多分、人質代わりだったと思います…仲間や家族を縛り付けて、戦闘班が逃げ出さないように…
私語は厳禁で…え?あぁ、要するに生産効率が落ちるって事です、無駄話する暇が有ったらアイテムを作れ、と…
見つからないように小声で話したりとかはしてたんで、それなりに仲良くなった子たちも居たんですけど…
え、フレンドリストですか?登録してあるのは彼らがほとんどですね…後は<ハーメルン>のメンバー数人と、早苗さん…今は<ホネスティ>の人たちも増えましたけど…
でも私、皆を置いて逃げてきて…皆を…置き去りに…
トウヤ君、ミノリちゃん、テルオ君、よりこちゃん、コハギちゃん、五十鈴ちゃん…他にも何人も……私…
早苗さんの事を話したら、皆が協力してくれて…隙を見て逃がしてくれたんです…特にトウヤ君とミノリちゃんが庇ってくれて…
あの二人には特にお世話になって…私と同じくらいの…ゲーム始めて1週間ぐらいだったらしいんですけど、その間一緒に遊んでくれたベテランさんが居たそうで…
えぇ、はい…その人に基本知識は教わったって、私たちにもそれを教えてくれて…
早苗さんが<ホネスティ>の関係者だって話したら、じゃあ外に出なきゃって、脱出に協力してくれたんですけど…
その足でギルド会館に行って、脱退して…外の空気を吸いたくて街の外に出たらPKに会っちゃって…はい、陽輔さんたちに助けてもらったのはその時です…
◆ ◆ ◆
三月兎は一つのメモを手に取った。数人の冒険者の名前が書き記されている。<ハーメルン>に居るリリーの友人たちの名前だ。
先ほどのリリーの言葉が脳裏に甦る。
『皆を…助けたい…!』
全身から絞り出すように叫び、ポロポロと涙をこぼした。
寄り添うように置いた三月兎の手に何粒か落ちたが、あの時の暖かい感触はまだ残っている。
「ちっ…酒が不味くなったな…」
瓶を一気に呷り、舌打ちして言葉を吐き捨てた。味は無いが気分の問題だ。
話自体は聞いていた。そういうギルドが有るという事は。<ホネスティ>と朝霧、双方からだ。複数のルートから聞けば確度は高くなる。
その時は漠然と、ただムカつくと思っただけだった。まさか自分と関係してくるとは今の今まで思わなかったのだ。
だが、三月兎の脳は現在、フル回転している。性格上、衝撃に沈んで立ち止るような事はしない。
ギイイ、と口元が歪む。往年の悪魔が顔を覗かせた。リリーが居たら震えあがっていただろうか。今は2階で休んでいるので安心だろう。
ただの悪戯だ。今この街に法が無いなら、何をやってもいいだろう。冒険者は自由だ。ならば喧嘩を売るのも自由だ。
それに死んでも大神殿で復活出来る――否、今回は死ぬ訳には行かない、いや、死なせる訳には行かない。
「取り敢えずカイトに付き合ってもらうか…菜穂美ちゃんたちと…あ、先輩にも力貸してもらうか…」
ニタリと嗤ったままぶつぶつと呟く。断る可能性は全く考えていない。
<ホネスティ>は現在、情報収集を最優先し、街の雰囲気や運営などは考慮せず静観している。だが、中にはそれを良く思わないメンバーも居る。何とかしたいと思っている者も居る筈だ。
それに朝霧もだ。元々アキバの事を憂慮していた辺り、放ってはおけないだろう。なるべく名前を表に出さないから、直接迷惑は掛けない筈だ。
三月兎は空き瓶を放り投げ、次の酒瓶を手に取った。割れた空き瓶が泡になって消え去る。
もうすぐ夕方、陽輔と舞たちが帰って来る。
三月兎は新たな一升瓶の封を開けてぐいっと呷った――。
◆ ◆ ◆
その夜、三月兎はカイトを呼び出し、庭でモーション入力を教えてもらった。
武器職と魔法職では少し勝手が違うが、基本は同じだ。呪文を唱え、体を動かす。再使用や硬直なども、装備や習得ランクに応じて決まるのも一緒だ。
「じゃあこの辺でいいっすかね」
「おう」
カイトが、三月兎から5メートルほど離れた所に木箱と空き瓶を幾つか置いた。的の代わりだ。
予備の的も幾つか用意してもらい、杖を構える。
「うし。コツは分かったからもういいぞ」
「うっす。あ、一応まだ起きてるんで、なんか有ったら呼んで下さい」
「おうおう」
カイトが家に戻るのを後目に、三月兎は特訓を再開した。
「<パルスブリット>…<パルスブリット>…<パルスブリット>…」
再使用待ちが切れる度に光弾を発射し、瓶に当てていく。杖を振り、自分も動きながら発射し、特性を確認していった。
「<パルスブリット>…<パルスブリット>…<パルスブリット>、<パルスブリット>、<パルスブリット>、<パルスブリット>」
最初は命中率も低かったが、少しずつ当たるようになってきた。撃つ度に体に馴染んでいく。
「<パルスブリット>、<パルスブリット>、<パルスブリット>、パルス、パルス、パルス、パルス、パルス」
何かが見えそうな気がする。物理的な物では無く、理論的にも説明は出来ない、感覚的な物だが。
ひたすら光弾を撃ちこみ、感覚を研ぎ澄ませる。
「むぅ~~~……うりゃあああああああああっ!」
三月兎が珍しく意識を集中し、一発気合を入れて光弾を発射する。軌道がぐにゃりと曲がり、障害物代わりの瓶を避け、後ろの藁人形に着弾した。
「ふぅ~ん…えい!えい!」
光弾を次々と発射し、カーブさせていく。レオ丸の顔を描いた藁人形が穴だらけになってしまった。
次の藁人形をセッティングしている時に、三月兎はポツリと呟いた。
「あっ、そうだ。今度アイツが来た時のために捕縛の練習台になってもらうか」
あの野郎、確か生足が好きとかほざいていたか。ゲコゲコ五月蠅い上に薀蓄垂れまくって生意気な。レオ丸の癖に。
お前は蛙じゃ無くて人間だろう。大体、たかがビールぐらい、一杯くらいは素直に飲めばいいものを。
――等とぶつくさぼやくが、初っ端から焼酎やウィスキーで襲った事が有るのは棚に上げて、というか忘れているらしい。
そこに、以前見た<ハーメルン>幹部の顔が重なった。前哨戦か。OK、相手に不足は無い。
三月兎は我知らず、また例の笑みを浮かべる。
「パルス、パルス、パルス、パルス、パルス…」
今度は<ハーメルン>幹部の顔を描いた藁人形に当てていく。
やがて。
「うしっ!大体分かった」
数十体の焦げた藁人形――半分はレオ丸である――を前に、三月兎はニタッと嗤った。
◆ ◆ ◆
朝、三月兎は日の出と共に活動を再開した。
階段をそろりそろりと上がって行く。いつものどたばたは全く無く、音が無い。まるで<暗殺者>のようだ。
尤もその配慮は、階段に一番近い部屋が舞の部屋だからと言うだけで、もし違っていたらどたばたと騒がしかっただろう。
目的地であるカイトの部屋に辿り着く。
静かにドアを開け、カイトのベッドの横に立った。
バサッ――!
「おいカイト!起きろおおおおお!!起きろ起きろ起きろおおおおお!!おおおおおおおきいいいいいいいろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
「うわああああああっ!?!!」
布団を勢い良く引っぺがし、耳元に顔を近づけ、大声で叫び、体をガクガクと揺さぶる。カイトはビックリして飛び起きた。
目を白黒させてベッドの端に逃げ、三月兎を見遣る。
「マ、マーチさんっ!?えっ、ちょっ…な、何すか一体…?!」
「カイト、飯食ったら行くぞ」
「…えっ?」
寝起きドッキリのような展開に、目が点になった。
ただのドッキリなら良かったが、ここはセルデシア、それに相手は三月兎だ。重労働が待っているに違いない。昔TVの特集で見たバズーカとかの方が良かったか。
「ほら早くしろよぉ!」
「ちょっ、分かりましたから引っ張らないで下さいよ!」
「ちっ、じゃあ待ってやるから40秒で支度しろ」
「ええええええええっ?!」
「40、39、38…」
三月兎は懐から懐中時計を取り出し、カウントダウンを始めた。
カイトは慌ててベッドを抜け出し、装備を整える。いつも使っているアイテムだからコマンドメニューでさほど時間は掛からない。
「しょうがないなぁマーチさんは…」
「…8、7、6…おう、終わったか」
「う、うっす…」
「んじゃ、飯食って行くぞ」
部屋を出て階段を下り、ロビーのテーブルに座る。
貯蔵庫から幾つか料理を取り出し、並べる間に舞が下りて来た。
「あ、叔母さん、カイト君、おはよう。今日早いねぇ」
「あぁ~、マーチさんに叩き起こされて…」
「おうちょっとやる事有ってな」
「えっ…な、何するの…?」
あくびを噛み締めるカイトと、ニヤリと笑った三月兎の言葉に、舞は少したじろぎながら尋ねる。
「詳しくはまだ聞いてないけど、多分悪戯…」
「えっ!?また何かするつもり!?」
「ふん、アイツらが悪いんだ」
「ちょ、ちょっと叔母さん!い、一体何するの?!相手は!?!」
「けけけけけけっ、調子に乗ってる笛吹き男たちにちょっとお灸を据えるだけだよ」
「ふ、笛、えっ?…<吟遊詩人>か何か…?」
そんな高尚な相手じゃない。冒険者の風上にも置けないごみ屑だ。ちょっと一泡吹かせてやるだけ。
三月兎はそんな事を吐き捨て、味のしない朝ごはんを胃袋に詰め込んだ。
「mgmg…あ、そうだ。舞、今日1日カイト借りるからよ、街の外には出るなよ。見回りも訓練も無しな」
「えっ?でも陽輔君が…」
「おう、これから連絡するよ。アイツも無しだ」
そう応えて念話を掛ける。先ずはシブヤ。ガックリに繋いだ。
『あぁ、マーチさん』
「おう、今日は陽輔を街の外に出さないでほしいんだ」
『えっ?』
「見回りも訓練もな。頼むぜ!んじゃな!」
『えっ、もしm』
続いてジョージにも連絡する。
「あ、もしもしぃ?アタシだけど」
『あぁ、早苗さん。どうしたんですか?こんな朝から?』
「おう、ちょっとカイト借りるからよ、陽輔を街の外に出さないでほしいんだ」
『…また何か企んでるんですね。じゃあ、見回りも教導訓練も無しですか』
「うへへへへへ、じゃ頼むよ」
『はいはい』
そして陽輔に念話を掛けた。
『あれ、早苗さん、どうしたんですか?』
「おう、今日1日カイト借りるからな」
『はぁ、そうですか』
三月兎が突然知り合いを連れ回すのは良く有る事だ。陽輔はそう思っているのか、普通の反応を返した。
「あ、もう一つ有った」
『何ですか?』
「おう、今日は街から出るなよ!見回りは休みだ!いいな!!!」
『えっ…』
言葉を失ったらしい陽輔に、三月兎は畳み掛けた。
「ああん!?それぐらい言う事聞けよぉ!まぁ昼過ぎまででいいけどよ!あ、ついでにうち来て留守番頼むわ!舞を1日貸してやるから種付けでもしとけ!」
「ちょっと叔母さん!」
三月兎の後ろから舞が叫ぶように咎める。顔を真っ赤にしているのは怒りか照れかは分からない。
何か言いたそうだった陽輔の念話をぶち切り、食べ終わったカイトを引き連れて家を出た。
◆ ◆ ◆
向かった先は<ホネスティ>本部だった。
「な お み ちゃあああああああああああああああああああああああああん!!!!!」
玄関ロビーに入るなり、本部ビル全体に轟かすような大声でマダムを呼ぶ。
そこに居た全員が、何事かと三月兎の方を向いた。だが、声の主が三月兎だと知ると、いつもの事だと各自の業務に戻ったようである。
少しして、気だるげに扇子を揺らめかせながら、一人の<召喚術師>が歩いて来た。
「あら、早苗さんじゃありませんか。どうなさったのです?そちらからいらっしゃるなんて珍しいですわね。それにカイト君におんぶされて」
「叩き起こされたっす…」
「ちょっと手貸して欲しくてさぁ」
何故か背中から降りずにそのまま話し出す。菜穂美とカイトは苦笑いを浮かべている。
「また何か悪戯を思い付いたのですか?」
「うん、ちょっとさぁ、アホなヤツらに一泡吹かせたくてさぁ」
カイトの背中に乗ったままコクリと頷いた。
「時間は有りますから手伝うのは構いませんが、おんぶされているのは何か関係が有るのですか?」
「有るぉ♪」
即答である。某巨大掲示板のキャラクターのような表情で言った。
因みに家を出てからここまで、ずっとおんぶしてもらったらしい。周囲の視線をものともせず。
「具体的に、相手は誰なのです?」
「<ハーメルン>、だそうっす」
カイトの棒読みセリフに、菜穂美の顔がピクッと強張った。
<ホネスティ>の幹部である以上、ある程度は情報を知っている。取引先もだ。
「早苗さん、本気ですか?」
「おう!」
また即答である。
「はぁ~…分かりました。どうせ止めても聞かないでしょうし。早苗さんの監視も兼ねて手を貸しますわ」
「さんきゅー♪菜穂美ちゃん愛してる~♪」
呆れて苦笑いを浮かべる菜穂美に用意してほしいアイテムを告げ、投げキッスをかますと、カイトに指示して上階へと上がって行った。
「じゅうううじょおおおおおおさあああああああああああああああん!!!」
「おや早苗さん、相変わらずお元気そうですねぇ」
再びギルドタワーに響くような大声で、今度は廊下を歩いていた似非紳士を呼び止める。
「念話の方が便利だと思うのですがねぇ」
「うぇっへっへっへっへ。ちょっと頼みが有るんだけど」
「先ほど菜穂美嬢と話しておられましたが、何か関係が有るのですか?」
「うん、ちょっと手貸して欲しくてさぁ」
相変わらずカイトの背の上で話す三月兎に、十条=シロガネは苦笑しながら尋ねる。
「一体今度は何を企んでいるのです?」
「ちょっとさぁ、不届きな輩が調子乗ってるから喧嘩売りたくてさぁ」
「先ほど”ハーメルン”と聞こえましたが、もしかしてあそこですか」
「うんそう♪」
菜穂美の時と同様に即答で首を縦に振った。
「そう言えば今朝、ジョージ君から連絡が有りましたね。外へ出るなと言われたそうで。陽輔君たちを巻き込みたく無いんですね」
だからこそ本部に来たのだが、カイトを巻き込んでいる辺り大雑把というか何と言うか。
「俺は手伝わされてるんすけど…」
相変わらず舞と陽輔以外に対しては人使いが粗いらしい。
「いいでしょう、お手伝い致します」
「わーい♪十条さん大好きー♪」
「で、具体的に何をすれば宜しいのですか?」
十条=シロガネは三月兎の投げキッスを無視し、話を進める。
「人手が居るんだ~。つっても、1パーティでいいんだけど、あたしとカイトと菜穂美ちゃんが居るから、十条さん含めて後二人」
「ふむ。バランスは?」
「特に無いぉ♪おびき寄せて走り回るのはあたしとコイツがやるから、十条さんたちは初心者たちを保護してほしいんだ」
「では今手が空いている方々で宜しいですね」
「うんお願い♪」
三月兎がコクリと頷くと、十条=シロガネは念話を掛け始めた。
「早苗さん」
「あ、菜穂美ちゃん」
待っている間に後ろから菜穂美が声を掛けてきた。<魔法鞄>からお目当てのアイテムを取り出し、三月兎とカイトに渡す。
「これで宜しいかしら」
「うんあんがとねぇ」
「…マーチさん、これ、何に使うんすか?」
菜穂美から渡されたアイテムを見て、カイトの頭に疑問符が浮かび上がる。
某キャラクターの顔を模した仮面だ。しかも6枚。
ゲーム時代にコラボキャンペーンのイベントで早苗が取得した物だ。
「何って顔見られないように隠すんだよ。今付けるなよ、街の外に出てからだ」
「あの…顔隠してもステータス見られたら特定されるんすけど…」
「でーじょーぶだっ!しぇんぱいがいいもん持ってっから♪」
「しぇ、しぇんぱい…?」
疑問をぶつけるカイトに対し、三月兎は自信満々に言い放つ。そして、そのまま朝霧に念話を掛けた。
「あ、しぇんぱい、ちょっと貸してほしいアイテム有るんすけど♪」
普段とは違いテンションが高めであるため、敬語が砕けているらしい。
『早苗、珍しいな、そっちから掛けて来るなんて。それにどうしたんだ、藪から棒に?』
「あのステータス読めなくなる黒マント貸して下さい♪6枚ほど♪」
『うん?…あぁ、<雲隠れのマント>か。別に構わないが、何に使うんだ?』
「ちょっと初心者たちを軟禁しているボケナスどもに悪戯を…」
『おい、まさか<ハーメルン>か!』
朝霧の声色が明らかに変わった。驚愕に焦りが加わり、少し口調が速くなったようである。
「はぁ、そうっすけど…?」
さも当然と言う風に三月兎は返事を返す。
朝霧は呆れたように溜息を吐いた。
『お前…はぁ~……どうせ言っても聞かないんだろうな。分かったよ、6枚だな』
「わーい♪しぇんぱい愛してる~♪」
『その代り、私は表立って手伝えないぞ。あくまでバックアップだ』
「あいさー!じゃあ取りに行くっす!!」
ヤツらのバックに大手戦闘ギルドが居る事は分かっている。
だが、相手の正体が不明だったり、<ホネスティ>が相手と分かれば、そうそう報復はされないだろう。
最悪、<女帝>の名を借りてもいいと三月兎は勝手に思っている。
「あ、もう一つ頼みが有るんすけど」
『何だ』
「初心者たちの受け入れ先にしぇんぱいの所も選択肢に入れていいっすか?」
『あぁ~、それが本来の目的か…うちなら構わん。ただし、本人たちの意思を尊重しろよ』
三月兎の言葉に察しが着いた朝霧は、それを承諾した。つまりは保護だ。
「ぃやっほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおう!!!」
三月兎は、それを聞くや否やテンションを爆上げして念話をぶった切り、カイトの背中の上で小躍りを始めた。
「ふははははははははははははははははははははははははは!!!!!」
「ちょちょっ、マーチさん暴れないで下さいよ!」
「まさか<緋巫女御前>まで巻き込むなんて…」
随分な大物が釣れたようだ。側で見ていた菜穂美が苦笑いを浮かべながら呟く。
「相変わらず勢いは凄いですねぇ…あ、早苗さん、シゲルさんと土方君が捕まりましたよ」
「よっしゃああああああああああああああ!!!十条さん大好きいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
これまた苦笑いを浮かべる十条=シロガネに、三月兎は投げキッスを何回も飛ばした。
「で、これからどうなさるんです?」
「二人が来たら<放蕩者の記録>に行ってマントを借りるぉ♪」
菜穂美の質問に三月兎が答える。相変わらず、某キャラクターのような顔と口調をしていた。
「俺場所知らないんすけど」
「でーじょーぶだ、あたしが指示してやるから走れ」
「…降りてくれないんすね…」
カイトは涙目で呟いた。聞こえた者たちは同情の目を向ける。
「一体どんな状況ですかこれは…」
駆け付けた二人の内の片方、土方歳三が呆れたように呟いた。
はしゃぐ三月兎をカイトが涙目でおんぶし、菜穂美と十条=シロガネがそれを挟んで苦笑いしている。しかも全員カオナシのお面を持ったままで。
「いやはや、何ともカオスな状況ですね。流石は早苗さんだ」
シゲルも呟きながら苦笑した。
「よし、全員揃ったな。じゃあカイト!行けえええええええええええええええ!!!!」
「はいはい」
三月兎の指示に従い、カイトは走り出した。
召喚術師と武士が居るため、少し手加減はしているが。
「ふはははははははははははは…」
高速移動しているため、早苗の高笑いにドップラー効果が乗った。
街中の冒険者たちに白い目で見られたのはここだけの話。
◆ ◆ ◆
<放蕩者の記録>ギルドハウス、その扉を三月兎は勢いよく開けた。
ドアが壊れないか頗る心配だったが、三月兎はお構いなしにカイトに指示して中に入った。
「しぇんぱああああああああああああああああああああああい!!!!」
「えぇ~…お邪魔しまっす…」
三月兎の叫び声が館内に響き渡り、申し訳程度にカイトの挨拶が付いて来た。
ロビーのインテリアが共振して少し震えたのは見なかった事にしよう。
「あぁ、来たか…って何でおんぶされてるんだお前は」
奥から顔を出した朝霧が、いつもの事のように呆れながらその不自然さを指摘する。
「朝叩き起こされてからずっとっす…」
「おいこら早苗」
「そんなのどーでもいーじゃないっすかー♪マント貸して下さいよぉ♪」
突っ込み所が満載なのだが、三月兎はお構いなしに左手をにゅうっと差し出した。
「はあぁ……分かった分かった。これだろ、ほら」
朝霧は溜息を吐き、投げやりな態度で――早苗には幾ら言っても無駄なので――<魔法鞄>から6枚のマントを取り出し、手渡す。
「後で返せよ」
「わーーい♪しぇんぱい愛してるううううううううううううううううう!!!」
三月兎の愛の告白(?)が建物の内部に轟いた。ついでに投げキッスとウィンクを大盤振る舞いだ。
「君たちも大変だな…」
「所長の付き添いとどっちが大変ですかねぇ…」
朝霧の苦笑いに、土方歳三が遠い目をしながら応答する。二人の脳裏にフェイディットの顔が浮かんだ……かどうかは定かでは無い。
そんな彼らの耳に、三月兎の後ろから菜穂美と十条=シロガネの会話が聞こえてきた。
「流石は<御前>ですね、ロビーには重要な情報は無いようです」
「えぇ、そうですわね。<放蕩者の記録>…<ホネスティ>でも、詳しい動向を掴むのは困難ですわ」
二人は抜け目ない光をその目に湛え、ギルドハウス内部を観察する。
「御前、すみません…」
「まぁ、構わんさ…ロビーぐらいは別にな…」
「はい…」
情報漏えいに関しては徹底しているからその辺は心配ないが、朝霧と土方歳三は再び苦笑した。
三月兎は、そんな空気はお構いなしに、カイトにマントを渡す。
「そんじゃしぇんぱい、また後で~♪おら、皆行くどーー!」
「すんません、お騒がせしました…」
三月兎はマントをカイトの<魔法鞄>に詰め込み、指示して外に出た。
カイトが会釈しながら三月兎をおぶって出ていくのを見ると、どっちが年上か分からない。それとも介護か。
「相変わらず台風みたいなヤツだな…」
朝霧の呟きは誰にも聞かれず、虚空へと消えた。
あ~なげーorz
ていうか十条さんと土方さんのキャラが崩れてる気がする…(ーωー;)