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太陽の貴公子番外編  作者: みずっち
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天秤祭打ち上げ(陽輔サイド)

御前主催の打ち上げパーティに参加しました

「すみません、お招きいただいて」

「あぁ、別に構わんよ」


陽輔と舞が朝霧達に挨拶していた。

<放蕩者の記録>のギルドハウス、そこで開催される打ち上げパーティに招かれたのだ。


「君たちにも世話になっているからな」


少し恐縮気味に腰を折る二人に、朝霧は朗らかに笑って挨拶を返す。

二人はキョトンとした。

朝霧に対して世話を焼いた覚えは無い。寧ろこちらが世話になっている。


「いや、色々世話になったよ。クレセントバーガーの件とか、大地人の村々を回ってくれたりな」


それにもう一つ。


「あと、さーちゃんの事もね」

「いつも苦労しているだろう?」

「早苗さん、元気だからねえ」

「あぁ…」

「そう言えば…」


本来なら保護者になるべき人間が、逆に迷惑を掛けている。

三月兎の手綱を握れるのはほんの数人だけだ。

その内の一人が朝霧である。だが彼女はずっと忙しい。

そして二人目の夜櫻もあちこち遠征に出かけている。

一番の天敵である姉の愛子は居ない。

必然的に、陽輔と舞に三月兎の世話が圧し掛かっているのだ。

酒かレオ丸が絡まなければ大人しい方だが、確かに目を離せない部分は有る。


「…まぁ、子育ての練習だと思えば…」

「うん…介護の予習だと思えば…」


二人は遠い目をして苦笑した。


「ところで…当の早苗はどうしたんだ?」

「あれ?そう言えば…」

「叔母さん、カイト君とイーサン君を連れて、私たちより早く家出ましたけど…?」

「そうなのか?」

「はい…」


舞が頷く。

そう言えば、ちょっと準備が有ると言っていた。

会場(ギルド)前に着いた所で念話を掛けたが、出なかった。


「準備…?一体何をしているんだアイツは…」

「うーん、出し物かなんかかなぁ?」


どうせまた碌でもない事を考えているのだろう。

朝霧の呆れた様な呟きに、陽輔と舞は苦笑いして同意する他無い。


「あぁそうだ、二人に聞きたい事が有るんだが」

「はい?」

「何ですか?」

「正式な婚約はいつするんだ?」

「んんっ」

「そ、その内…」


からかう様な朝霧の笑みに、二人は言葉を濁した。


「姉さん意地悪だねぇ」

「いやすまない。私も楽しみでな」


楽しそうな幸村のツッコミに、朝霧が苦笑した。

若い二人の右手の薬指には、ペアリングが収まっている。

事情は承知しているが、それがいつ左手に移るのか、知り合いとしては気になるらしい。


「アタシも気になってるんだけどねぇ。式には呼んでね」


夜櫻がニヤニヤ笑う。

陽輔と舞は恐縮しながらその場を辞した。




それから、二人はリリーとよりこたちの所に向かった。

よりことテルオは<放蕩者の記録>所属だが、そもそものギルド方針に加え、三月兎と朝霧が良好な関係であるため、実質的に<狂宴>メンバーの様な感覚になっている。

朝霧からは移籍しても良い旨を伝えられているらしい。


「数日振りですねぇ」

「そうだねぇ」


リリーを介してしょっちゅう会っているので、特に感慨も何も無い。


「お祭りどうだった?」

「ちょー楽しかったっす!」


テルオが鼻息を荒くした。

買い食いをしたり、知り合いの店を冷やかしたり、満喫したらしい。

凛太郎と一緒に回ったそうな。

保護者として付き添った文絵も笑顔である。

<魔法鞄>は頗る便利で、早く手に入れたいと熱弁した。


「まぁ、買い物とか、色々大変ですもんね」


<魔法鞄>はレベル45になると取得可能になる。

凛太郎とよりこたちのグループは、もうすぐ平均45になる。

あと少しで手に入れられる。

グレードによって素材や金額に差が出るが、一般的なランクなら、レベル以外は既にクリア済みである。


「ワイバーンよく狩れたね」

「ジョージさんたちが手伝ってくれました!」

「次は自分たちだけで狩りたいですけど…」


それは流石にまだ難しいらしい。

ジョージたちが手伝って、ワイバーンを一匹ずつ群れから離したと言う。


「時間掛かったんじゃない?」

「結構…」


リリーたちは遠い目をした。

<放蕩者の記録>にも<ホネスティ>にも在庫は有るが、自分たちで調達したいと言って、ギルドには相談しなかった。

苦労したし、大人たちに手伝ってもらったが、何とか達成出来た様だ。




人が少しずつ集まって来た。

イザベラはヤッホーと腕を組んでいる。いつの間に仲良くなったのか、良い雰囲気に包まれていた。

傍に居るメリダは、つまみ食いしている少年にハリセンでツッコミを入れていた。

そろそろ始めるか、と朝霧が呟いた時、玄関のドアが勢い良く開いた。


「…来たか」


振り向いた朝霧が呟く様に言った。

陽輔は無表情になり、舞は肩を落とした。


「さーちゃん、キメて来たねぇ」


夜櫻は楽しそうに笑う。

とても目立つタイミングで、とても目立つ格好で、三人が入って来た。

三人とも、黒い上下のスーツをビシッと着こなし、角刈りで揉み上げの濃いカツラを被り、顔の半分を覆う様なサングラスを掛けている。

真ん中の三月兎は、何故か葉巻を咥え、右手にワイングラスを持っている。


「裕○郎か」

「○次郎だねぇ」

「裕次○ですね」

「西部○察懐かしいなぁ」


朝霧、夜櫻、フェイディット、幸村がそれぞれ呟いた。


「早苗さん…」

「叔母さん…」


陽輔と舞が感情の抜けた声色で、ポツリと呟く。


「そう言えばさぁ、ああ言う芸人さん居たよね」

「おったなそう言えば…」


皿子とマミが囁き会う。

小中高生の若い冒険者達は、元ネタが分からずにポカンと口を開けていた。


「今日はぁ、良いぃ天気だなぁおい」

「そうですねボス」


三月兎の野太い声に、カイトがこれまた野太い声で応える。

そのまま寸劇が始まった。

脇に控えるイーサンが、携帯型の小型サッシを取り出し、三月兎の顔の前に掲げる。


「こう言う日ぃぐれぇはぁ、事件も起こらずにぃ、のんびりしてぇもんだなぁおい」

「そうですねボス」


三月兎が、サッシの隙間を指で広げて、窓の外を見る様な仕草をした。

そしてストーリーは進んだ。


「つまりぃ、おやつを勝手に食ったのはぁ、おめぇだぁ!」

「すいません!」


イーサンが頭を下げる。


「何だろうねこれ」

「うん…」


皿子の呟きにマミが頷いた。

二人とも目が死んでいる。


「ボ、ボス!!」

「何じゃこりゃあ!」


更に寸劇は進み、トマトジュースが三月兎のお腹に零れた。


「色々詰め込んでるな」

「次は探○物語ですか」

「つくづく昭和だねぇ」


朝霧とフェイディットは呆れた様に呟き、夜櫻は愉快そうに笑んだ。

一方で、陽輔と舞は既に無表情である。


「ポウ!」


最後に、何処からか某キングオブポップの曲が流れて来て、三人で踊って終わった。角刈りのカツラのままで。


「終わったか」

「みたいだね」


朝霧と幸村が囁き合う中、他の者達は一言も喋らず、シーンとしている。

二人の囁く様な会話が存外大きく聞こえるぐらいには静かだった。

そして静寂が数十秒。

その間、注目を浴びていた三人は、最後の決めポーズから微動だにしなかった。

が、その静寂を突如破った者が居た。


「ちきしょう!全然ウケねえじゃねえか!!」


―ベチーン―!!


三月兎が突然カツラを脱ぎ、床に叩き付けて吼えた。

まるで人生を賭けた一大イベントに滑ったかの如く、魂の篭った叫びだった。

絶望感で四つん這いになる。


「あの、ただの打ち上げですよね」

「まぁその筈なんだが…」


舞と朝霧が話す。

朝霧も舞や陽輔達もどうせただの余興だと思っていたのだが、本人は違ったのだろうか。


「ぶふぅ、さーちゃんが、、滑ってキレた…ぶふっ!」


夜櫻が我慢出来ずに腹を抱えて噴き出した。


「夜櫻しぇんぱいしか笑ってねえじゃねえか!」

「いやあれ、ただの失笑っすよ」

「だから言ったじゃないっすか、ウケないって」

「うわあああああん!」


カイトとイーサンの指摘に、ドンドンと床を叩いて泣き出した三月兎。


ビキッ――


舞の額に青筋が浮いた。


「さて、早苗の余興も終わった事だし、始めるとするか」


三月兎の嘆きを無視した朝霧が乾杯の音頭を取った。

乾杯の音頭が終わった後、舞は俯いて表情が読み取れないまま、スタスタと歩み寄り、三月兎の正面に立つ。


「…舞…?」


まだ四つん這いの状態で顔を上げた三月兎の全身が粟立った。


に、っ、こ、り。


「叔母さん、ちょっとあっちで話そうか」

「「「ヒィッ!?」」」


カイトとイーサンも戦慄して固まっている。

朝霧すらも動揺する様な殺気が放たれていた。


「すみません、応接室借ります」

「あ、あぁ…」


陽輔が有無を言わせず朝霧に許可を取り付け、これまた感情の抜けた顔で舞の隣に歩いて行った。


「取り敢えず、運ぼうか」

「お、おう」

「う、うす」

「うんそうだねちょっと言いたい事有るからね」

「…」


何も言えず固まっている三月兎を四人がかりで応接室に運び入れる。

四人が出て来たのは二十分ほど後の事だった。

三月兎が出て来たのは、更に一時間程経った頃だったと言う。

側に知り合いが来ても気づかないほどに意気消沈して燃え尽きていたそうな。




数時間後。


「嫌だああああああああああああああ!!」


すっかり元気になった三月兎は、酒を飲みながらあちこち絡んでいたので、舞と陽輔に拘束されていた。


「離せええええええ!もっと飲むんだあああああああああ!!」

「流石にそろそろ帰りたいんですけど」

「嫌だあああああああああ!もっと陽輔と飲むんだああああああああああああああ!!!」

「叔母さん…」


舞の目からハイライトが消える。


「…舞ちゃん、帰る?」

「…そうだね」


二人の会話を聞いた三月兎は絶望の表情を浮かべた。


「そ、そんな…バカ、な…」


普通の大人なら、ほっといて帰っても問題は無かろう。

だが相手は三月兎だ。二人が居なくなって、何をどうするか分からない。

であるならば、一緒に連れ帰る方が良い。


「…早苗、諦めろ」

「しょんなあああああああああああ!!」


朝霧は引導を渡し、同時に思った。

一体どっちが保護者なのだろう、と。


「全くもう…」

「だってぇ、だってぇ…」


陽輔に拘束されて唇を尖らせる三月兎に、舞は溜め息を吐いた。


「ごめんね陽輔君」

「あぁ、まぁ、いつもの事だからね。もう慣れたし」


慣れると言う言い方も変な話だが、こう言う場で三月兎が大人しい訳が無い。


「どうせあと数年したら身内になるし」

「えっ?」


笑いながら玄関の前に来た陽輔は、舞が付いてきてない事に気付いた。


「…あれ?舞ちゃん?立ち止まってどうかしたの?」


気のせいか、舞の顔が少し赤い様な…?


「ほほーん、そうかそうか」

「…早苗さん?」


いつの間にか、三月兎も大人しくなっている。

そして、会場も、時が止まった様に静かになっていた。


「そんならしょうがねえな」

「えっ?」


陽輔の頭に疑問符が浮かぶと同時に、三月兎がにゅるりと拘束を解いた。

そんなに身体が柔らかいなら最初から、と言うか今の動き方は人体構造として有り得るのか。

まるで軟体動物の様だ。


「よっしゃ、けえるべ」

「えっ、あの…?」


目を瞬かせる陽輔に、三月兎はニタァと笑うと、扉を開けて外に出た。


「おう、二人ともさっさと来い。しぇんぱい、今日は楽しかったっす」

「あっ、し、失礼します!」


舞が皆に向かってペコペコと頭を下げ、外に出る。


「…何だったんだろう…?」


陽輔は頭を捻りながら続いて出て行った。




「よーくん、気付いてないみたいだったねぇ」

「案外近いかも知れないな」

「式?」

「ああ」

陽輔は無自覚です


舞は少しずつ覚醒していますが、一日以上反省させるのはまだ無理です


カイトとイーサンはとばっちり

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