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太陽の貴公子番外編  作者: みずっち
13/14

2018年4月中旬

早苗さんは懲りない

「うわあああああああん!」

「…」

「叔母さん…」

「やだあああああああああああ!」

「早苗さん…」

「はぁ…」


陽輔と舞は、二人揃って溜め息を吐いた。

目の前で、早苗が床に仰向けに寝転がり、手足をジタバタさせている。

リビングに早苗の叫びが轟いていた。


「陽輔君も予定有るんだから」

「レポートなんてこっちでも書けるじゃねえかよう」

「ファイル向こうに有るし、洗濯とか掃除とか色々有るんですけど」

「その後こっちに泊まれば良いじゃねえかぁ!」


また暴れ出した。

魂の叫びっぽい雰囲気だが、言ってる事、やってる事は只の駄々っ子である。


「どうせ昨夜(ゆうべ)は盛りのついた猫みてえにヤリまくったんだるぉお!?」

「言い方ぁ!」


早苗の叫びと舞のツッコミがリビングに谺した。

早苗の方は、何故か巻舌気味だったが。

正直捗ったのは否定出来ないので、表現に突っ込んだ訳であるが。


「じゃあお楽しみだったなって言やあ良いのか」

「そう言う問題じゃ無いと思いますけど…」

「じゃあどう言う問題だよ」


デリカシーの問題だろう。

開き直って膨れっ面されても困る。


「泊まってけよお、なあ」


寝転がったまま、今度は陽輔の袖を掴んだ。


「そんな事言われても…」

「もう、我儘言わないでよ」

「だってぇだってぇ」


陽輔の腕を左右に振りながら、早苗がリズムに合わせて文句を言う。

この人本当は幼稚園児ではないだろうか?


「元々、舞ちゃんがうちで祝ってくれる予定だったんですけど」


昨日は陽輔の誕生日だったので、元々の予定では舞がアパートに行く筈だったが。


「えー」


そんな事言われても。

早苗が口を尖らせた。


「そもそも拉致してきたの叔母さんでしょ」

「人聞きの悪ぃ事言うな、連れて来てやったんじゃねえか」


アレを拉致と言わずして何と言うのか。

舞が出掛けようとした時に、早苗が突然、うちで祝おうと言い出し、付いて来た。

アパートに着いたら扉を勢い良く開け、まだ荷物を準備中の陽輔を、神輿か胴上げの様に担ぎ上げ、強引に連れ出したのだ。

舞が慌てて靴とスマホと鍵を回収し、戸締まりを確認して追い掛ける事態になった。

たった一人で、わっしょいわっしょい言いながら、一人の青年を担ぎ上げる女性。

両腕を天に突き上げ、その上に陽輔が乗っていた。

重量挙げの様な格好だ。

一体この細腕の何処にそんな力が有るのか。

陽輔は疑問に思いながら運ばれた。


「恥ずかしかったわよぅ」


舞が眉間に皺を寄せながら溜め息を吐いた。

最寄りの駅までその運び方だった為、周りの人々にチラチラ見られていた。

早苗は上機嫌で陽輔を運んだ為、そう言う視線には気づいていなかった様だが。


「えー、だってぇだってぇ」


抗議を聞いても、駄々を捏ねる早苗。

二人の目から光が消えた。


(なんかわしゃわしゃ動いてるなあ)

叔母さん(コレ)って虫だっけ?)


二人とも似たような感想を抱き、目線を絡ませる。

同時に頷くと、示し合わせた様に動き出した。


「うわなにをするやめr」


二人がかりで振りほどき、舞が何処からか縄を取り出した。

これまた二人がかりで早苗をぐるぐる巻きに縛り上げ、リビングの隅に転がした。


「うわああああああああああん!!外せええええええええええええええ!!!」


水揚げされた直後の魚みたいにビタンビタンと跳ねる早苗を無視し、二人はさっさと玄関に向かった。

蓑虫みたいにぐるぐる巻きにしたが、早苗の事だ、いつほどくか分からない。

玄関に辿り着いた陽輔は、靴を履いて舞に向き直った。


「それじゃあまたね」

「うん。土日はそっちに行くから」

「分かった」


軽く触れるくらいのキスを交わすと、陽輔は素早くドアを開けて出て行った。


「あっ!ちくしょう、間に合わなかった!」


ドアが閉まると同時に早苗がリビングから顔を出した。

まだ五分くらいしか経ってない筈だが、もう拘束を解いたのか。

戦慄した舞は、悔しがる早苗を後目に、愛子にメッセージを送った。





数日後の土曜日。


「早苗、ちょっといらっしゃい」

「ぎゃあああああああああああああああ!」


風見家の離れに、早苗の絶叫が響き渡った。

よく聴くと、頭蓋骨の軋む音も混じっている。


「しぇ、しぇんぱぁい!た、たす、たすけ」


早苗の叫びは、無情にも襖で遮られた。


とあるひ孫「また何かしたの?」

とある曾祖母「あんな大人になってはダメですよ」

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