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太陽の貴公子番外編  作者: みずっち
12/14

ちょっとした傷(心)物語

御前をお借りしています。

「はぁ…」


私は溜息を吐いた。

原因は目の前のこの男だ。

まぁ、『男』と言っても私と同い年なんだけど。


「なぁ頼むよメリダ!アキバに連れてってくれ!」

「あのねぇハリル、そうおいそれと行ける訳無いでしょ?」


私より若干身長の高い彼は頭を下げ、私に両手を合わせて拝み倒して来る。

オレンジ色の短髪が、動きに合わせて上下に揺れる。

と言うか、どんだけ行きたいんだ、全く。


「どうせいつもの事でしょ」

「今度は本当なんだって!」

「…はぁ…」


もう何度目の溜息か。

昔からずっと続いてるコイツの悪癖がまた出たらしい。

やれやれ。

暑い季節が去り、秋の準備をする頃、アキバでは天秤祭と言うお祭りの準備をしている。

後数日で本番と言う事で、冒険者の方々も大地人の皆も浮き足立って賑わっているそうだ。

まぁこの情報はヤッホーさんたちから聞いた話なんだけど。

つまり、活気が出てきて以前よりアキバに行きやすいって事なんだけど。

それに便乗してアキバに行きたいって事だ。

付き合わされるこっちの気も知らないで。


「一生のお願い!」

「あんたの一生は幾つ有るのよ」

「今回は、今回は本当に本当なんだよ!」


頭が痛い。

一番古いのは五歳くらいの頃だ。

その時の相手はお姉ちゃんだった。

当然の様に軽くあしらわれて玉砕したけど。


「…はぁ…一応お姉ちゃんとヤッホーさんたちに聞いてみるけど…」

「やったー!サンキュー、メリダ!一生の恩人だぜ!!」


それも聞き飽きた。

あんたには一生が幾つ有るんだ。

毎回毎回、こっちが根負けするぐらいしつこい。

全く、私の気持ちも知らないで。





取り敢えず二人でお姉ちゃんを探す。

とは言ってもやる事(家事)は決まっているので大体の居場所は分かるんだけど。

案の定、敷地内の庭で服やなんかを干していた。


「お姉ちゃん」

「イザベラさん」

「あら、ハリル君じゃない。どうしたの?」


お姉ちゃんは手を止めてこっちを振り返った。

いつもは居ないハリルに目を向け、不思議そうに首を傾げる。


「お姉ちゃん…というか、ヤッホーさんたちに相談が有るんだけど…」

「ヤッホーさんたちに…?」

「うん…ハリルがアキバに」

「あの!どうしても会いたい冒険者さんが居るんす!アキバに行きたいんす!!」


おい。私の言葉を遮るな。

あんたはどうしてそう前のめりになるんだ全く。


「まぁ、一昨日シブヤに帰って来たし、今は出かけてるけど、帰って来たら聞いておくわ」

「やったー!イザベラさんありがとう!!」


はぁ……頭痛い…。


「今度は誰なのよ?」

「名前は知らねえ!」

「おい」


そんな自信満々に言う事じゃ無い!

これが冒険者の方々の仰る”ドヤ顔”とか言う物か。


「いや、でも三月兎さんの知り合いって事だけは分かる」

「へぇ、そうなんだ」


床掃除をハリルにも手伝ってもらいながら生返事を返す。


「お前何だよそのジト目は」

「べっつに~」


何でも、何日か前にその人がシブヤの近くに来てた時に見たらしい。

三月兎さん相手に念話していたそうだ。

他の仲間の方々と居る時に、三月兎さんの話題になって、その方が話していたのを聞いたと言う。

目敏いな全く。一体何人目なんだろうか。

生まれて十六年、既に二桁を超えている。


昔からそうだった。

ハリルは惚れっぽい性格で、大地人も冒険者も関係ない。

以前は、大地人と冒険者は意思疎通が出来なかったけど、<五月革命>でそれが出来る様になって変わった。

前は一種の憧れの様な感じだったけど、ちゃんと会話が出来るって分かってから、色んな冒険者様を観察する様になったらしい。

仲介を頼まれるこっちからすれば、はた迷惑以外の何者でも無い。





夜が明けて、ヤッホーさんたちに承諾を貰えた。

用事があるから、ついでに連れてってくれるらしい。


「今日の午後で良い?」

「はい!」


威勢のいい返事に、私はまたため息をついた。


「メリダちゃんは?」

「じゃあ…一緒に行きます」


放っておいたら、どんな暴走をするか分からない。

その事を考えると、他に選択肢は無いと思う。

まあ、ついでにアキバに遊びに行けると思えば、多少気は楽になる。

三月兎さんの所に行けば、父さんと母さんにも会えるし。

あれ?


「そう言えば、どうやって行くんですか?」


シブヤとアキバは、近いとは言え、大地人の徒歩だと一日ぐらいは掛かる。

街道沿いに歩いて、魔物を避ける為だ。


「え?普通にグリフォンで…」

「の、乗せてもらえるんですか!」

「え、い、良いんですか?」

「まあ良いんじゃない?」


ガックリさんの言葉に、ハリルが興奮した。

落ち着けと言いたいが、正直、私も驚いている。

確かに、空を飛んで行ければ速い。

そう言えばお姉ちゃんは、以前乗せてもらった事が有ると言っていた。

空を飛ぶのは怖いと思ったけど、同時に羨ましいとも思った。

お姉ちゃんにはヤッホーさんと言う名の良い人が居る。

まだ付き合ってはいないらしいけど、お姉ちゃんは満更でも無い顔をしていた。

でも私には、そんな人は居ない。

だから、まさか乗せてもらえるとは思わなかった。


「おう、じゃあ俺が君を乗せてってやるよ」

「あざーっす!!!」


ハリルがヤッホーさんに勢いよく頭を下げた。

そして私はガックリさんに乗せてもらう事になった。

今更だけど…良いのだろうか。


「じゃあ、昼飯食ったら行くか」

「そうだね。二人もそれで良いかな?」

「はい!」

「…はい」


あまりの展開の速さに、頷くしか出来ない。

冒険者って…恐いなぁ…。





空の旅は、結論から言うと、とても楽しかった。

普段は見た事の無い景色が、目の前に広がっていた。

思わず、ガックリさんとはしゃいでしまった。ちょっと恥ずかしい。

けど、ハリルは逆に腰が抜けていたらしい。

ずっとヤッホーさんにしがみついていた。


「ハリル…」

「な、何だよ」

「帰りも多分、空飛んでくよ?」

「うっ…」


ハリルが後ずさったのを見て、少しだけスッキリした。

いい気味だ。


「先ずはマーチさんとこか」

「はい!」

「はぁ…」


ハリルの元気が戻ったらしい。

なんか頭が痛くなって来た。

コイツ大丈夫だろうか。


「おぉ、メリダ」

「お父さん、お母さん、久しぶり」

「あら、どうしたの?」


三月兎さんと両親がリビングに居た。


「ハリルの付き添い」

「あぁ…」


お母さんがまたかと言う顔をした。

お父さんはホッとした顔をしてるけど、何故だろう?


「今度は誰だい?」

「三月兎さんの知り合いだって」

「おぅ?あたし?」


ハリルの会いたい人が三月兎さんの知り合いである事を話す。

そしてハリルが、外見とかの特徴を三月兎さんに話した。


「う~ん…先輩かなぁ…?」


どうやら、思い当たる相手が居るらしい。


「朝霧さんですか?」

「多分…」


ガックリさんと三月兎さんの会話を聞くと、どうやら冒険者の方々の間では有名な人らしい。

そう言えば、朝霧さんって、以前にヤッホーさん達から聞いた事が有る。

まさかそんな人が今度の相手だったなんて。


「あの、会えますか!?」

「う~ん…いつもなんか忙しそうにしてるからなぁ…」

「無理なら良いですよ」

「おいメリダ!?」

「だって、御迷惑掛ける訳には行かないでしょ?」


正直面倒くさい。

もう諦めてもらって、アキバ観光したい。


「あ、もしもし、先輩っすか?」

「なあ、メリダ」

「何?」

「アレが念話って言うんだよな?」


ハリルが、三月兎さんを指して耳打ちして来る。


「うん。遠く離れてても、会話出来るんだって」

「便利だなー」


噂によると、口伝と言う物で複数の人と会話できる方も居るらしい。


「普通は一人しか会話出来ないらしいけどね」

「ふうん」


まあ、それでも便利なのは間違い無い。


「連絡着いたよー」


雑談してたら、三月兎さんが念話を終えた。

どうやら、その人は今はギルドハウスに居るらしい。

話が有るなら、会ってくれるそうだ。

正直、断ってこのまま観光したい気分。

でも現実は非情だった。このまま会いに行く事になった。

うん、分かってたよ。





目的の家には、十分ほどで着いた。

割と近かったなぁ。


「メリダ?なんか遠い目してっけど、どうしたんだ?」

「べっつにぃ~」


さっさと終わらせたいんだよ、こっちは。

何だか、乾いた笑いが出そうだ。


「しぇ~んぱ~い!」


三月兎さんが玄関の扉を思いっ切り開けて叫んだ。

バコーンって大きな音がしたけど、大丈夫かな?


「相変わらず騒々しいヤツだなお前は…」


奥から、綺麗な人が顔を出した。

話には聞いてたけど、本当にお婆ちゃんみたいな年齢なんだろうか?


「いや~それほどでも~」


三月兎さんが嬉しそうに笑う…多分、誉めてないですよね。

周りにいる方々も、呆れたり苦笑いしてる。


「誉めてないぞ…で?私に話が有るのは誰だ?」

「コイツっす」


朝霧さんに促された三月兎さんが、ハリルの肩を叩いた。


「ハリル君、か、ふむ…で、話と言うのは何だ?」

「あ、あの、以前シブヤで、お見かけしたんですけど」


ギクシャクした挨拶だ。

まあ、私は見慣れてるけど。

いざ告白となると、いつも緊張するらしい。

行動力は有るのに。


「三月兎さんと、話してる所を、見ました!それで、あの…」


もどかしい。

さっさと言えば良いのに。


「あの、ひ、一目惚れ、です!」

「えっ?」

「えっ?」


三月兎さんと朝霧さんが固まった。

周りの方々も、一瞬固まった。

まあ、正直こうなる予想はしてたけど。


「も、もし良かったら、お、俺と、付き合って、くだ、しゃい!」


あ、噛んだ。


「あー、それは、つまり、本気の告白、と言う事か?」

「は、はい!」


朝霧さんが、困った様に眉間を揉んでいる。

と言うか、周りの方々は笑いを堪えてる感じなんだけど…一体どうしたんだろうか。


「あー、ハリル君…」

「はいっ!」

「申し訳ないが…お断りさせてもらう」

「えっ!?」


ハリルはショック受けてるけど、こっちからしたら当たり前だ。

そもそも、朝霧さんがハリルの事を知ってたか微妙だし。

確か、夫に息子に、孫まで居るって聞いた事が有る。

そんな人が、ハリルの告白を受ける訳無い。


「ま、孫ぉ!?」


あ、白目剥いて驚いてる。

私はヤッホーさん達から聞いて知ってるから、驚かなかったけど。

寧ろ、今度の相手が朝霧さんと聞いた時の方が驚きだった。


「すまないが、そう言う事でな…」


朝霧さん、そんな申し訳なさそうな顔しなくて良いですよ。


「ハリル、帰るよ」

「そ、そんなぁ…」


ハリルが、肩を落としながら、私の後ろを付いて来る。

いい気味だ。

アキバ観光でもして、振り回してやるか。





「なぁメリダ…」

「なあに?」

「まだ買うのか?」

「何言ってんの?まだまだこれからよ」


そんな嫌そうな顔したって駄目だからね。

今日はトコトン付き合ってもらうから。

そもそも、ガックリさんが<魔法鞄>に買った物を入れてくれるから、荷物持たなくて良いし。


「買い物楽しいもんね~」

「ねぇ~」


流石ガックリさん、話分かるぅ。


「ハリル…諦めろ…」

「…うす…」


全く、男子連中は買い物の良さが分かんないなんて。


「所でさ、メリダちゃん」

「何ですか?」


買い物中にガックリさんが小声で話して来た。

なんかウキウキなのが怖いんですけど。


「ハリル君の事、どう思ってんのぉ?」

「えっ」

「むふ~ん♪まっ、別に良いけどぉ♪」







…イッタイナンノハナシデスカ

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