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太陽の貴公子番外編  作者: みずっち
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ひよこと猫の茶会

2014年5月初旬。

ゴールデン・ウィーク終盤に、陽輔は<エルダーテイル>を立ち上げた。

GW序盤に宿題を終えられたのは僥倖だった。

戒斗の「図書館デートだな」と言う冷やかしに「それがどうした」と言ってやると、心底悔しがっていたので舞と2人で笑ってしまった。

一方の舞は、今日は女子連中に宿題の面倒を頼まれている。

GW中盤は母方の祖父母の家に遊びに行った。

とは言っても、それほど離れていないので日帰りでいつでも行ける訳だが、取り敢えず孫としてのノルマは果たした。

だからこそ、こうしてゲームに興じる事が出来るのだ。

普段ゲーム内で面倒を見てくれている早苗は仕事で出勤した。

何やらブツブツとぼやいていた様だが、まぁ気にしないでおこう。

戒斗は他の友人たちと遊びに行った。

彼はまだ宿題が終わってないハズだが、大丈夫だろうか。

後で泣きつかれる未来が見える。まぁその時は拒否するだけだ。自業自得である。

陽輔はその場面を想像し、くっくっと笑いながらアキバの街に降り立った。


「今日はダンジョン行きたいなぁ…」


Webで調べながら<ブリッジ・オールエイジス>の端に立つ。

今の自分(アバター)はレベル26になった。

あちこち初級クエストは有るし、この帯域のダンジョンも数多く有るが、そろそろパーティ戦闘も学びたい。

早苗には当初からパーティ連携を教わっているが、今は居ない。

この際だから、他の見知らぬ人とパーティを組んでみたいと言う欲求が有る。

検索すると、チョウシの近くに<ラグランダの杜>と言うダンジョンがヒットした。

どうやら、パーティ連携を学ぶには最適らしい。

ソロに慣れて来た初心者には手痛い歓迎が待っているとの事だ。

もっと稼ぎの良い近場も有るそうだが、折角なのでここにしようか。

テキストモードの吹き出しにダンジョンの募集を書き記す。


『ラグランダの杜・パーティ募集』


誰か来てくれるだろうか。

期待と不安が綯い交ぜになっている。

無論、来なくても別に構わない。

ソロでも楽しめるし、他の野良パーティに参加すれば良い。

まだ朝だし、気楽に気長に待てば良いのだ。


「おや、初心者の方ですかにゃ?」

「へぇ、レベル26か」

「おっ、班長と同じ職業だぜ」


たまたま通り掛かった3人から声が掛かる。

その内の1人に、陽輔は息を呑んだ。

エルダーテイルを始める時に調べた動画で、<盗剣士>を選ぶ切っ掛けになった相手。

猫人族、盗剣士、料理人、ステータスはありふれた物だが、名前と中身は他のプレイヤーたちと一線を画す。

にゃん太。<放蕩者の茶会>の保護者。戦闘班長。

一緒に居る2人も、シロエと直継だった。

<茶会>の参謀と、その相棒と名高い<おぱんつ守護戦士>――。


「ラグランダか。懐かしいなシロ」

「そうだね」

「これも何かの縁、折角ですから参加しますかにゃ」

「うん、久しぶりに行ってみようか。僕たちも参加して良いですか?」

「あ、はい!宜しくお願いします!」


陽輔は思わずモニタの前で頭を下げた。


「ポーション類は持ってますかにゃ?」

「あ、はい、一応…」


HPポーションはレベルに見合った初級用だ。

早苗が以前からちまちまとくれていたので、結構な数が有るが、まだ<魔法鞄>が無いので、持ちきれない分は銀行に預けてある。

MPポーションは持って無い。このゲームでは希少なアイテムだし、休憩を取れば直ぐに回復する。


「取り敢えず10個ぐらいで…」

「あそこってそんなに要るかなぁシロ…?」

「まぁ備えは大事だし、僕たちも何個か持ってくから、それで良いんじゃないかなぁ」

「それぐらい有れば充分だと思いますにゃ」

「そう言えば回復職って…」

「まあ、シロが居りゃあ何とかなんだろ!」

「「えっ…」」


呆れたシロエと心配する陽輔を直継が笑い飛ばし、出発となった。




<妖精の輪>を幾つか経由して、ラグランダの杜に辿り着く。


「なんか久しぶりだな」

「僕はちょくちょく来るけどね」

「シロエちは面倒見が良いですからにゃあ」


そんな雑談を傍で聞く。


「あの…」

「うん?」

「道が2つ有るって聞いたんですけど…」

「そうですにゃあ、難易度が低い方と高い方が有りますにゃ」

「おう、どっちがいい?」

「じゃあ、一先ず、難易度の低い方で」

「それじゃあ、右側だね」


シロエの言葉に頷き、スケルトン達を葬りながら、右側の道に進む。


「大丈夫、直継が引き付けてるから」

「はい」

「しっかしよ~、サナエさんの知り合いだったとはな~、ビックリ祭りだぜ」

「道理で、初心者にしては装備が揃っているはずですにゃ」


雑談を交わしながら、ダンジョンを進む。


「なんか色々くれるんですけど、たまに貰い過ぎて持ちきれない事が…」

「<魔法鞄>無かったらそうなるよねぇ」


シロエが苦笑した。

余った分は銀行に預けているが、もう色んな物が溜まっている。


「もうすぐセーフティゾーンだね」

「これが片付いたら、少し休憩ですにゃ」

「はい」


それにしてもサクサク進める。

こんなもんなのか?


「まあアタッカーが2人居るし、シロのサポートも有るからな」

「なるほど…」


直継の位置取りや挑発のテクニックも上手で、初心者の自分に負担が掛かり過ぎない様に数を調節してくれている。

にゃん太も、こちらの力量を読み取り、DPSやヘイトの調整をしてくれている。

シロエのサポートと相まって、師範システムを使っているとは言え、本当に4人ともレベル26なのかと思える程の成果を挙げていた。


「やっぱり、連携って大事ですね」

「そうですにゃあ」

「下手打つと、足引っ張り合ったりするしね」

「なるほど…」

「この休憩部屋が最後のセーフゾーンですにゃ」

「ボスイケるか?シロ?」


直継の問いに、シロエは10秒ほど沈黙したのち、口を開いた。


「上手くやれば、可能だと思う」

「勝率は?」

「5~6割ぐらい」

「それなら充分ですにゃぁ」

「腕が鳴るぜ」

「えっ!?」


陽輔はビックリした。


「シロはさ、レイドなら、勝率5%とかでも何とかしたりするんだよ」

「そ、そうなんですか…」

「もちろん、油断は出来ないけどね」


正直、5~6割と聞いて腰が引けていたが、5%なんて更にとんでもない。

やっぱり、一流のレイダーは違う。陽輔は驚くとともに感心してしまった。


「僕も…レイド、行けますか…?」

「もちろん」

「皆、最初は初心者祭りだからな」

「ご一緒出来るのが楽しみですにゃ」


3人に言われると、何だかその気になって来る。

いつか、<茶会>の皆と一緒に、レイドに参加出来る様になりたい。

陽輔は、モニターの前でフッと微笑んだ。




結局、ボスには1回返り討ちに遭った。

2回目で倒せたが、陽輔のレベルが31に上がってしまっていたのは笑い話だろう。


「いや~、苦戦祭りだったな。1回目は惜しかったけどな」

「まぁ、回復職が居ないしね」

「30までには、と思ったのですがにゃあ」

「立ち位置重要ですね…でも楽しかったです」


終了後の反省会だが、ギスギスした雰囲気は無く、寧ろ余韻で賑やかだった。

気が付けば、もう昼前だ。


「そういや腹減ったな」

「じゃあ、アキバに帰って来たし、解散で良いんじゃないかな?」

「僕はそれで良いです」

「では、そうしますかにゃ」


4人はそこで解散した。

陽輔は一旦ログアウトし、昼飯を食べた。


ピロン~♪︎


スマホにメールが来た。早苗からだ。


『夕方には帰るけど、どっかクエスト行かね?Σd( ̄∀ ̄)』


陽輔は、ふっと笑んでOKの返信を送った…。




その夜、知らない間にレベルが上がっていた陽輔に、早苗が文句を垂れた事を付記しておく。

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