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その6

 翌日からクーニャの持ち場が一つ増えた。

 クーニャは善意など持つものではないな。と、痛感していた。良かれと思ったことが裏にでる。これでは本末転倒だ。次からは絶対に余計なことをしないようにしようと心に重く誓った。


 いつもと同じように同じ時間にタイムカードを推し掃除カートを率いて、行きたくない持ち場へ一番最初に向かう。鉄扉の前には既に、昨日と同じ候補生のイランザとキューレイトが待ち構えていた。候補生は話には聞いていたが本当に時間通りにしかこない掃除婦にひいていた。

 ここは龍神様の不況を買ったお前が一番最初にここにいるべきだろう。と憂鬱そうに肩を落とした。候補生は予感していた。この掃除婦は絶対にやらかすと!!


 キューレイトだけが嵐の前の静けさのように優しく微笑んでいた。





 「おはようございます。龍神様、本日お休みどころを掃除させていただく候補生のイランザと申します。精一杯お役目果たさせていただきますのでよろしくお願いいたします。」

 鉄扉の奥に存在する四肢抑制された龍に、きびきびとした動きで朝から爽やかに龍神様に挨拶するイランザと、あろうことかその瞬間から黙々と勝手に掃除をはじめている掃除婦……。その様子にイランザは目を疑った。

 キューレイトもさすがに驚いたようで小さく声をもらしていた。そして慌てたように言葉を放つ。

「クーニャ。いけません。あなたはまず龍神様に挨拶をしなければなりません。龍神様は尊い存在です。まずは敬意を示さねばなりません。勝手に物事をすすめてはなりませんよ。」

 そのことに驚いたのはクーニャだ。昨日の今日でまた名乗らなければいけないのか。なんと無駄なことを……。そう思ったが素直に従うことにした。郷に入れば郷に従わなくてはならない。クーニャはあきらかに瞳を細め恫喝するように睨んでいる竜に向き合い

「クーニャです。掃除婦です。掃除します」

と頭を下げ言った。

 他のものはその先にあるものを待ち望み無言でクーニャを見つめていた。…のだが、その先の言葉がないというように彼は再び掃除をはじめてしまう。さすがはKY。

 一番抜いてはいけないものをあろうことか掃除婦は省いたのだ…。龍神様に対する敬意を…。

「おぃ。貴様。まさかそれで終わりでないだろうな?」

竜神が怒気を孕ませた声色で掃除婦を一瞥した。まるで汚らわしいものを見るような仕草だ。掃除婦は何かといちゃもんをつけてくる、この竜は嫌な奴だと、自分のことは棚に上げ呆れていた。だが、言い方が悪かったのかと思い言い直すことにした。やれやれ、全く面倒くさい竜だ。

「掃除婦のクーニャと申します。掃除をさせていただいてもよろしいでしょうか?」

実際はさせていただきたくないのだが、何故したくもないことでへいこらと頭を下げねばならないのか。世の中実に理不尽にできているものだと痛感していた。

 竜は掃除婦から流れてくる陰鬱たる気配に忘れていた怒りがせりあがってくる。

「貴様のような男にこの場所は任せられぬ。今すぐにでていけっ!」

怒り咆哮する竜に候補生はすくみ昨日と同じように後ろにたたらを踏んだ。掃除婦はそのことに息を飲み我に返った。

「あっはい。失礼いたします。」


あろうことか掃除婦は掃除婦でありながら、これ幸いとばかりに用具をすぐに掃除カートに引っ込め意気揚々と退出しようとする。

 掃除婦からはじめて流れてくる陽の気に……竜は肩透かしにあった気分にさせられる。

「待て待て待て待て。」

退出すべく動き始めるクーニャに竜は

「帰れと言われて帰る馬鹿がどこにいるのだ。そこは誠心誠意、謝罪をすべきところだろうが!」

と指導する。

まさかの龍神様からの直々のお言葉にキューレイトは内心で笑った。

「……私は一体、何に謝罪をすべき事柄だったのでしょうか?帰れと言われたから帰るのです。私の持ち場は本来ここではありません。本来であれば不必要な人材です。」

そしてキューレイトはクーニャの言葉に内心で激しく苦笑う……。

「クーニャ。あなたは龍神様の信頼を裏切りました、だからこそ名誉を挽回せねばなりません。龍神様はこの国にとって絶対的な存在です。同じ土俵で考えてはなりませんよ。私たちは龍神様によって守られこの国は宗教国家として成り立っているのです。龍神様がいなければこの国はとっくの昔に砂漠に飲み込まれていたでしょう。神の御使いになんたる口の聞き方か、反省せねばなりませんよ。」


 一人と一匹に叱られ掃除婦は非難に満ちた瞳を送り返す。


だったら最初から帰れなどと言わなければいいのに。

この竜は本当に性根がよろしくない…と瞳を床に落として思う。クーニャのこのわかりやすすぎる態度にキューレイトは頭を少しばかり抱えたが…。


 だが、同時に安堵もしていた。今、この竜、イーディクオンツの頭をしめているのは亡き番のことではなく、愚かな掃除婦のことで竜は頭を悩ませ心をしめている。


 怒りは時として、絶望からその身を救いあげることがある。決して美しい感情ではないが、それでも今はそれでいい。

 イーディクオンツに必要なのは番以外の存在を思い出させることなのだから…。


 生きていくために忘れなければならないこと


 捨てなければいけないもの


 乗り越えなくてはいけないものがあるのだ……。



 今が勝負時なのだとキューレイトは理解していた。


 このKYが持つものはイーディクオンツには必要なものだと……。

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