不可解なストーキング
その後、留美は携帯電話のアドレスを何度も変えたが、差出人のないメールは全く途絶えることはなく、むしろ内容はエスカレートしていた。
『今日の収録での君が一番素敵だった。あれは僕に対するウインクだよね?分かってるよ。』
『僕は下着の色はピンクよりも白が好きだ。』
などとまるで近くで見ているかのような内容だった。
泉は自分たち担当のマネージャーに相談し、マネージャーと事務所の社長が『こすもおーら』が使った楽屋や事務所、留美の自宅に盗聴器が仕掛けられているか調べたがそれもなく、ただ不審なメールが送られてくる一方だったので途方に暮れていた。
「もー!気持ち悪い!」
留美は始めは怒っていたが、メールの着信音を聞くたびに怯えだした。
『大丈夫。僕はずっとRumiの味方。ずっとずっとそばで見守ってる。』
「もう、ヤダ…」
留美は携帯電話を見るのが怖くなって、携帯電話の電源を切ったが、留美の携帯電話はいつの間にか電源が入った状態になってしまってメールをどんどん受信していた。
警察に被害届を出したり、留美にマネージャーがつきっきりで警戒したりもしたが、メールはそれらにも関係なく受信していた。
そんなある日、『こすもおーら』のプロデューサーの三輪宙人が事務所にやって来た。
「留美、元気ないね。どうしたの?」
泉とマネージャーが一連の出来事を話した。
「んー、留美、ケータイ見せて。」
留美は三輪に携帯電話を渡した。
三輪は留美の携帯電話を手のひらに乗せてじっと眺めていた。
「なるほどね…」
三輪は携帯電話を軽く握って2秒ほど目をつぶり、留美に携帯電話を返した。
「とりあえず、これでメールは来ないよ。ただ、こちらも何とかしなきゃね。」
そう言って三輪は事務所を出ていった。
後に残された『こすもおーら』の4人とマネージャーと社長はポカーンとしていた。
「三輪さん、何しに来たんだろう?」
状況が分からず、みな顔を見合わせた。
それから2日間、留美の携帯電話に不審なメールは来なかった。
「三輪さんのお陰なのかな?『三輪マジック』だね。」
「留美良かったじゃん。でも、合コンはもうダメよ!」
「留美ちゃん、元気出して。」
樹理奈と泉と詩織が留美を励ました。
留美を含めて4人とももう大丈夫だと思っていた。
しかし、3日後留美の携帯電話はまた不審なメールを受信した。
『Rumi、ハァハァ…やっと…ハァハァ…来れた…待ってて、もっと側に行ってあげるから!』
留美は恐怖で声が出ず、固まっていた。
「失礼します。」
スーツをビシッと着こなした男が事務所に入ってきた。