こすもおーら
樹理奈は5年半ほど前の高校1年になった直後、親友の前川泉とショッピング中に2人で芸能事務所にスカウトされた。
樹理奈は成績は悪くなく、両親も樹理奈に大学に進学して就職して欲しいという思いがあったので、当初は芸能界入りを反対していた。
しかし、樹理奈は泉と一緒なら芸能界に入りたいという思いが強く、また泉も樹理奈と同じ気持ちだったので、2人でお互いの両親を説得して芸能事務所と契約することにした。
芸能事務所に所属しているからといって簡単に仕事が入ってくるわけではなかった。
ドラマの脇役やモデルのオーディションを受けても返ってくるのは不合格通知だけだった。
そんな中、新しいアイドルグループのオーディションがあると聞いて泉と2人で受けに行った。
『これに落ちたら芸能界を諦めよう。』
そう思っていたが、樹理奈と泉は2人揃って合格した。
他に合格していた日野留美と恩地詩織と4人で結成されたのが、アイドルグループ『こすもおーら』だった。
樹理奈はJuri、泉はIzu、留美はRumi、詩織はShioという芸名で泉をリーダーとしてデビューした。プロデューサーの手腕もあって、デビュー曲『COSMOの彼方へ』が大ヒットした。
また、『姉御のIzu』、『知性派のJuri』、『みんなの妹、Rumi』、『なでしこShio』といったそれぞれの性格を生かしたキャラがバラエティー番組でもウケて『こすもおーら』は瞬く間にアイドルの頂点に登りつめた。
樹理奈は両親に勉強もちゃんとするように言われていたので学業と芸能活動を両立させるのに必死だったが、『こすもおーら』の人気が上がるにつれて仕事もどんどん増えていった。
そんなある日だった。
「何これ…」
歌番組のリハーサル前、楽屋で携帯電話を見ていた留美が驚いた顔で言った。
「どうしたの?」
樹理奈が聞いた。
「『昨日の合コンは僕への当てつけかい?』だって。差出人も表示されてないし、気持ち悪い…」
「また合コン行ってたの?週刊誌に狙われてるって社長に言われたばっかりじゃない!」
泉が言った。留美は世間ではブリっ子の妹キャラで通っていたが、実はかなりの男好きでしょっちゅう合コンに出向いていたのだった。
「だって、呼ばれたんだもん。」
留美は悪びれる様子もなかった。
「アドレス変えたら?」
優しい口調で詩織が言った。
「めんどくさい。」
留美が冷たく言いはなった。
「でも、また変なメール来るわよ。」
樹理奈が言った。
「…仕方ないか。」
留美がそう言った直後、樹理奈たちの出番が来てスタッフに呼ばれて楽屋を出た。
リハーサルが終わって楽屋に戻ってくると、
「『今日の衣装、とても素敵だ。』だって。何なのこれ!マジキモい…」
携帯電話のメールをチェックしていた留美が言った。