ペアネックレス
「で、その『あやつ』ってたぶんダイヤだよね?」
『路傍園』でラーメンをすすりながら貴司が言った。
勇太は前日の自宅での出来事をみなに話ながらお昼ご飯を食べていた。
「俺もそう思うんだけど、肝心なところで話をはぐらかされるんだ。」
勇太が言った。
「まさか、あの安倍晴明が式神になるなんて。」
あきが言った。周りには5人の会話が普通の会話に聞こえるよう術をかけていた。
「本当に…ビックリしたよ。」
勇太はあきと目があった。勇太はドキッとしてあきと目をそらしてしまった。
『変に思われたかな…』
顔が赤くなってしまっているかもと勇太が気にしていると、
「今、安倍晴明は勇太の近くにいるのか?」
と海斗が聞いてきた。
「いないよ。『この時代の様子を探ってくる』とか言ってどっかに行ってしまった。結構、勝手なんだよ。」
「そっか、色々話聞いてみたかったんだけど残念だな。」
貴司が言った。
「今度、大学にもついてくるって。」
勇太が言った。
「文子先生、今日は入試に行ってて良かった。でも
、明日帰ってくるのよね。」
樹理奈が言った。
助手は今日、地方の大学入試の会場に試験監督に行ったので、助手とは顔を合わせずに済んだ。
それに、今日は魔術修行で『扉の空間』に召喚されなかった。
「ロードから何もメール来なかったし。」
「モリオンからもまだないんだよ。修行なかったこと聞いたんだけど…」
貴司が言った。
「大林もメールしてるのか?!」
海斗が驚いて勇太と顔を見合わせた。
「魔術師がケータイのメールしてるって…」
勇太も驚きだった。
「人間界に何かしら仕事で出てきているjewelsはケータイを持ってても不思議じゃないわ。」
あきが言った。
「それに、文子先生のこともだけど、むこうから何かしてくるまで待っても良いと思う。」
「ただいまー。」
研究を終えて勇太は夜8時前に帰宅した。
部屋にはまた晴明がベッドの上に座って待っていた。
「遅かったな。」
「研究だよ。」
勇太はカバンを床に置いた。
「何か面白いことあった?」
「主よ、そなたは貴族ではなかったのか?」
「えっ?!」
突然晴明が予想外のことを言ったので勇太はビックリした。
「小さいながらも屋敷に住んでいるから貴族の端くれだと思うていたが、この程度の屋敷はゴロゴロ建っておるし。」
「今は貴族とかそういう身分の人、いないけど。」
身分制度が廃止されていることを晴明に説明しようか、説明しても理解してもらえるのか勇太は悩んでいると、
「これを身につけて欲しい。」
そう言って晴明は袖から金色の物を取り出した。
「これは?!」
勇太は受け取って眺めていた。
「金の五芒星の首飾りだ。わしもつけておる。主の知識と魔力をより共有しやすくしようと思ってな。」
晴明は自身の胸元の五芒星のネックレスを勇太に見せた。
「これ、本物の金なの?」
「あぁ、そうだ。この時代はあちこちに金があるな。少しずつ失敬したわ。」
「あちこち?」
勇太は電子機器にも金が使われていることを思い出した。
『後は、誰かの金歯とかからもかな…』
勇太はネックレスをつけるのを一瞬ためらった。
『これって晴明とペアなんだよな…』
彼女ができる前に晴明とペアネックレスをするなんて…そう思いながら渋々ネックレスをつけた。
「これで良い?」
「あぁ、これでこの時代に対応できる。」
そう言って晴明は勇太のネックレスの五芒星の部分に手を当てた。
「他の者には見えぬようにした。」
「えっ?!何で?」
「明らかにわしと繋がっていることが分かってしまうであろう。主の首飾りを介して何か悪用されぬためにな。念のためだ。」
勇太にとって周りに見えないようにしてもらう方がありがたかった。
『晴明とペアって、ちょっと恥ずかしいよな。どっちが主だか分からないよな。』