式神
「何で俺の部屋にいるの?」
勇太は椅子に座って聞いた。
「あやつめ、わしに成仏できぬ呪いをかけておったわ。」
晴明が言った。
「行くあてもなくさまよっていると、わしの魂はこの屋敷に引き寄せられたのだ。なるほど、そなたの屋敷だったのだな。そなたの気配がかすかに残っていたから納得したのだ。 」
「そういえば、『あやつ』って誰?」
勇太が聞いたが晴明は話を続けた。
「この狭き部屋に入るとわしを引き寄せていた物があったのだ。」
そう言って晴明は胸元から何かを取り出して勇太に見せた。
「これは…?!」
勇太は本棚を見た。いつも置いてあるはずのアンモナイトの化石がなぜか晴明の手のひらにあったのだ
。
勇太は晴明から取り上げようとしたが、晴明はまた胸元に入れてしまった。
「やはり、そなたにとって大事な物か。」
「そうだよ。返して。」
晴明は勇太に向かってニヤリと笑った。
「わしはこれを媒介にして今、こうやって具現化されておる。」
「えっ、どういうこと?!」
晴明とアンモナイトの化石とどう関係があるか勇太には理解できなかった。
「これを媒介にしてわしに残っているそなたの魔力でわしはこの姿を保っているのだ。」
「何で俺の化石で?」
「ほう…化石と言うのか?」
晴明はまた胸元からアンモナイトの化石を取り出して珍しそうに眺めていた。
「大昔のアンモナイトっていう生物の死骸が石になったんだよ。じいちゃんにもらったものなんだ。返して欲しいんだけど。」
「なら、尚更わしの媒介に相応しい代物というわけか。」
晴明はアンモナイトの化石をまた胸元に入れた。
「どういうこと?」
晴明はまたニヤリと笑った。
「わしは今、そなたの式神なのだぞ。」
「えっ…?!」
勇太は晴明が何を言っているのか分からなかったが、図書館で読んだ陰陽術の本を思い出した。
『式神…媒介を通じて使役する…自身の思い入れのある物を媒介にするとなお良い…術式は…属性は問わない…』
「やっと理解できたか。」
晴明はニヤリと笑って言った。
「さっき野上さんに教えてもらった式神の作り方は媒介は紙でも何でも良いって言ってたけど…そっか、『思い入れのある物』か。」
「そういうことだ、『主』よ。」
『主』と呼んでいるくせに相変わらず上から目線だなと勇太は思った。
「でも何で?生きることに固執してなかったって聞いたけど?」
晴明が一瞬驚いた顔をしたが、
「千年たった現代を堪能してから成仏するのも悪くないだろう。主の肉体を乗っ取ってではなく、式神としてなら問題ないであろう。それに、」
といつものニヤケ顔に戻った。
「『あやつ』にも物申したいからの。」