ピンチ
「始まってる。あの人が…?」
「あぁ、仮説通り。安倍晴明だ。すごい魔力だな。」
アクアマリンとボサボサの髪に黒ぶちの円い眼鏡をかけ、無精髭を生やした白衣の男が『光と闇の空間』に現れた。
「手を出してはいけないわ。晴明様からの命令なのよ。」
ルビーが2人の前に立って言った。
「だってさ、モリオン。」
アクアマリンは男に言った。
「ふーむ。ウチの弟子はちゃんとやってるようだな。」
モリオンは貴司を見て言った。
「貴司、精神に入れてるヤツとの繋がりをもっと増やしておけ。魔力が切れそうになったら補充してやるから。」
「モリオン?!来てくれたんだ!分かった!」
貴司はうれしそうに言った。
「ダメよ、モリオン。」
ルビーがきつい口調で言った。
「しかし、かなり強引なやり方だな。」
モリオンがルビーに言った。
「『器』の適合者があの少年だったとはいえ、お前たちらしくないな。」
「確かに。」
アクアマリンも言った。
「このままでは金属中毒は倒せない。晴明様の力が頼みの綱だ。タイガーアイやオニキスがいないことがこちらにとってどれだけ痛手なのが分かるだろ?」
クォーツが言った。モリオンは黙っていた。
「ガーネットも行方不明のままだし。」
ルビーも言った。
「今は戦いを見守るだけだ。あいつらがどんなに頑張っても晴明様優勢には変わりないが。」
クォーツが晴明たちの方を見た。
「なんで俺なんですか?」
精神の中で勇太は晴明に聞いた。
「そなたとわしの魔力が同じだからだ。」
「同じ?」
「質が同じと言っておこうか。わしの魔力はかなり特殊なのだが、そなたの魔力が全く同じだったのだ。それで、そなたの魔力は今、わしに流れ込んでわしの力の一部となっている。」
「はぁ…」
「さて、そろそろやるか。」
晴明はニヤリと笑って海斗たちが映し出されている方を見た。
勇太も黙って固唾を飲んで見ていた。
晴明はニヤリと笑ってあきに向けて魔力を放ち攻撃した。
あきは魔法陣で防御したが、晴明からの攻撃は魔法陣をバキバキと音をたてて破壊した。
あきは驚いた顔をしたが、防御を失って攻撃をくらって倒れてしまった。
「うっ…」
「うそ…野上さん!?」
樹理奈はあきに駆け寄ろうとした。
「ダメよ…持ち場を離れちゃ…大林君たちは防御できない状態なのよ…」
あきは苦しそうに樹理奈に言った。
「何、今の術?」
アクアマリンがモリオンに聞いた。
「あぁ。かなり厄介な術だな。メインは光属性の攻撃だろうが、他にも色々な属性の術を複雑に組み合わせているようだ。あれを攻略するにはかなり時間がかかるだろう。」
「そうだけど、ヤバくない?あきが倒れたら?」
「あぁ、あきが倒れた以前に今のところかなりピンチだ。」
「これで分かったか?」
クォーツがアクアマリンとモリオンに言った。
「野上さん!」
精神の中で勇太もあきが倒れたことに驚いていた。
「そなたの女だったか?すまなかったな。」
晴明は涼しげな顔で言った。
「女って…違うけど…研究室の仲間なんだ…いつも助けてくれてるのに…俺の魔力で攻撃したの?」
勇太が聞いた。
「あの女はそなたの魔力を減らすために攻撃してきている。それで半分はそなたの魔力を使わせてもらった。」
晴明はまたニヤリと笑った。
「そんな…」
勇太は再び海斗たちが映し出されている方を見た。
海斗と貴司は目をつぶったままだったが、何か術を発動させていることは分かった。
あきはよろよろと立ち上がった。
樹理奈はあきを気にしながらも、晴明の攻撃を警戒しているようだった。
「もう…俺の仲間を…傷つけないでくれ!」
勇太が叫んだ。