魔術
勇太たちは大学の近くのハンバーガーショップに来た。
みなで2階の一番奥のテーブル席に座った。自分たち以外誰もいないのがラッキーだと思った。
テーブルには人数分のジュースとフライドポテトとオニオンリングが置かれている。
みなあきが口を開くのを待った。
ようやく、
「あの人たちは魔術師なのは理解できた?」
と聞いてきた。
「理解するしないじゃなくて認めざるを得ないというか…」
貴司が言いかけて口ごもってしまった。
「たぶんみんな同じ気持ちだろ。」
腕組みして海斗は勇太と樹理奈な見ながら言った。2人とも頷いた。
「何年かに1度、あの人たちは自分たちの世界にこちらの世界の人間を呼んで魔術を教えている。それが『扉を開ける』ということね。」
あきは続けて説明した。
「魔術のことは他言無用。もし、私たち以外の誰かに漏らしたら言った人間と聞いた人間の魔術に関する記憶が消される…」
「あっ、ダメなんだ!」
樹理奈が口を挟んだ。
「美紗に自慢しようと思ってたのに〜!」
女ってすごいな。こんな状況でもポジティブでいられるなんて…と勇太が感心していると海斗が真剣な顔で、
「で、続けて。」
とあきを促した。
「魔術ってたぶんみんなの想像通りのものだと思う。例えば手を使わずに物を浮かせたり、動かしたり。魔術修行は向こうの世界ですることになるけど、魔術が使えるようになってもこちらの世界では使ってはダメ。」
勇太は魔術を使えるようになったら色々便利になるのかもと淡い期待を抱いていたが、見事に打ち砕かれてしまった。
「でも、魔術師にはランクがあって、こちらの世界の魔術が使えない、つまり普通の人間は石ころ、魔術師見習い、初級魔術師、中級魔術師、上級魔術師がある。あの人たちは上級魔術師の中のjewelsと言われる特別にこの世界でも魔術を使うことを許されている人たちなの。」
それがさっき言っていたjewelsの権限ということか…勇太は少し羨ましく思っていると、
「魔術を使ってはいけないのになぜ魔術を教えようとしてくるんだ?!」
海斗が聞いた。確かに矛盾していると勇太も納得してしまった。
「仲間を増やすため。」
あっさりした答えに勇太は少し拍子抜けてしまった。
「修行は半年から1年くらいで、その期間までに上級魔術師入りしなきゃいけない。もし、なれなかったら魔術修行中に得た魔力が奪われて記憶も消される…」
「はぁ、なんだよそれ!」
海斗は怒って立ち上がって叫んだ。
「海斗、落ち着けって。人に聞かれちゃまずいんじゃ…」
と勇太は海斗の腕を引っ張りながら周りを見回したが、まだ自分たち以外誰も2階には上がってきていなかった。
「大丈夫よ。人払いしているから。」
あきが当然の様に言った。
「人払いって…まさか魔術…?」
樹理奈が恐る恐るあきに聞いた。
あきは頷いた。
「あら、早速使ってんじゃん!」
いつの間にか勇太たちのテーブルの前に人が立っていた。
みなビックリしてその人の方を見た。
見覚えのある顔だ。ツインテールに黒と紫を基調としたゴスロリファッションの勇太たちと同じくらいの女の子だ。
「さっき、会ったじゃない!服装替わったから分からないとか?」
勇太はハッとした。真っ白な空間で白衣に紫色の袴を履いていた女の子だ。よくしゃべっていたので印象に残っている。