ラーメン
休みを挟んで、いつものように魔術修行が始まった。ペリドットとの修行もあと数回だった。
今朝までにあきと樹理奈からメールが来ていた。
どちらも研究室メンバーに向けての一斉送信だった。
あきからは、
『ライブラリーに潜入したことは私たちだけの秘密にして下さい。』
という内容だった。要するに、師匠たちには漏らすなということだ。
樹理奈からは、
『雅子のダークコアを抜く儀式成功だって!\(^o^)/
よかった!("⌒∇⌒")』
という内容だった。たぶんロードクロサイトからメールで教えてもらったんだろうなと勇太は思った。
勇太は2人に対して、『了解!』の3文字を返信した。
「大分、魔法陣を使えるようになってきたな。この調子だと上級魔術師もすぐだな。よし、休憩するか。」
ペリドットがいつものように座って勇太にチョコレートを差し出した。
ペリドットもチョコレートを頬張りながら、
「なぁ、ラーメン好きか?」
と聞いた。
「ラーメン?好きだけど。」
勇太は幕末生まれのペリドットがラーメンを知っているのに驚きだった。
「この前、150年くらい久々に人間界に行ったんだ。以前からラーメンってうまい食い物があるって聞いてたからターコイズと食ってきたんだけど、めちゃくちゃうまかった!ほら、お前が学んでいる大学のそばの…」
「『路傍園』だね。俺も行ったことあるよ。」
勇太は路傍園には海斗や研究室メンバーと何度も行ったことがあった。
「あそこのラーメンもおいしいし嫌いじゃないけどもっとおいしいところ知ってるよ。」
「えぇ?!あれよりうまいラーメンがあるのか?!」
ペリドットはかなり興奮していて声が大きかった。
「ウチの近所の『いっちゃん』ってところなんだけど…」
「『いっちゃん』…」
ペリドットが真剣な顔でメモをしていた。
「メニュー全部がおいしいけど、『ホルモンラーメン味噌』が1番のオススメ。」
「ホ…ホルモン?」
ペリドットはホルモンを知らないようだ。
「っていうか…もしかしてその格好で食べに行ったの?」
ペリドットの格好だと神社で働いている神主のようなので、ラーメン屋に入ると浮くだろうなと勇太は思った。
「ちゃんと今の時代に合った人間界用の装いも持ってるさ。『扉の空間』では装束を着なきゃいけない決まりでな。それより、そのホルモンラーメンとやら、お前と一緒に食べに行きたいな。」
「もちろん、いいよ。」
人間界用の服装があるなら一緒に行っても変に注目されることがないので勇太も安心だった。
そして年末、ペリドットとの最後の修行が終わった。
「中級魔術師は終了だ。1ヵ月空くが、上級魔術師に昇格だ。他のヤツらも同じだそうだ。ちなみに、今後お前の師匠はクォーツがするそうだ。」
「うっ…そうなんだ…」
勇太はクォーツ以外が師匠になってくれることを期待していたが、見事に外れてしまった。
「ハハハ!残念だったな!でも、クォーツは俺なんかよりもランクが上の魔術師だし、かなり長く生きてるからな。色々学べることもあるかもな。
」
そう言ってペリドットは勇太に手を差し出した。
「勇太、4ヵ月足らずだったけどありがとな。」
勇太は差し出された手と握手した。
「そんな…こちらこそありがとう。本当はまたペリドットに師匠してもらいたかったけど。」
勇太の本音だった。
「気持ちはものすごくうれしいさ。ところで、ちゃんと前渡したヤツ、持っていてくれているよな?」
勇太は一瞬、何のことか分からなかったが、以前ペリドットから渡された黄緑色の巾着のことだと気づいた。
「ほら、ちゃんと持ってるよ。」
勇太はポケットから携帯電話を取り出してストラップ代わりにつけている巾着を見せた。
それを見たペリドットは安心した顔をした。
「それは時が来たら開いてくれ。」
「時が来たら…?」
いつのことだか分からなかったが勇太は頷いた。
「そうだ!ラーメン、いつ行く?」
勇太はペリドットとラーメンを食べに行く約束を忘れてなかった。
「人間界は年の瀬はなにかと忙しいだろ?落ち着いてからでいいさ。」
ペリドットはそう言ってニッコリ笑った。
勇太にはその笑顔が寂しげに感じた。
『俺も寂しいよ…本当にペリドットは俺にとって『師匠』だったな…』
そう思っていた時、
「じゃあな、勇太。元気でな。」
と言って勇太を人間界に帰した。
「本当に…ありがとう…お前に会えて良かった…」
ペリドットはそう呟いてその場に立ちつくしていた。