先客
図書館は暗く、シーンと静まり返っていた。
あきを中心にした魔法陣が足元に現れた。
「移動式の魔法陣よ。私から離れないで歩いて。この中だったら普通の会話なら問題ないわ。」
入り口に立っている『ジルコニア』はこちらに気づいていないようだ。
勇太たちは奥の禁書の棚へと近づいて行った。
あきが足を止めた。
「まずいわ。」
あきが言った。
「どうしたの?」
貴司が顔を強ばらせて言った。
「誰かいるわ。禁書の棚に。」
昼間、禁書の棚の前は霧がかってぼんやりとしか見えていなかったが、今は霧がなくなって禁書の棚がはっきりと見えていた。
「どうする?」
海斗があきに聞いた。
「様子を見ましょ。クォーツとかだったら潜入がバレてしまうわ。」
勇太には誰かがいるかは全然分からなかったが、目の前に禁書の棚が見えているのに何もできないのが歯がゆかった。
「今日は止めといた方がいいわ。日を改めましょ…」
あきがそう言ったとき、禁書の棚の方から声が聞こえた。
「…星が…出た…引き続き…」
女性の声のようだ。
あきの表情が変わった。
「戻るわ!」
そう言ったと同時に海斗の部屋に戻っていた。
部屋には勇太たちの偽者はいなくなっていた。
「どうしたの?」
勇太が聞いた。あきは深刻な顔をしていた。
「バレてたとか…?」
貴司も聞いた。あきは首を横に振った。
「おかしいわ…さっきの、マーキュリーの声だった。」
「えっ?!」
「どういうこと?」
勇太たちは驚いた。図書館に潜入したら敵がいるなんて想定外だからだ。
「魔術界に金属中毒が入ることが出来ないはずなの。」
「聞き間違いとか…」
樹理奈も心配そうに言った。
あきは考え込んでいた。その様子を見てみな不安になってしまった。部屋の雰囲気が暗くなった。
「考えても仕方ない。バレてないのなら良かった。飲みなおそう!」
海斗の一声で忘年会が再開し、お酒が進むごとに不安が消えていった。
結局、明日は休みということなので、勇太と貴司は海斗の部屋に、あきは樹理奈の部屋に泊まることになった。
「誰か来たわね。」
勇太たちが図書館を去ってしばらくして禁書の棚の前でアメジストが言った。
「あぁ、予想が当たったな。裏切り者がいる。」
クォーツが禁書の棚の本を見て言った。
「この罠を消せるのはjewelsレベルだな。リチウムの闇魔力核を抜く儀式で人手がそっちに集中するのを知ってて忍び込んだ、しかも水銀が落ちてる。水銀が関わってる… 厄介だな。」
棚の前に銀色の液体が落ちていた。
アメジストが銀色の液体をチラッと見た。
すると、液体が燃えて跡形もなく消えてなくなった。
「マーキュリーは何を探していたのかしら?」
「『星』が現れたから『星』の本当の意味を知りたかった…とか。」
「ここにはないのに。ってことは『星』が現れたことヤツらに知られたのかしら?」
「そう見た方が良さそうだな。」
「まずいじゃない!しかも1ヵ月も修行休ませるって!」
「フラーレンからそう言われたから仕方ないだろ。対策としては見張りの強化と、『星』には俺が師匠になる。」
アメジストが意外そうな顔をした。
「クォーツ様直々の指導ね。怖いわ。」
「からかうな。後、フラーレンにも動いてもらわないとな。」
そう言ってクォーツは腕を軽く振った。すると、禁書の棚の前に霧が現れた。
「目星はまだついてないのね?」
「マーキュリーと繋がっているのならそう簡単には見つからないだろ。悟られないように慎重に探すぞ。」
2人は禁書の棚に背を向けると姿を消してしまった。