潜入
「分からないわ。」
あきが答えた。
「忍び込めないかしら?」
樹理奈が言った。みな驚いた。
「原田、酔ってるな。」
海斗が言った。
「んー、酔ってるかも!でも、色々と隠し事ばかりされてもね!中島君も気になるでしょ?」
樹理奈が勇太にふってきたので勇太も少し戸惑いつつ、
「確かに、あの星マークの意味がすごく気になるけど、調べようがないし…」
「図書館に忍び込んで禁書の棚の所まで行ければいいのよね。」
あきが言った。
「野上さんまで!」
貴司もあきが大胆なことを言い出したので驚いていた。
「ジルコンの見張りと罠をどうにかすれば大丈夫よ。」
あきが平然と言った。
「ジルコンの見張りって…確か僕たちを敵から守ってくれているって…近くにいるの?」
貴司が言った。あきは頷いた。
「私たち1人ずつについているわ。5体がこのマンションの外にいるのよ。図書館の入口にいたのもそうよ。陰陽術の『式神』って言うんだけどジルコンのは『ジルコニア』って呼ばれているわ。」
『式神…』
勇太が図書館で見た本にも書かれていた。
「見たことないけどな。野上には分かるんだな?」
海斗が言った。あきは頷いた。
「潜入するなら『ジルコニア』たちを出し抜かなきゃ。野上さん、やろうよ!」
樹理奈は1人ノリノリだった。
「さすが芸能界で生き抜いてただけあるよな。根性あるな…」
海斗は呆れながらビールを飲んでいた。
「…俺も、知りたい!」
勇太は勢い余って叫び声になってしまった。
海斗と貴司は驚いたが、
「勇太がそう言うならやってみるか。」
「何かドキドキする…」
と勇太に賛同した。
「『ジルコニア』たちは私が何とかしてみるわ。魔法陣、いくつか教えるから。みんなで輪になって手を繋いで。」
あきにそう言われて5人で輪になって手を繋いだ。
すると頭の中に魔法陣が浮かんだ。
『これは…ここの部分はこの間ペリドットから教わった略式だ。視覚を欺く術式と気配を消す術式と匂いも消す術式も入ってる…後は…』
勇太は頭に浮かんだ魔法陣を理解できて少しうれしかった。
「各自で発動させて欲しい術よ。補強は私がするわ。」
「これで気配と姿を消して潜入だな。」
海斗が言った。
「手はずはこうよ…」
あきが説明しはじめた。
あきが自分たちの偽者を作って『ジルコニア』たちを欺いて、全員が気配と姿を消して、『魔術界』の『図書館』に潜入し、罠をも欺いて禁書の棚に近づくというものだった。
「そんな簡単に?」
勇太は意外と自分の役割がないので少し不安だった。
「ほとんどは私がやるけど、自分たちの気配と姿を消してくれるだけでも大分助かるわ。それに今日、図書館に行ったから罠はだいたい理解できたし。ただ、図書館にセキュリティみたいな術が施されているだろうから15分が限界ね。」
あきが言った。
「じゃあ、始めるわ。これ口に入れておいて。」
あきがタブレットケースのようなものから赤い粒を出して1粒ずつ配り始めた。
粒は口の中ですぐに潰れ、甘酸っぱい液体が口の中に広がった。飲み込むと体がじんわりと温かくなった。
「酔いが完全に覚めるわ。」
そう言って樹理奈の方をチラッと見た。そして、あきも1粒口に入れた。
すると、自分たちそっくりの偽者が自分たちの横に現れた。
「姿消して。」
あきに言われて勇太たちは自分に術をかけた。
あきは目をつぶった。
「外の『ジルコニア』たちは問題無さそうね。じゃあ、行くわ。」
勇太たちは海斗の部屋から『図書館』へ瞬間移動した。