忘年会
午後の講義が始まる前に人間界に戻ってきた勇太たちは、昼ご飯を大学の近くの中華料理店で食べて、みなで講義室に戻った。
「相変わらず仲良いな。講義前に研究室メンバーで飯行くなんて。」
彬とその取り巻きの男子数人が着席した勇太と海斗の周りを囲んだ。
「ちなみに今日は俺んとこで忘年会の予定。」
「へぇー!何か研究室というよりサークル仲間みたいだな!」
取り巻きの1人の高村晋也が言った。
『確かに、『魔術サークル』って感じだな』
勇太はそう思った。
講義が終わって、研究もみな早めに切り上げた。
海斗の部屋に行く前にお酒とおつまみなどを一緒に買いに行った。
そして、海斗の部屋で忘年会が始まった。
「乾杯!」
お酒が進んで、進路の話に花が咲いた。
「松下君、大手のメーカーも受けてたの?!」
「3次審査まで進んでたなんて!後もう少しで内定じゃない!」
「原田さんはどうするの?」
「私は実務実習の後で決めようかなって思ってる。」
「俺もそんな感じだよ。」
あき以外はテンションが高めだった。
「ねぇ、野上さんはどうするの?」
樹理奈が聞いた。
「調剤薬局に就職するつもり。」
あきが答えた。
「意外だね。」
貴司が言った。しかし、貴司の一言で話題が魔術の話になった。
「まさか、国家試験直前も就職した後も魔術の修行が続いてたりしないよね?」
勇太は現実に引き戻された気分になった。酔いが少しずつ覚めてきた。
「Jewelsになってるかどうかによるわ。」
あきが答えた。あきはチューハイを3本飲んでいるのにまだしらふだった。
「ルビーたちはあなたたち全員をjewelsに入れるつもりなのかも。」
「何で野上はjewels入りを拒否したんだ?」
海斗が聞いた。
あきはしばらく黙って、
「普通の生活がいいから。」
と答えた。
勇太はその言葉の意味が何となく分かるような気がした。魔術師たちの戦いに巻き込まれていない普通の大学生活―今思うと3ヵ月前に扉が開くまではそうだった。敵に狙われているかもしれない、戦いに参加するかもしれないという不安を毎日抱き続けることはなかったのだ。
しかし、ペリドットと出会って自分の気持ちが少し変わったし、研究室メンバーとの仲も『魔術』という共通の秘密があるからこそ絆が強くなったのも否定できなかった。
「何か隠してるよな?」
海斗が言った。
「この前の属性判定の時の、勇太の時に出た星。あれ、絶対何かあるんだろ?」
海斗があきの方を見た。
「ペリドットに聞いてみたら、『クォーツにはぐらかされた』って言ってた。」
勇太が言った。ふと、図書館で見た本のことを思い出した。
「陰陽術って関係あるの?」
勇太が聞いた。あきは少し考えて、
「ジルコンが陰陽術が得意で私も習ったわ。確かに陰陽師のシンボルは五芒星ね…可能性は十分あると思うけど、なぜ陰陽術のことを知ってるの?」
あきが勇太に聞き返した。
「今日、図書館で陰陽術の本にあの星マークが付いていたのを見たんだ…それだけなんだけど。」
「中島君と陰陽術で何か結びつくものがあるのかな?」
貴司が言った。
実は勇太は五芒星が出たときから祖父の言葉を思い出していた。
『勇太。お前はわしにとってほら、あの小さい星なんだよ。小さくてもキレイに光っている星なんだよ。勇太ならいつか月や太陽みたいにでっかくてもっともっと光る存在になれるよ。』
ただの“星”繋がりで思い出していただけなのでさほど気にしていなかった。
「ねえ、図書館って術以外の本もあるの?」
樹理奈が聞いた。
「もしかして禁書の中に何か解決することが書かれているとか?」
樹理奈の目がイタズラっぽく輝いていた。