図書館(ライブラリー)
忘年会当日、午前中は講義がなかったが、勇太たちは講義室で『扉の空間』に召喚されるのを待っていた。
チャイムが鳴ると同時に『扉の空間』に召喚された。
「勇太…」
ペリドットがいつものように現れたが、少し元気がなかった。
「今月いっぱいでお前との師弟関係は解消だ。来年の2月からは新しい師匠がお前につくそうだ。」
「えぇ!?そんな…」
勇太はかなりショックだった。魔術修行以外にもペリドットは勇太の精神面でもアドバイスをくれていたし、ペリドットと会うが講義がある日の楽しみでもあったので余計にショックだった。
「お前は光属性だっただろ?俺は木と土だから教えられないんだ。」
「そっか…」
勇太も自分で納得させようとした。
「誰なんだろ…?」
勇太が呟いた。
「光は、ダイヤ、クォーツ、ジルコン、パール、ムーンストーン…と師匠になれるのはこの辺りの連中だろうな。でも、パールは今の弟子を引き続き担当することになるだろうからクォーツ、ジルコン辺りかな…?」
「はぁ…」
勇太はクォーツが何となく苦手だったし、ジルコンもよく知らないので気が重かった。
「俺も光属性は苦手なヤツ多いな。プライド高いヤツが目立ってるし。」
クォーツのことだろうなと勇太は思った。
ふと勇太は気づいた。
「2つ属性あるの?」
「あぁ、属性判定で出た属性は『第一属性』、第一属性を習得した後に習得した属性は『第二属性』って言うんだ。第二属性で無属性を習得するヤツが多いな。自分の弱点をカバーしやすいし。ちなみにjewelsに入る条件の1つが属性魔術を2つ以上習得していることでもあるんだ。」
「じゃあ、第二属性を木か土を選択したらペリドットが教えてくれる?」
ペリドットが一瞬、驚いた顔をしたが、
「いいぞ。」
と笑顔で答えた。
「お前とは『図書館』に連れていく約束をしてたな。今から行くか?」
魔術界の図書館に着いた。
「本当に図書館だね…」
広い空間に本棚が並んでいて、本もびっしりと並んでいた。
入口には受付のようなカウンターがあり、白い装束を着てお面を被った人が立っていた。
白地のお面には鼻の辺りに透明な宝石のようなものが付いているだけで、目や鼻のくぼみがなく、穴も開いていなかった。
「入るぞ。こっちは弟子だ。」
ペリドットはそう言ってカウンターの前を通った。勇太もペリドットについていった。
勇太が振り向くとお面の人物はじっと勇太たちの方を見ているのかお面がこちらを向いていた。
勇太が気味悪く思っていると、
「勇太!」
と声をかけられた。
「あぁ!海斗!」
海斗とオパールも来ていた。
「大林と原田も来ているんだ。今日は午後から講義だから時間あるしみんなここに来てるみたいだな。」
海斗が説明してくれた。
奥の棚には霧のようなものがかかってぼやけて見えた。
「あれは禁書の棚だから近づくなよ。何重にも罠を仕掛けてるからな。術を試したかったら横の部屋でやってみろ。テーブルもあるから自由に使うといい。」
ペリドットが言った。
勇太は棚を色々見てまわった。
“木属性魔術における治癒魔術の基本 ペリドット著”という本を見つけた。
勇太は手にとってパラパラとページをめくっていた。
「お前はこの内容はまだだな。」
ペリドットが言った。
「本、書いてたんだ。」
勇太は感心して言った。
「Jewelsには自分の体の時間を止めている分、時間が有り余っているからな。より強力な効率の良い術を開発したらそれをみんなで共有する、それが図書館の役割だ。」
勇太は別の棚に移動するとあきがいた。
あきは1冊の本を真剣な顔で読んでいた。
“魔ザクロからの魔術薬学への応用 ガーネット著”というタイトルが目に入った。
『野上さんも来てたんだ。ガーネットって…行方不明の人の…』
そう思っているとあきと目があった。勇太はドキッとして逃げてしまった。
すると背表紙に星印が入った本を見つけた。
属性判定の時に見た五芒星とそっくりだった。
勇太は思わず手に取った。
“陰陽術 ■■■■著”
著者の部分が黒く塗りつぶされていた。
『式神…媒介を通じて使役する…自身の思い入れのある物を媒介にするとなお良い…術式は…属性は問わない…』
勇太が真剣に読んでいると貴司に後ろから呼ばれた。
「みんなで術の試し合いやらないかって。」
「うん。分かった。」
そう言って勇太は本をもとに戻し、貴司たちが待っている方へ向かった。
師匠たちやあきの指導で色々な魔法陣を発動させる練習をした。
『もう1つの研究室みたいだな。』
勇太はみなでやる練習を楽しんでいた。