属性判定
忘年会をする前日、1限目の講義が終わってまたいつもの様に修行かと思いきや、勇太たちは『扉の空間』とは全く違う場所に召還されていた。
『扉の空間』と大きく違うのは壁があることだった。壁も床も白色で何もない部屋だった。
「ここって…?」
貴司はキョロキョロしていた。あきは驚いた顔で、
「魔術界の中心部…」
と呟いた。
「えっ?!」
「魔術界?!何で?!」
勇太と海斗も驚いた。
「魔術界に来たのは初めてではないだろう?」
勇太たちの前にクォーツが現れた。手には顔ほどの大きさの透明な球体を持っていた。
クォーツの横にはアメジスト、ルビー、サファイア、エメラルドと腰まで伸ばした真っ黒の長い髪に白い袴を履いて装束を崩して着ている女の人が立っていた。
「ジルコンよ。術式集で名前を見たことあると思うけど。」
ルビーが白い袴を履いた女の人を指して言った。
『この人がジルコンか…見張りがどうとかの話題でも出てきたよな。』
妖艶な雰囲気を漂わせたジルコンは一礼した。
勇太は慌てて一礼した。
「全員、中級魔術師になって、魔法陣も発動させれるようになったところで属性判定をしようと思う…」
そうクォーツが言いかけると、
「おい!聞いてないぞ!」
と怒鳴りながらオパールが現れた。
オパールに続いてペリドットとパールも姿を現した。
「だーかーら、さっき言ったじゃん。」
アメジストが呆れながら言った。
「さっき初めて聞いたぞ!ちゃんと説明しろ!」
オパールは興奮気味だった。ペリドットが割って入った。
「属性魔術を早めに始めるのは異論はない。俺の弟子は十分対応していけると思うしな。ただ、今まで上級魔術師になってからだったのが、今回突然だろ?その辺の経緯をちゃんと説明するのが親切なんじゃないか?」
ペリドットの言葉にアメジストはため息をついてクォーツを見た。
「闇に堕ちさせないため、これでいいか?」
クォーツが言った。
オパールはまだ不満そうだった。
「えっ、どういう意味?」
貴司が聞いた。樹理奈も分からない様子だった。
勇太はペリドットから聞いた闇魔術に堕ちる条件を2人にこそっと教えた。
「…なるほど。」
貴司は頷いた。
「じゃあ、始めるか。」
クォーツがそう言うと、手に持っていた球体がふわふわとクォーツの手から離れてクォーツと勇太たちのちょうど真ん中あたりで止まり、その場でふわふわと浮いていた。
『懐かしいな…』
勇太がペリドットと鉄アレイを浮かせる修行を思い出しているとクォーツが、
「1人にずつその玉に手を当てるんだ。」
と言った。
みなお互いの顔を見回した。海斗が歩き出して玉の上に手を置いた。
すると玉が光り、玉に水しぶきをあげている波と海の光景が浮かんだ。
「水だな。」
クォーツが言った。
「これが判定方法なの?」
樹理奈があきに聞いた。あきは頷いた。
「じゃあ、今度は私。」
海斗が元いた位置に戻った後、樹理奈が玉に手を置いた。
風に舞う色とりどりの葉っぱと花の光景が浮かび上がった。
「あら、木ね。」
エメラルドがニッコリ笑って言った。
続いて貴司も玉に手を置いた。
「あれ?」
玉になにも起こらなかった。
「無ね。」
パールが言った。
「なかなかいないのよ。無属性は。何十年ぶりかしら。」
「はぁ…」
貴司本人は期待外れだったようだ。
最後に勇太が玉に手を置いた。
玉から白い光が放たれた。
「光か。」
ペリドットが腕組みして言った。少し寂しげな表情だった。
勇太が手を離そうとした時、玉に一筆書で描かれた星が浮かび上がった。
「五芒星?!」
ジルコンが両手で口をおさえて甲高い声で叫んだ。目に涙を浮かべていた。
クォーツ、アメジスト、ルビー、サファイア、エメラルドの表情も固まったままだった。
勇太が玉から手を離すと星は消えた。
「この星は何か意味があるのか?」
ペリドットが聞いた。
クォーツが我に戻って、
「何にもない。気にするな。」
と答えた。
「海斗は水、樹理奈は木、貴司は無、勇太は光だな。それぞれの師匠が決まり次第、属性魔術の修行に入る。今日はここまでだ。」
クォーツがそう言うと、勇太たちは誰もいない講義室に戻ってきていた。
「今日は2限目の講義なくてよかったよ。」
貴司が言った。いつもの『扉の空間』は時間が止まっているので人間界に戻ってきても修行前の時間と同じ時間に戻ってきているが、今日は1限目が終わって15分ほど経っていた。
「なんかバタバタしてたわね。」
樹理奈が言った。
「色々聞きたいけど、研究室行かないと。」
貴司があきの顔をチラリと見ていった。
5人は研究室へ歩き出した。
「とうとう、当たりが出たわね。」
勇太たちがいなくなった後アメジストが呟いた。クォーツも頷いた。