附属高校へ
試験は4科目だったが、3日に分けて行われた。
最終日は2限目に生化学の試験が行われて中間試験が終了した。
『野上さんに教えてもらったところ、試験に出てたな。今回は結構自信あるぞ。』
「海斗、今日も就活?」
スーツ姿の海斗に勇太が聞いた。
「あぁ、3時ぐらいに出ていくつもり。それまで研究室だな。」
2人で講義室を出ようとすると、樹理奈が待っていた。
「お昼、一緒に食べない?」
勇太と海斗は顔を見合わせた。
「野上さんと大林君も誘うつもりなんだけど。」
そう言って、樹理奈はあきと貴司が講義室から出てきたところを捕まえていた。
5人は大学の外の定食屋で食事していた。
「で、何の用なんだ?」
海斗が樹理奈に聞いた。勇太も樹理奈がわざわざ誘ってくるのは何かあると思っていた。
「実はね。みんなに一緒に附属高校に来て欲しくて…」
樹理奈が言った。予想外の答えに勇太たちは驚いた。あきだけは表情ひとつ変えなかった。
「附属高校って、なんで?」
貴司が樹理奈に聞いた。附属高校は貴司とあきの母校だ。
「うん。行ってから話すね。」
樹理奈が答えた。
『なぜ、附属高校に?しかもこのメンバーで?…考えても仕方ないか。』
勇太はそう思いながら定食のからあげをほおばった。
全員食べ終わって、大学から少し離れた附属高校に歩いて向かった。
「明日、模試があるとかで今日は昼までだって。」
そう言って樹理奈は校門を入ろうとした。
「あれって、『こすもおーら』のJuriじゃない?」
「本当?!」
「えっ?!なんで?!」
「やっぱりJuriかわいいわ!」
帰宅している高校生たちがざわつき始めた。
樹理奈は気にせずに校内に入ろうとした。
「原田さん、どこ行くつもりなの?」
貴司が聞いた。
「美術室。私、初めて来たから卒業生の大林君と野上さんに案内してもらいたくって。」
樹理奈は振り向いてニッコリ笑った。
「えっ…どういうこと?」
勇太が聞いたが樹理奈は答えなかった。
「教室が少ないところから行きましょうか。」
あきがそう言って歩き出した。
「野上、人払いもしといた方がいいかもな。」
海斗が言った。樹理奈が校内にいることがバレているからだ。元アイドルとはいえ、パニックになったら大変だと勇太も感じていた。
「校舎に入ってからしているわ。」
あきが答えた。
あきについていき、美術室にたどり着いた。
樹理奈が美術室のドアを開けた。
「あら、いらっしゃい。」
「えっ?!」
勇太たちは驚いた。美術室の中でロードクロサイトが立っていた。淡いピンクを基調としたワンピースでロリータファッションを少し抑えたような格好だった。
「ここで美術の講師をしているの。」
ロードクロサイトはニッコリ笑って言った。
「あなたたちが卒業後だから知らなくて当然だと思うわ。」
ロードクロサイトはそう言ってあきと貴司を見た。
「ロードと一緒に昼休憩のときに魔術界の雅子…玲夢に会いに行ってたの。いつも、ロードが薬学部の校舎まで来てくれて行ってたんだけど、今日はみんなと一緒に行きたかったし、ロードもギリギリまで仕事だったみたいだからここまで来てもらったの。」
樹理奈が言った。
「来たことないのによく行こうと思ったな。」
海斗が嫌味っぽく言った。
「僕たちが卒業生だと知ってたからでしょ?」
貴司も樹理奈に言った。樹理奈は頷いた。
勇太は海斗の方をチラッと見た。
『海斗は会いたくないって思っているのかな…』
樹理奈は真剣な顔で海斗をまっすぐ見て、
「会ってくれる?」
と聞いた。
「そこまでいうなら。」
海斗が言った。