試験勉強
中間試験1週間前になった。
勇太の研究も何とか進んで、区切りの良い所で中断することができた。
海斗は就活が始まってスーツで講義を受けていることもあった。
「玲夢が見たら喜ぶだろね。」
樹理奈のとりまきの1人が言った。実際、スーツ姿の海斗は男らしさと色気が出て、勇太たち男から見てもカッコいいと思っていた。
『そういえば、紅さん…リチウムだっけ…拘束されてた後、魔術界でどうなったんだろう。』
勇太はふと疑問に思ったが、今回の試験勉強に気合いが入っていたので、気にしないことにした。
『学年トップ3が同じ研究室だもんな…俺も負けられない…!』
放課後、研究室でいつも使っているデスクで1人黙々と試験勉強をしていた。
魔術修行も全員、試験が終わるまで中断させてもらった。
試験2日前の放課後、気分転換に大学の近くのコンビニに何か買いに行こうとデスクから立ち上がった時、あきが研究室に入ってきた。
「あっ、野上さん…」
試験前にあきが研究室に来るのは初めてだった。
「先生たち、講義に行ってるから鍵、渡しとくね。」
勇太はあきに研究室の鍵を渡した。あきは黙って受け取った。
勇太がコンビニでお菓子を選んでいるとあることに気づいた。
『今、研究室に戻ったら野上さんと2人きりじゃん!?何話したらいいんだろ…』
こんな時に海斗がいてくれれば心強いのだが、海斗は企業の就職説明会に行ってしまった。
『…でも、勉強するだけだからしゃべる必要もないか…』
勇太は研究室に戻った。
「野上さん。これ…」
勇太はチョコクッキーの箱をあきに差し出した。あきは少し驚いた様子だった。
「色々助けてもらってるし…ずっとお礼がしたかったんだ。こんなんで申し訳ないけど…」
「ありがとう。」
一瞬、あきが笑った気がした。勇太はドキッしてしまった。勇太は顔を隠すように自分のデスクに戻った。
『なんか…笑った顔、普通にかわいかった…気がする…』
座った後もしばらくドキドキしたままだった。
気持ちを落ち着けて勇太は勉強を再開させた。
しばらくして教授と助手が講義から戻ってきた。教授は教授室に入ってしまったので直接会わなかったが、助手は、
「あら、野上さんも来てるのね。」
と言って自分の研究をしていた。
勇太は真剣に勉強していた。時々、あきがクッキーを食べる音が聞こえた。勇太は一瞬、ホッとしたが黙々と助手が研究室を閉めるまで勉強した。
「試験は明後日からね。頑張ってね。」
校舎を出て、助手が守衛室に鍵を返しに行ったのでまたあきと2人きりになった。
「野上さん、明日も研究室来るの?」
勇太が聞いた。
「迷惑?」
あきが聞き返した。
「いや、そう意味じゃなくて…もし、明日も来るんだったら質問あったらしていいかなって思って。前日で悪いんだけど…」
勇太の方が迷惑かなと思いながら言った。
「うん。大丈夫。」
あきが答えた。駐輪場に向かうあきと別れて、勇太は帰宅した。
翌日の放課後、勇太はあきに1つ質問した。
あきは丁寧で分かりやすく教えてくれた。
『海斗もそうだけど、成績良い人って教え方も上手いんだよな。』
そして、試験当日を迎えた。