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幕末と伊吹勘助

「俺の本名は伊吹勘助(いぶきかんすけ)。下級武士の三男だった。お前よりまだ少し若かった時に扉が開いてな。道場仲間3人と一緒だったな。」

勇太はペリドットの話を黙って聞いていた。

「みんな俺と同じような境遇のヤツばっかりだった。道場で剣術を学んだあと、お茶屋でそれぞれの理想や将来を語り合うのが楽しかったよ。お茶屋で働いていたお(ふみ)という娘に会うのも密かな楽しみでもあったんだかな。」

ペリドットは少し顔を赤らめた。

「そんな中、攘夷派と開国派との争いがひどくなってな。今となっては小さな国の中で争っていてバカだとは思うが、あの時はみんな国の未来を真剣に思って、その思いが暴走していただけなのかもな。」

勇太は高校の頃の日本史の授業を思い出していた。

『新撰組とかが活躍していた時代か…』

ペリドットは続けて話し出した。

「俺たちの町にも争いが飛び火してきて、自分の意に沿わないヤツは殺されていったが、どんどん暴走していって関係のない人間まで殺されるまでになってしまった。ある日、お茶屋でお文が出したお茶がぬるいとかいちゃもんをつけてお文に斬りかかろうとした浪士がいてな、たまたま見ていた俺は…その浪士に重傷を負わせてしまった。」

勇太は息を飲んだ。

「その浪士は血気盛んでたちの悪い一派の1人だったみたいで、俺だけじゃなく家族やお文にまで報復の対象となる可能性があった。俺の顔は向こうに割れていた。お文を連れて逃げたかったが、お文に自分の思いを伝えてなかったしどうすればいいか分からなかった。」

ペリドットの顔が暗くなった。

「そんなときだ。ちょうど上級魔術師(ファセット)になったばかりだったな。ダイヤに魔術界で生きることを勧められてな。その代わり、俺という存在が人間界にいなかったことにしてくれと頼んだんだ。」

勇太はしばらく理解できずにいた。

「伊吹勘助という人間が存在していなかったことにしてもらったんだ。」

勇太はやっと理解できて、驚いた。

「そんなことって…」

「ダイヤはできるんだ。実際にjewelsには人間界での自分の存在を消してきたヤツは結構いるらしいからな。そうすれば俺のせいでお文は死ぬことない、お文だけじゃなく俺の家族も。」

勇太は頭では理解したが、まだおどろきを隠せないでいた。

「人間界に伊吹勘助という人間はいなかったことになった。それから人間界には一度も行ってない。」

「お文って人は?家族はどうなったの? 」

勇太が聞いた。

「家族は後の第一次世界対戦に巻き込まれて伊吹家はもう誰もいないらしい。お文は俺が魔術界に行ってしばらくして亡くなったそうだ。病だったって。」

勇太は黙ってしまった。

「そう悲しそうな顔をするなよ…俺は…本当は家族よりもお文を守りたかった。でも結局お文は死んでしまった。」

勇太は初めてペリドットに会ったとき『守りたいもの』を聞かれたことを思い出した。

「守りたいものはお文だったんだね。」

勇太は言った。ペリドットは頷いた。

「初めてお前に会ったとき、他のヤツもそうだったが、何か不安に感じたんだよな。将来のことを何にも考えていないような、平和ボケしているような。俺が思い描いてた未来とはこんな風になることだったのかって。」

勇太はその言葉が図星だったのでグサッと心に刺さった。

「将来のために大学とかで学問を学んでいるんだろ?」

ペリドットが聞いた。

「えっと…薬剤師になるのを目指しているんだ。でも、まだどんな薬剤師になるか決めてない…海斗や大林君は決めてるのに…」

「そっか、一応ちゃんと目標があるんだな。」

ペリドットが安心した顔になった。

「でも、就職先をまだ決めてなくて…」

勇太は口ごもってしまった。

「お前はお前のペースで考えればいいんじゃないか。他のヤツらと比べようとするから焦りや劣等感が出てくるんだ。まだ考える時間があるんだろ?」

勇太は頷いた。

何故、勇太が薬学部に入学したのか…きっかけは祖父の死だった。

突然他界した大好きだった祖父に何も出来なかった無力感から医療系に進もうと考えた。

高校2年生の始めに、一條学園大学に薬学部が新設されることを聞いて、自宅から通える距離だということもあり、受験して何とか合格したのだった。そのことをペリドットに話した。

「そっか、お前、ちゃんと目標があるんじゃないか。」

ペリドットが言った。

「お前に一番足りないのは自信だ。今のお前は決して他のヤツらよりも劣ってはいないぞ。」

ペリドットは勇太の肩を叩きながら言った。

勇太は自分のことを初めてペリドットに語ったのでスッキリした気分になっていた。

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