リチウムの任務
「リチウムはこの100年でちゃんとした修行をしてなかったようね。闇魔術も使ってなかったし、電気しか操れていなかったし。」
ルビーが言った。
「中級魔術師に毛が生えたレベルだったからね。闇魔力核との適応率も高くなかったのかも。」
アメジストが言った。
「闇魔力核?って」
貴司が聞いた。さすが、手にメモの用意をしていた。
「闇魔力核を心臓に入れられると強制的に闇の魔術師になるの。闇魔力核の中に金属の破片が入っていて、その金属を操れる力も得るの。」
ルビーの説明を聞いて貴司はペンを走らせていた。
「金属中毒、リチウム、水銀、鉄…それでみんな金属に関係していたのか。」
貴司がメモしながら呟いた。
4年前のある日、リチウムはアイロンに呼び出された。
「野上あきを見張れ。」
「野上あき?」
「この間、マーキュリーをボコボコにしたヤツだ。最速でjewelsレベルになったらしいが、jewels入りを拒否して扉が閉じた後は普通の石ころの生活を送っているようだ。」
「どうやって見張るの?」
「一條学園大学の薬学部に入学しろ。アイツには恐らくジルコンの見張りがついているから俺は近づけないが、顔がバレていないお前なら大丈夫だろう。」
アイロンがこうも付け足した。
「その厚化粧した顔ならな。」
リチウムは顔はかなり濃いメイクで、吉村雅子だった頃の面影はほとんど感じないほどだった。
「分かったわ。ちゃんと手引きしてくれるの?」
「あぁ、すでに準備は出来ている。」
リチウムは紅玲夢という名前で一條学園大学薬学部に入学した。
そして懐かしい顔に出会った。
『松田さん…』
死んだ松田によく似た人物がいた。
「それが海斗だったわけ。」
アメジストが言った。
リチウムは任務を忘れて舞い上がってしまった。
そして海斗と付き合い、懐かしい青春の日々が続くものだと思っていたが、
「ねえ、海斗。海斗といつも一緒にいる中島君。地味過ぎじゃない?海斗の友達に相応しくないわよ。」
リチウムのこの言葉に海斗は激怒し、すぐに別れを切り出された。
『何であんな地味な男のせいで海斗と別れなきゃならないのよ…』
リチウムは諦めてなかったが、海斗は完全に無視していて、すぐに別の女の子と付き合っていた。
海斗への腹いせにもっと良い男と付き合おうと、元芸能人の樹理奈に近づいて芸能人との合コンのセッティングを頼んだが、樹理奈に上手くかわされてしまい、開かれずじまいだった。
『やっぱり、私には海斗しかいない…!』
そんなリチウムを見てアイロンは呆れて、
「ちゃんと仕事しろ!野上あきにルビーが接触したそうじゃないか!」
リチウムはあきへの見張りそっちのけで海斗のことばかり考えていた。
「今度はちゃんと報告するわ…」
あきを見張っていても海斗への思いが募る一方だった。
一條学園大学に潜入入学して2年半が経って、研究室配属を発表されたとき、リチウムは驚いた。
『樹理奈…何で海斗と一緒の研究室を希望してたの……?!』
リチウムも当然、海斗とあきが第一志望にしていた有機化学研究室を希望していた。海斗と一緒にいられるし、あきを見張れる、一石二鳥だと思っていたからだったが、成績順で配属されるため、進級できるかどうかスレスレの成績のリチウムは外れてしまったのだ。