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雅子の過去

今から100年ほど前、吉村雅子は女学校生だった。後にロードクロサイトを名乗る馨子ともう1人の同級生と3人でいつも仲良く行動していた。

ある日、雅子は不良に絡まれたところを海兵の青年に助けられた。整った顔立ちで鍛えあげた体の青年に雅子は心を奪われた。

『素敵なお方…』

その日から雅子はその海兵の青年のことばかり考えていた。

『いつか、あのお方のお嫁さんに私がなれれば…戦地に赴かれるまでにもっともっとお近づきになりたいわ。』

そんな中、扉が開いて3人は魔術修行を始めた。

馨子は要領がよかったので雅子が初級魔術師(オーレ)に昇格できたときには、中級魔術師(アンカット)になっていた。

雅子は内気で地味だったので、師匠であるアメジストが派手で何でもハキハキ言う様に密かに憧れを持っていた。何度か道であの海兵の青年を見かけたが緊張のあまり、声をかけられないでいた。向こうも雅子に気づいていないようだった。

『私も馨子やアメジストみたいだったら、あのお方は私に気づいてくれるかしら?』

そう思っていた矢先、魔術界の図書館(ライブラリー)に連れて来られた。

雅子はようやく中級魔術師(アンカット)に昇格したので、魔法陣集を読むことを許されていた。

偶然、『禁書』と書かれた棚にある冊子の背表紙見つけた。

「呪い系強力魔法陣…?」

アメジストたちの目を盗んで急いで開いてみた。

「完全洗脳、完全服従…!」

思わず釘付けになってしまった。

「雅子~。」

アメジストに呼ばれて慌てて冊子を戻して、アメジスト達がいる方へ向かった。

「何か面白いものあった?」

馨子が聞いた。

「えっ、えぇ。」

雅子は平然を装っていた。

「禁書の棚に行ってないわよね?」

アメジストが聞いてきた。

「行ってないわ。“回復系魔法陣集”を呼んでたわ。」

たまたま見た本のタイトルを言った。内心、嘘がバレないかドキドキしながら答えた。

「そう。エメラルドとラピスが書いたやつね。」

アメジストが気づいてなそうなので雅子はホッとした。

その後、馨子たちと3人で女学校から出たときに偶然、海兵の青年とバッタリ会った。雅子は勇気を出して話しかけに駆け寄って行った。

「あのっ…この間は…ありがとうございました。」

雅子は顔が火照っているのを感じていたが、それ以上に憧れの青年が目の前に立っていることがうれしくて仕方なかった。

「あぁ、あの時の。お元気そうでよかったよ。」

青年は雅子に笑いかけて言った。馨子たちはまだ少し離れた場所にいた。

『今なら、あの術をこの方にかけても馨子たちにはバレないかしら…』

そう悩んでいると、青年は雅子に敬礼をして去って行ってしまった。

「雅子、さっきの方は知り合いなの?」

馨子が追いついてきて雅子に聞いた。

「えぇ…」

雅子は残念そうに答えた。

「あの方、松田さんっておっしゃるのよ。他の女学生が噂していたわ。」

馨子が言った。

それから1週間ほど経ったときだった。

「海兵の松田さんが戦死されたみたいよ。」

女学校中でそんな噂が流れた。

雅子はかなりショックを受けた。食事も喉を通らなかったし、魔術修行も集中出来ていなかった。

「あんた最近変よ。」

さすがにアメジストも心配していた。

1人で部屋で泣いていた時だった。

「憎いだろ?悔しいだろ?かわいそうに。」

突然声が聞こえて雅子はビックリして顔をあげた。

自分の目の前に黒い服の男が立っていた。顔はフードを被っていて見えなかった。

男は雅子の胸に手を当てた。

「嫌!何するの…」

雅子が男の手を払い除けたが、男に手を当てられた部分が氷のように冷たくなっているのを感じた。

そして、じわじわと体全体にも冷感が伝わっていくと同時に、青年が死んだ悲しみや怒りといった感情がどっと溢れだしてきた。

「あぁ…」

雅子の目から涙がこぼれ、自分の内側から出てくる感情に飲み込まれているのを感じた。

『許さない…あの方が死んで…戦争も何もかも!』

雅子の体から黒いもやが吹き出して雅子の体を包み込んだ。

しばらくしてもやが消えた。

「今日からお前は我々、『金属中毒』(メタル ポイゾニング)のリチウムだ。」

男は雅子に手を差し出した。


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