学園祭の夜
11月に入ってすぐに学園祭が始まった。
1週間授業がなかったので魔術修行もなかったが、勇太たちは屋台を出す予定もないので研究室に1日こもっていた。
昼ご飯のときだけ校舎の外に仲間と一緒に出て屋台を回ってご飯を買いに行った。みなで分けあって食べることで学園祭気分を少し味わっていた。
「最終日は日曜日で研究室も休みだから、ゆっくり食事会でもしない?」
樹理奈の提案で大学の近くの居酒屋で食事会をすることになった。
学園祭最終日は日曜日なので夕方近くになっても人がいっぱいだった。
樹理奈と海斗はたまたまマンションのエレベーターで会ったので待ち合わせの薬学部校舎前まで一緒に来た。
「松下君、メーカー志望なんだ。」
「原田なんかメーカーに就職した方が喜ばれないか?広告塔として。」
2人でそんな話をしていると、
「海斗!」
と叫んで紅玲夢が海斗と樹理奈の前に走ってきた。
「海斗!ずっとケータイ出てくれなかったでしょ?!」
海斗に詰め寄った。海斗はめんどくさそうな顔をした。玲夢は樹理奈をにらんで、
「樹理奈、何で海斗と一緒のマンションに住んでいるの黙ってたの?!」
と怒った。
「俺が黙っててくれって頼んだんだよ!」
海斗もイライラしながら言った。
「それに、ウチのマンションは他の住人と会いにくい構造だから知ったのもお互いごく最近のことなんだよ。だいたい、お前に関係ないだろ!」
玲夢は一呼吸おいて少し冷静になって、
「樹理奈は海斗を狙っているの?」
と聞いた。
「何言ってるの?玲夢。ただマンションが一緒だっただけじゃん。」
樹理奈も少し呆れながら言った。
「じゃあ…魔術修行も一緒にしているのはただの偶然なのかしら?」
玲夢は2人をにらんで言った。2人は驚いてしまった。
「何でそのことを…?」
勇太は大学に到着したものの人混みを抜けるのに苦労していた。屋台のない道に出るとあきに会った。
「野上さん。」
あきを呼んで待ち合わせ場所まで2人で歩いていた。
『何か話さなきゃ…』
そう思っていると、
あきが突然立ち止まった。
「どうしたの?」
勇太が聞いた。
「…動き出したのね。」
そう言ってあきが走り出した。
「えっ、野上さん?!」
勇太も走ってあきについて行くと、待ち合わせ場所の薬学部校舎前に着いた。この辺りは屋台がないので呆然とした表情で樹理奈が座りこんでいただけだった。
あきが樹理奈に駆け寄った。
「大丈夫?」
「野上さん…あの…玲夢が…」
樹理奈は涙目になって混乱しているようだった。
「…だいたい分かっているわ。」
あきが樹理奈の頭に手を当てながら言った。
「松下君が連れ去られたのね。」
「海斗が?誰に?!」
勇太が驚いて聞いた。
「紅玲夢に。敵の魔術師なのよ。こんなに早く仕掛けてくるのは想定外だったわ。」
勇太はあきが言ったことを理解できずにいた。
「お待たせ…どうしたの?」
貴司もやって来た。
「松下君が連れ去られたの。」
あきが言った。
「ルビーに紅玲夢に見張りをつけておくように頼んでたんだけど…」
「それが誰かに見張りがやられてたのよ。」
アメジストが突然現れて言った。
勇太たちはビックリしてアメジストを見た。
「私も驚いたわ。ルビーが追ってるけどあなたたちも来る?」
アメジストが言った。
「説明…してくれる?」
勇太が言った。貴司は来たばかりなので状況が飲めずにいた。
「紅玲夢は敵の魔術師で、松下君を連れ去っていったの。」
あきが言った。
「何で玲夢が?」
樹理奈はまだ涙目だった。
「大学に入学したときには既に闇の魔術師だったわ。」
あきが言った。
「で、追うの?追わないの?」
アメジストがイライラしながら言った。
樹理奈は立ち上がって、
「行く。」
と言った。勇太と貴司も頷いた。