縄と罠
「よし、今日こそ捕まえてやってくれよ。」
1限目の授業が終わって、『扉の空間』にやって来た勇太にペリドットが言った。手には例のウサギの人形を持っていた。
ペリドットが床にウサギを置くとウサギはピョンピョンと跳ねだした。
『昨日の晩に思いついたヤツ、試してみるか。』
勇太はウサギに向かって縄を出した。ウサギはひょいっとかわした。
勇太は怯まずにまた縄をウサギに向けたが、ウサギにまたかわされた。
『想定内だ…ここからが勝負だ…』
縄を出してはウサギにかわされるという繰り返しだった。
逃げているとき、ウサギが勇太が出して床に落ちている縄の1本を踏んだ。
『今だ!』
ウサギが踏んだ縄に勇太は魔力をこめた。すると縄がトラバサミに変わって逃げようとしたウサギの脚を挟んだ。
「やるじゃないか!」
ペリドットが拍手しながら、
「“縄”を“罠”に変えるって発想がイイな!最高だ!」
と大笑いした。
昨日の晩、勇太はベッドに寝そべりながらウサギをどう捕まえるか考えていた。
「縄、縄、なわなわなわ…わな、罠?!」
“なわ”をずっと言い続けると“わな”と言ってしまう、そこから“縄”を“罠”に変えることを思いついた。
逃げようとジタバタ動いていたので、トラバサミに挟まれたウサギの脚から綿が見えた。
それに気づいた勇太はトラバサミを消した。ペリドットがウサギを拾い上げた。
「あの…ごめんなさい。」
勇太はウサギをどう弁償したらいいのか悩んでいると、ペリドットがウサギをひょいっとつまみ上げて、
「このくらい大丈夫だ。」
と言った。ウサギの破れかけた脚を軽く撫でると元の状態に戻った。
「なっ、このくらい術で元どおりだ。」
ペリドットはウサギを勇太に渡した。勇太もトラバサミで挟まれた部分が元どおりに直っているのを確認した。
「よかった…」
そう言って勇太はペリドットにウサギを返した。
「術式を2重にかけるコツを掴んでいるようだから色々やってみるか。お前は飲み込みが早いな。よし、色々、やってみるか。」
それから毎日、ペリドットと色々な術式を試してみた。
樹理奈と貴司が見せてくれた術式も試してみて出来るようになった。
「割るのって難しいな。」
数字の“8”を“4”で割って“2”を4つにしながら勇太が言った。
「1度、図書館に連れていってやりたいんだがな。」
ペリドットが腕組みしながら言った。
「図書館?」
「術式とか魔法陣の教科書的な本がいっぱいあるんだが、お前に読ませたやりたいんだよな。術式は理解さえしていれば簡単に発動できるようになるからな。お前なら術式集読むだけでかなりの術式を発動できるようになると思うからな。」
「へぇ…」
勇太は図書館と術式集がどんなものか想像しようとしていると、
「魔術界に来れるようにルビーにでも相談しとくわ。」
ペリドットが笑って言った。