外伝・思い出のラーメン2
七里市での撮影が始まった。
東京より人は少ないが、外での撮影時にはもの珍しさで野次馬が集まってきた。
「佐々木伸じゃん!?」
「ドラマ?映画?どっちだろ?」
「カッコいいー!」
「西川幸寿もいる!主演はこっちっぽい?」
野次馬の若い女たちは口々に話をしていた。
西川幸寿は70代のベテラン大御所俳優で、今回のドラマでは伸の父親役で主演だった。
伸は撮影の合間をぬって、ラーメン屋を探していた。
しかし、いくら調べてもそれらしきラーメン屋は見つからなかった。
「カーット!」
「お疲れ様ー!」
ドラマ中盤の撮影が終わった日の夜、伸はまたラーメン屋探しにくり出そうと考えている時だった。
「伸君、この後一緒に飯でもどうだ?」
幸寿が伸に声をかけてきた。
「あっ、ありがとうございます!ご一緒させて下さい!」
とは言ったものの、ラーメン屋探しに行きたいのが本心だった。
撮影現場から歩いて10分ほどだった。
『いっちゃん』と書かれた赤い古い看板のある小さな古い中華料理店だった。
「あれっ、ここ…」
伸は店の前で立ち尽くしていた。来たことがあるようなそんな気がしたからだ。
「七里に依然住んでたと言っていたが、来たことあったか?」
幸寿が店のドアを開けながら聞いた。
「いっ、いえ。分からないです。」
「ここのラーメンはウマイぞー!」
そう言って幸寿が店に入っていったので伸も慌ててついて行った。
「いらっしゃい!おっ…!」
店員の誠は2人が芸能人であることにすぐに気づいたが、何も聞かずにカウンター席を案内した。
「大将、久しぶりだな。」
幸寿は厨房で料理している店主に声をかけた。
店主はチラッと見て、
「近所で撮影してるって聞いたからいずれ来るだろうとは思ってた。」
と言った。
「息子さん、立派になったじゃないか。俺はいつもので。伸君はどうする?」
幸寿は隣に座っている伸に聞いた。
「えーっと…同じので。『いつもの』って何ですか?」
伸が聞いた。
「『ホルモンラーメン塩』だ。君には少ないだろうからセットメニューはどうだ?」
「じゃあ…チャーハンとのセットで。」
「決まりだ。」
店の中はだんだん満席になった。
料理の良い匂いがたちこめていた。
「この近くにな、昔、撮影所があってよく先輩にここの店、連れてきてもらったな。」
幸寿が言った。
「お待ちどうさまー!」
誠が料理を運んできた。
「よし、食うか。」
「頂きます!」
伸と幸寿が運ばれてきたラーメンをすすった。
「大将、腕落ちてないな。流石だ。」
幸寿が言った。
「…おいしい。これだ…このラーメンだ!」
伸は思わず大声になった。
「ん?どうした?」
「探してたんです!ここのラーメン!昔食べてすごくおいしかったけど、店の名前覚えてなかったし、父親が死んで東京に引っ越したんでずっと来ることが出来なくて…」
伸はラーメンを口に入れた瞬間から記憶が鮮明に甦ってきた。
父親に連れてきてもらったのはここの店であること。
『息子にはホルモン早いかもしれないから、塩で!』と父親が注文の時に言っていたこと。
匂いも味も昔と全く一緒だということ。
「親父さんと来たとき泣いてたからな。そりゃあ、覚えてないのも当然だ。」
店主が口を開いた。
「えっ?!俺のこと、覚えてたのですか?!」
店主の言葉に伸は驚いた。
「親父さんはウチの常連だった。『いつか子供も連れてきたい』って言ってたさ。それで、連れてきた時にその子供は試合に負けたとかで泣きながらラーメンを食べてたな。」
「そんなことがあったのか、それなら思う存分食え。なんならラーメンお代わりしたら良い。」
幸寿は伸の肩に手をポンと乗せた。
「ありがとうございます!」
伸は夢中になってラーメンを食べた。
食べてる最中に今度は父親との思い出も甦ってきた。
伸は涙を流しながらラーメンをすすった。
それを店主も幸寿もじっと見ていた。
「ごちそうさまでした!ありがとうございました!」
食べ終わって店を出て、食事代全て奢ってくれた幸寿に伸はお礼を言った。
「いいさ。ラーメンでこんなに喜んでくれるんだ。また来るか?思い出のラーメンを食べに。」
「はい!」
伸と幸寿は宿泊先のホテルへ帰って行った。
これで『魔法陣』の外伝も終わりです。
次は続編に移ります。