外伝・河内屋の清太と小春3
「この女から闇が溢れています。」
紅色の服の女の子が女将を指差して言った。
「この女からもです。」
青い服の男の子が母親の腕を掴んでいる女中を指差して言った。
「何を訳の分からないことを…」
女将は汗を流しながら言った。
清太を掴んだ手が少し震えていた。
「あの人…陰陽師の金剛大也様では?!」
傍観していた通行人が言った。
「金剛…様?!」
女将は清太の腕を離した。強く握られていたので清太の腕はジンジンと痛みが残っていた。
「あなたが白く光っているから女の闇がよりどす黒く見えます。」
今度は緑色の服を着た女の子が清太に言った。
清太は女の子たちの言っている意味が分からなかった。
「『河内屋』の女将だな。」
子供たちを引き連れた金剛が言った。
「この子供と女を嵌めたのだな。」
「なっ、何を根拠に…」
『河内屋』の主人と小春、番頭と使用人たちも追いかけてきた。
「あの男の持っている袋から闇が出ています。」
紅色の服の女の子が主人が持っている巾着袋を指差した。
「あの男からも黒い闇が出ています。」
今度は番頭を指差して言った。
『闇…?まさか…女将と朱美さん(女将つきの女中)と番頭さんは…』
清太は何となく気づいてしまった。
「女将さん…まさか、私たちを嵌めたのですか?朱美さんと番頭さんと一緒に。私たちが売上を盗んだことにして…」
母親が聞いた。
女将は驚いた顔のまま唇を噛みしめながら黙っていた。
「蓮華…どういうことだ?!何故、清太と藍を?!」
主人が女将に詰め寄った。
「清太が…気づいてしまったですよ!旦那様の子供だってことを!『河内屋』は…小春が女将にならなければならない…だから清太と泥棒猫を追い出すために…もう少しでうまく行くところだったのに!」
女将が取り乱しわめき散らした。
「お前がいなくなれば…」
女将が懐から短刀を取り出し、清太に向けて振りかざした。
そして、勢いよく短刀を清太に突き刺そうとした。
しかし、いつの間にか、清太の横に金剛が立ち、手のひらで短刀の先を受け止めた。
短刀は金剛の手を刺したように見えたが、一瞬で錆びてボロボロと崩れてしまった。
金剛の手は全くの無傷だった。
みな一瞬の出来事でただ呆然と眺めていただけだった。
「何故…どうして…」
女将はヘナヘナと座りこんでしまった。
「蓮華に朱美に番頭の平次!今すぐ屋敷から出て行け!『河内屋』の恥だ!」
主人は女将たちに怒鳴った。
女将と朱美は泣き崩れた。番頭は肩を落として座りこんだ。
「すまなかった、藍、清太。」
解放された清太と母親の側に主人が歩いてきた。
「藍、お前が女将になってくれないか?そして、清太をわしの跡取りにしよう。」
主人が言った。
「私ごときにもったいないお言葉。ありがとうございます。」
母親は頭を下げた。
「藍、清太、屋敷に戻るとしよう。小春も行こう。」
母親は立ち上がり主人と歩き出そうとした。
清太も立ち上がったが歩こうとはしなかった。
清太は1人考えていた。
『『河内屋』の屋敷から出たいと思ってた…女将がいなくなって私はもう辛い思いをすることはない…けど…』
「清太、どうしたの?」
母親が振り返った。
「お屋敷に戻りましょう。皆、分かってくださるわ。」
金剛が清太たちに背を向けて歩き始めた。
それに気づいた清太は金剛の方に振り返り、膝間付いて叫んだ。
「金剛様!命を助けて頂き…ありがとうございました!お礼をしたいです!あなた様のもとで奉公させて下さい!お願いします!」
清太は頭を下げた。
金剛は清太をじっと見下ろしていた。
「そなたには光が溢れておる。」
金剛が呟いた。
「わしらと共に来るか?」
「はっ、はい!」
清太は立ち上がった。
「旦那様、母上、私は金剛様のもとに奉公に行きます!ありがとうございました!」
清太は笑顔で言った。
「清太?!どうして?!」
「清太、お前は私の跡を継げるのだぞ?それでも行くのか?」
主人が清太に聞いた。
「はい!お世話になりました!小春もさようなら。」
清太は深々と礼をした。
そして、金剛のもとに歩いていった。
「待って!兄上ー!私も行くー!」
小春は清太に向かって走った。
「小春まで…?」
主人は呆気にとられていた。
「金剛様!私もお供させて下さい!」
小春は立ったまま頭を下げた。
「不思議な子、私と同じ。」
紅色の服の女の子が言った。
「私とも同じ。」
青い服の男の子も言った。
「では、共に行こうか。」
金剛が歩きだした。
「父上!私は兄上と共に行きます!さようなら!」
その後ろには3人の子供、そして清太と小春がついて行った。
「何故、ついてきたのだ?」
歩きながら清太は小春に聞いた。
「母上のせいで屋敷で兄上と一緒にいれなかったから。それに兄上がいなくなっちゃうとまた婿の話を聞かされ続けるんじゃないのかって思って。」
小春は笑顔で言った。
金剛の屋敷では清太たちが奉公するまでもなかった。
式神と術によって屋敷はキレイにされていたため、清太と小春は
金剛に弟子入りし、陰陽術と金剛が新たに開発した魔術を学んだ。
最も、屋敷に2人を連れてきた金剛の目的はそれだった。
2人は必死に修行し、全ての属性魔術を習得した。
「そういえば、初めて会った時、私と小春の主になる属性を言い当てたのはお前たちの特殊能力なのか?」
修行を始めて5年後、清太は以前、紅色の服を着ていた女の子ー今では成長して10代前半の姿になった紅玉に聞いた。
「あの時の私たちは生まれたてだったからかしら…見えたのよ。あなたの体から光を放っているのが。小春からは火と水が入り交じっていたわ。でも、今は見えなくなっちゃった。」
「そうか。」
「私たちは金剛大也様から創られた式神。それぞれ属性に特化し、人間のように成長していく。だから、幼い頃に見えたものが見えなくなってしまったのかも。」
清太と小春は金剛と友人である安倍晴明と共に、敵である金剛から闇と金属の力を奪った怨霊とその後ずっと戦った。
千年後に弟子たちによって戦いは終結した。
『河内屋』にはその後、主人と藍の間に男の子が産まれ、その子が『河内屋』を継いだ。
そして、その子孫が『河内屋』が発展して大手百貨店の『河内屋デパート』となった。
「俺たちの実家がいつの間にか巨大な利益を生み出す店に変わったんだな。」
戦いが終わって、水晶玉から人間界の様子を見ていたクォーツが言った。
「今気づいたの?!良い店よ!若い子向けだったり、年寄り向けの店がいーっぱいあったんだから!リシアと何度も行ったわよ。和菓子の『半田屋』だっけ?オパールの実家の店も入ってたし。」
「今度、行ってみようか。」
「行ってきたら?デートしたい人とね!」
アメジストが意地悪っぽく笑った。
「それもそうだが…」
クォーツはじっとアメジストを見ていった。
「今度、兄妹で『里帰り』でもしようか。行ったことあるなら案内してくれ。そして、父のお墓に手を合わせに行こうか。」
クォーツとアメジストの過去の話はこれで終わりです。




