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外伝・河内屋の清太と小春1

番外編の1話目。

清太ことクォーツと、小春ことアメジストの過去を書いてみました。

勇太たちが産まれる千年前。

平安時代の呉服店の『河内屋』で10代前半の少年が忙しく働いていた。

働くといっても掃除といった雑用を押しつけられていた。

「清太、次は帳簿の整理をしときな。」

特に女将が清太に仕事を押しつけるので休む間もなかった。

それでも清太は苦ではなかった。

女中の子供として住まわせてもらっているから女将たちの命令で仕事をするのは当たり前だと思っていたからだ。

そんなある日、河内屋の屋敷の中庭を歩いていた清太は自分より年が下に見える幼い少女と出会った。

キレイな服装で髪もキレイに結われて河内屋の娘だと分かったので、清太は一礼して足早に通り過ぎようとした。

「あのー、お名前は?」

少女に呼び止められて清太は足を止めて振り返った。

「女中の藍の息子の清太と申します。」

清太はまた一礼した。

「清太…兄上なのね!お会いしたかったわ!」

「えっ?!」

嬉々として近づいてきた少女の言葉に清太は驚いて体が固まってしまった。

「使用人たちが言ってたの。清太って人は私の兄だって。でも、働かされてるって。」

初めて知ったことなので清太は何も言えずただ固まっていた。

「私は小春よ、兄上。」

小春はニコッと笑った。

「小春様ー。」

女中の呼ぶ声がして小春は急いでその場を立ち去った。

「またお会いしましょ!」

小春は笑顔だった。


その夜、清太な母親に聞いてみた。

「私の父は誰なのですか?」

「お前の父はいないと言ったはずよ…」

「私には妹がいるのですか?」

母親は驚いて清太をじっと見つめた。

「誰かから聞いたの?」

清太は頷いた。

「そう…いずれ分かってしまうとは思っていたけど…あなたの父は旦那様よ。だけど、女将は認めてくれていないわ。だって…この『河内屋』の跡取りはあなたになってしまうから。」

清太は黙って聞いていた。

「女将さんはご令嬢の小春様に『河内屋』を継いでもらいたいの。だから、使用人には強く黙らせてるみたいだったけど…誰かがあなたに言ったのね。」

母親は少し微笑んだ。清太は黙ったままだった。

清太の境遇は『河内屋』の清太以外の人間すべてが知っていたのだった。

自分だけ何も知らなかったーそのことに清太はしばらくショックを受けていた。

「あなたは知らなかったことにしなければならない。」

母親は強い口調で言った。

「ここ『河内屋』で生きていくために。」

清太は夜なかなか寝つけなかった。

頭の中がゴチャゴチャで自分でもどうすればいいか分からなかった。


それでも、次の日の朝はいつも通り仕事をした。

女将が何故自分にだけきつくあたるのか理解できたし、仕事しながら気持ちを切りかえることができた。

たまに中庭で小春とも会えた。

「兄上が跡を継いで頂ければ私は母上から色々言われなくても済むのに…」

清太は小春の話を聞いてあげていた。

「良いお屋敷の次男坊を婿にするって。私には兄上がいるのに…」

清太は何も言わなかった。

「小春!」

女将が驚いた顔でこちらに近づいてきた。

「何をしているの?!」

「兄上とお話をしていただけです。」

「兄上って…違うわよ!小春!」

女将は清太の頬を叩いた。

「小春に変なことを吹き込むな!使用人の分際で!」

女将は大声で怒鳴って小春の腕を掴んで立ち去っていった。

小春は悲しそうな顔でじっと清太を見ていた。

2人が見えなくなって清太は立ち上がり仕事をするために屋敷の中に入った。

「大丈夫だったか?頬を冷やしてやる。」

年をとった使用人の男が水で濡らした手ぬぐいを持って近づいてきた。

「かわいそうに…腫れているではないか…お前さんは知ってしまったのだね。」

頬を冷やしてもらいながら清太は頷いた。

「わしら皆、女将さんに脅されていたんだ…すまなかった…お前さんが辛い思いをしているのを助けてあげられなくて…」

清太の目から涙が出た。

「今日は仕事しなくていいから。女将さんはきっと部屋で小春様をしかってらっしゃるから出てこないだろう。お前さんのことを聞かれてもわしらがうまくやっといてやるさ。それに、旦那様も影でお前さんの見方をしてくれている。」

使用人に背中を押されて清太はトボトボと部屋に戻った。

部屋の畳の上にゴロンと寝転がった。

『何故、私は…こんな目に合わなければいけないんだ…』

清太の目からまた涙が溢れた。

『ここで生きていくために辛抱しなければいけない…けど…もし、ここを出ることができたら…』

清太は初めて『河内屋』から出ていきたいという気持ちになった。


その日、使用人が言った通り、女将は夕方まで小春をしかりつけていた。

「清太に知られてしまった…『河内屋』は…いずれ小春が女将になるのに…」

女将はギリギリと親指の爪を噛んでいた。

「誰かが清太を旦那様の跡取りにと言いかねない…どうしたものか…」

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