人間界との両立
「樹理奈ちゃん、ちょっとだけ話してくれたの。」
あきが口を開いた。
自分が芸能界を辞めたせいで詩織は覚醒剤に手を出した、自分が助けなかったせいで詩織は警察に捕まったー樹理奈はそんな自責の念を抱えていた。
「でも、それは原田さんのせいじゃない。責任感じなくて良いはずだ。」
勇太が言った。
「原田が突然芸能界を辞めたのは1つのきっかけだったかもしれない。けど、覚醒剤に手を出すのは本人の責任だ。」
海斗も言った。
「私もそう思う。でも、樹理奈ちゃんの心の傷が癒えるのは時間がかかるかな。」
「大林がいるだろ。大丈夫だ。」
海斗が言った。
「そういえば、クォーツ。さっきの…ホークアイさん。年齢を変えたりしてたよね?あれは人間界で働くため?」
勇太がクォーツに聞いた。
「ホークアイは最近、すべての属性をマスターした。闇属性を習得するのは容易かったそうだ。職業柄、人の心の闇を見てるから。正義感の強いヤツだから自分の心の闇に負けはしなかった。そして、人間界で実年齢の状態で仕事することを選んだ。」
ホークアイはjewelsとしては体の時間を止めていたが、人間界で警察として働いている時は実年齢で活動できるようにダイヤに術をかけてもらっていた。
しかし、敵の金属中毒との戦い後にダイヤはいなくなり、自分で術を習得し、年齢をコントロールするようになった。
「金属って俺たちは取得できないんじゃ?」
「希望があれば習得できるようにするぞ。ルチルの協力もいるが。闇も問題はない。」
海斗の質問にクォーツが答えた。
「あんな風に人間界で働いてるjewelsは?」
あきが聞いた。
「アクアマリン、モリオンは知っての通りだ。体の時間を止めている状態で働いてる。『Bar 蒼い石』のラピスたちもそうだ。後は…高校に通うターコイズ…」
「そうだ。ホークアイさんは『本名』って言ってた。モリオンの『黒森陽』って本名?」
勇太が聞いた。
「アクアマリンもモリオンも偽名で人間界で働いてる。人間界での自分の存在を消して新たな存在として生きていくというつもりなのかもな。そうだな、ホークアイぐらいだ。人間界での生活のままjewelsとしても魔術界で生活することもある。人間界では家庭を持っているが、相手は石ころ…普通の人間だ。」
まるで自分達の理想としている状態だなーそう思いながら勇太は海斗を見た。
海斗も勇太と目が合い、同じ事を考えているのだとお互い分かった。
「体の時間を止める…つまり不老不死状態にならなくてもイイってことなんだよな?」
海斗がクォーツに聞いた。
「そうだな。jewelsみな選ぶ権利はあるが、みな体の時間を止めることを選んだ。そうなると、人間界で存在を消さなければいけなくなるが、お前達はまだやることがあるんだろ?師匠は国家試験後にお前達に選択させるつもりだったそうだ。」
クォーツの言葉に助手は頷いた。
勇太たちは今は国家試験のために勉強している。
3月に国家試験が終われば大学を卒業し、4月から社会人としてそれぞれ就職する。
国家試験という大きな目標の後に、jewelsとしての選択もしなければならないー勇太にはまた大きな課題ができたように思えた。