嫌なヤツとも再会
「詩織?」
「うん…樹理奈ちゃんお久しぶり。」
詩織はマスクと目深に被っていた帽子を脱いだ。
詩織は樹理奈が『こすもおーら』で活躍していた時は、『なでしこShio』の愛称だった。
おっとりとした口調にセミロングの黒髪、目は一重でほんわかした印象が人気だった。
しかし、今、樹理奈の前に立っている詩織は以前より痩せて、目の下に隈があり、髪も金髪で以前の雰囲気とは変わってしまっていた。
「詩織、お久しぶり。変わったね。」
「樹理奈ちゃんは前と一緒だね。」
詩織は優しい笑顔になった。それを見て樹理奈は少し安心した。
「詩織は仕事でこっちに?」
樹理奈はそう聞きながら詩織に分からないようにこっそり人払いの術をかけようとした。
「ううん、違うの…樹理奈ちゃんに会いに来て…もう1人来てるんだけど。」
詩織は後ろを振り向いた。
「…えっ。」
樹理奈は驚いて術をかけ損なってしまった。
詩織の後ろの校舎の陰からサングラスとマスクを外しながら武田シオンが出てきたのだ。
「よう、Juri。ドラマ以来だな。」
樹理奈は驚いて硬直したままだった。
「おいおい。“元カレ”との再会に感動したのか?」
シオンはヘラヘラと笑いながら言った。
「“元カレ”って…付き合ってなかったのに…ドラマの打ち上げの時にちょっと話しただけで…」
樹理奈はシオンの言葉に我に返り、過去を思い出しながら怒りがふつふつと沸いた。
でっち上げられた熱愛報道後、樹理奈はファンからのバッシングでかなり迷惑したのだ。
「まっ、あの時はすまなかったな。お陰で仕事に恵まれるようにはなった。」
シオンはニヤニヤしながら言った。
『全然悪いなんて思ってない!』
樹理奈はシオンの言動に腹をたてていた。
「さっ、Juriに本題を話さなきゃな。」
シオンはペットボトルのコーラをグビグビ飲みながら言った。
「お前、この女と仲良いんだろ?」
シオンは紙を樹理奈に見せた。
A4サイズの紙に『Juriは有機化学研究室所属(^◇^)』と書かれたタイトルの下に、樹理奈たち研究室のメンバーが校舎からちょうど出てきた写真が印刷されていた。
「お前の横にいるこの女。今呼んでくれ。」
シオンは写真に写るあきを指差して言った。
「なっ、何なの、この写真…盗撮じゃない!」
樹理奈は知らない間に写真を撮られていたことにも驚いたが、シオンがあきを呼べと言っていることに理解できなかった。
「お前も…というか『こすもおーら』のRumiだったか。変なストーカーがいたんだろ?」
シオンが少し真顔になって言った。
「俺にも同じことがあったんだよ。2年か3年前だったか。その時に解決させた人物の中にこの女がいた。最近思い出した。」
「樹理奈ちゃん、私もなの。留美ちゃんにあったこと、最近思い出したの。」
詩織も言った。
『それって元 魔術修行してた人が起こしたっていう…忘却術をかけられてたけどそれが解けたってこと…?!』
樹理奈は黙って考えていた。
「詩織に話たらさ、詩織たちにも俺とおんなじことがあったって。でも、その女たちが介入して俺の記憶からなかったことになった。そう、最近までは。お前がその女と一緒にいるのはお前は覚えていたってことか?あるいは、俺たちと同じで思い出したのか…まぁいい。その女を今呼んでくれ。」
『なんで、あきちゃんをこんなヤツのために呼ばなくちゃいけないの。忘却術をかけられた腹いせに何かするんじゃ…』
樹理奈はそう考えて、黙ったままだった。
「お願い、樹理奈ちゃん。私たちにはその人の力が必要なの。」
詩織が樹理奈の両手をグッと握って来た。