一條との契約
「じゃあ、パールが魔術界に関わったのって一條創の思惑だったんだ…」
クォーツの話を聞きながら貴司が呟いた。
「そうだ。師匠も晴明様も塾生ではないパールもよこしてきたことの意味をちゃんと分かっていた。だが、パールは最終的に魔術界側についた。」
それは、教授と創がとある契約を結んだのがきっかけだった。
“一條家は代々嫡男が1人だけ産まれる。
その者は経営する学びの場から魔術界に弟子を提供する。
一條家当主は儀式により、代々の記憶を引き継いでいく。”
時代が変わっても一條家は塾や道場を開き、そこから魔術修行してjewelsになる者が出てきた。
しかし、モンドも魔術界が優勢になるのを阻止するために心の闇につけこんで一部の弟子を闇に堕としていった。
それをずっと繰り返してきた。
「金剛先生はもういないってことは契約は…」
「いいところに気がついたな。そうだ。一條と魔術界との契約は今の当主である譲で終わりだ。」
勇太の言葉にクォーツが続けた。
「でも、理事長って子供2人いなかった?女の子と男の子。」
樹理奈が言った。
「女は嫁の連れ子だ。譲との血縁関係はない。」
クォーツが言った。
「ねぇ、クォーツ。金剛先生…ダイヤも娘しか生まれてないよね?それも契約と関係あるの?」
あきが聞いた。
それに4人はハッとした。
貴司のメモにも代々のお文の本名と“ダイヤには息子ができたことはない。”との文言もあった。
「文子の言ってた通りだな。お前たちは賢い。だから、小細工は効かない。疑問を向けられたら全て話さなければ納得はしないと。さすがに小細工で誤魔化すことはするつもりなどなかったが。」
クォーツはため息をついた。
「一條には嫡男1人を保証する代償として師匠には娘しか生まれなかった。双子が生まれたことがあったが、それは一條との契約には差し支えなかった。」
その双子とはあきの祖母の初枝とお文となった文枝のことだとみな分かっていた。
「師匠にとって娘しか生まれないことはむしろ都合が良かったそうだ。金剛家が続いていって欲しくはなかったらしいからな。金剛の血は師匠がかける呪いは1度しか効かない。それが敵にいくことを恐れていた。が、双子の片割れの末裔がここにいてしまってるがな。」
クォーツはあきを見た。
「話を戻そうか。パールは魔術界側についたのはずっと一條家を見守るためだ。だから、パールは今でも一條家の女中の気持ちを持っている。」
その頃、一條学園の理事長室をトントンとノックする者がいた。
「どなたか?」
理事長が部屋の中から応答した。
「亜弥子です。」
「入って。」
パールがドアを開けて理事長室に入った。理事長は立ったままパールを迎えた。
「あなたが儀式を終えて以来ですね。」
パールは理事長を見てニコリと笑った。
「金剛大也がこの世を去りました。」
「そうらしいな。あいつとは式神をよこして来ないという約束だったのにそう伝えに来た式神が来たからな。」
「魔術界と一條家との契約もあなたで終わりです。ご子息には儀式を行わないものと思われます。」
「そうか…その方が良いな…」
理事長は応接用のソファーに腰かけた。
「魔術界も敵との戦いに終止符をつけました。あなたの生徒たちのおかげで。」
パールはひざまづいて言った。
「座ってくれ。もう一條家の女中ではないんだ。」
理事長はパールを向かいのソファーに座るように促した。
「先代からの一條家への忠誠心、ずっと何百年と変わらずいてくれていたことに感謝する。亜弥子、もう1人の女として生きてはどうだ?先代もそう願っていた。」
パールは立ち上がって理事長に一礼し部屋を出た。