100㎏
「あの…すまなかったな。」
突然、ペリドットが勇太に謝ってきた。
勇太のキョトンとした顔を見ながら、
「実はな、この鉄アレイなんだが、5㎏じゃないんだ。」
と言った。
「えっ?!」
勇太は驚いて鉄アレイを見た。鉄アレイには“5.0㎏”と刻印されている。
「実は、修行中は100㎏にしてたんだ…ただ、5㎏の鉄アレイを浮かせるのじゃ面白くないと思ってな。でも、それがお前さんを焦らせてたんだよな。仲間はみんな次の術式に挑んでるの知ってたんだよな。5㎏に戻そうかと悩んでたところだったんだが、その…すまなかった。」
勇太は、
「100㎏だったんだ…」
と言った。道理でなかなか浮かないはずだ。
「でも100㎏にしてたのは俺なりの考えでもあったんだ。これ飲んで縄を術式で出した見ろ。」
勇太はペリドットから赤色の液体が入っている小さな小瓶を手渡された。
勇太は小瓶の中に入っている液体をぐいっと飲みほした。体の中からじんわり温かいものが体全体を包み込んでいく感覚になった。
「それは魔力を瞬時に回復させる薬だ。今度は“縄”だぞ。」
勇太は指を軽く振った。散々、魔力を指で書いてきたので、イメージした字を指で振るだけで出せるまでになっていた。そして魔力をこめた。
勇太が出した“縄”の文字が少しずつ溶けるようにモヤを出し、そのモヤが何十本もの縄に変わっていって、縄がドサッと床に落ちた。
「えっ、あれ?」
勇太は2、3本ほどの縄をイメージして術式をかけていたので何十本もの縄が出てきてビックリした。
「100㎏の鉄アレイを浮かせる魔力量を出すのに慣れてたからな。術式のイメージだけじゃなくて常に魔力をほとんど使い果たして魔力核の働きを活性化させて魔力量を上げる修行と同時にやってたんだ。あとは魔力量の加減の練習もしていかないとな。」
しばらくすると縄が消えた。
「自信持てよ、勇太。正直、100㎏浮かせるのはもっと時間がかかると思ってたからな。今日はお前以上に俺がビックリしてる。」
「あの、ありがとう…」
勇太はペリドットにお礼を言った。
『自信持てよ』その言葉がかなりうれしかった。
修行が終わって講義室に戻ってきた勇太はキョロキョロとあきを探した。
あきは端の方の席に座っていた。
勇太は急いであきの方へと駆け寄った。
「野上さん!」
大声で呼んだので周りにいた生徒たちがビックリして勇太の方を見た。
勇太は気にせずあきの前に立った。
「ありがとう!お陰で浮かせられたよ!」
あきは表情1つ変えなかった。
勇太は晴れやかな顔で座っていた席に戻っていった。