魔術界と一條
帰宅して部屋に入った勇太はポケットからアンモナイトの化石を取り出し、元々あった本棚に置いた。
化石が勇太に返ってきたということは晴明との繋がりがなくなったことー晴明との突然の別れはやはり寂しかった。
『だいたいいつもパソコンの前にいたよな、晴明は。ブラインドタッチもできてたし、金剛先生に教えてもらったとはいえ、パソコンは俺よりできてたな…』
そう思いながらベッドに寝転がった。
そして、じっとアンモナイトの化石を眺めた。
『じいちゃん、俺、世界を救ったんだ…言い方が大袈裟かも知れないけど。俺は少しでも大きな星に近づいたかな…』
勇太はどっと疲れを感じだし、うとうとと寝かけていたが、母親に起こされてお風呂に入ってからようやくベッドで寝た。
次の日の放課後、5人はまた研究室に集まった。
「中島君が昨日メールくれたお陰で思い出したんだ。モリオンは附属高校出身だって。高校の先輩だったんだよ。」
貴司が言った。
「雅子とロードは女学校に通ってたって言ってたわ。だから、昨日メールで聞いたの。そしたら今日ね、ロードから返信来たの。『一條女学校だった』って。」
樹理奈がみなにロードからのメールを見せた。
「ペリドットは道場に通ってた時に扉が開いたって言ってたから道場の名前を聞いたんだ。『道場の名前は一條道場だった』って。ってことは、魔術界と一條との関係って…」
勇太はみなを見回して言った。
「一條家が経営している学校から魔術界は弟子を選んでるってことか。」
海斗は頷いた。
昨日、勇太は寝る前にふと魔術界創設組でないjewelsが学生の時に扉が開いて魔術修行を始めたという者が多いことを思いだし、みなにメールしたのだった。
「ガーネットはコンタクトとれないから分からないし、サファイアとジルコンは魔術界創設組だし…」
あきが言った。
「オパールは寺子屋に通ってた時だったってちらっと言ってたな。アクアマリンも学生の時だ。ルビーは違う。トパーズは不明…聞いときゃよかった。」
海斗が言った。
「どのみち、クォーツか文子先生に聞けば分かるか…」
勇太が呟いた時だった。
『jewelsに告ぐ。』
頭の中で声が聞こえた。
「えっ?!」
「何?!」
「この声は…クォーツ…」
5人の頭の中でクォーツの声が響いた。
『ダイヤからダイヤモンドの宝石核を受け継いだ。俺、クォーツが魔術界を仕切ることとなった。』
5人は黙ってクォーツの声を聞いていた。
「不服のある者もいるだろう。魔術界の中央にある天守閣の中の『光と闇の空間』で聞こう。」
ぷつっとクォーツの声が消えた。
「今の、何だろ…脳に聞かせてた感じじゃなかったよね?」
貴司が言った。
「相手の脳じゃなくて宝石核に呼びかけてたのよ。それができるのがダイヤモンドの宝石核の力なんだわ。」
あきが言った。
「大林君、よく分かったね。俺は頭の中でクォーツの声が響いていたしか分からなかった。」
勇太が言った。海斗と樹理奈も頷いた。
「えっ、あっ、いや…何となくだけど。」
貴司は顔を赤くして照れていた。
「大林君って呪い系の感知に長けてるのかもね。」
あきが言った。
「不服はないけど。」
「『光と闇の空間』へ行こう。」
海斗と勇太の言葉で5人は魔術界の『光と闇の空間』に移動した。
「いやー!とりあえずお前も飲め!」
オパールがクォーツにお酒の入ったグラスを押しつけていた。
「いや、いらん。」
空間の真ん中、金の五芒星が埋め込まれた場所から一歩下がった場所にクォーツが立っていた。
クォーツはピシャリとオパールの酒を拒絶していた。
クォーツは両手で大きな透明な玉を抱えていた。
「お前はこの城の主になったんだぞ!喜べ!祝え!」
オパールはまだ酔っぱらっている様だ。
「おっ、お前たちも祝いに来たのか?それとも文句を言いに来たのか?」
オパールが5人に言った。酔っている割には顔は赤くはなかった。
「オパール、ここにいたのか!ったく、昨日からずっと飲みっぱなしなんだぜ。」
ペリドットが現れた。ペリドットの姿は半透明な状態に戻っていた。
ペリドットは手をオパールの肩に置いた。半透明だが、ペリドットの手はオパールの体をすり抜けなかった。
「文句がないなら行くぞ。クォーツとはまた一緒に飲んだらいいだろ。」
そう言ってペリドットとオパールの足下に魔法陣が現れ、ピカッと一瞬光ったかと思うと2人は姿を消した。
『ペリドット…俺たちに気を使ってくれたんだ…ありがとう。』
ペリドットは勇太たちが『光と闇の空間』に来ているのをちゃんと見ていた。
「さて、お前たちは何を言いに来たんだ?」
クォーツが勇太たちに向かって聞いた。