闇の中の貴司
「大林君、まだ出てこない。何か闇が濃くなってるように見える…」
闇のもやに包まれた貴司が出てくるのを勇太たちはじっと待っていた。
貴司は真っ暗な場所に1人で立っているのに気づいた。
『僕…何でここに…?』
ぼんやりと考えいた時だった。
貴司の前に勇太が建っていた。
『中島君…?』
「中島君は始め僕と気が合うと思っていた。」
貴司の声が勇太の後方から聞こえてきた。
「修行も僕より少し遅れていた。けれど、光属性で安倍晴明と同じ魔力という特性を持っていた…それに野上さんとも付き合いだした。中島君は変わってきた…だんだん男らしく…かっこよく…」
『そうだ…僕、中島君が羨ましいんだ…』
貴司の前にいた勇太の姿が消えて海斗に変わった。
「松下君は僕とは違う…勉強はできてモテて…それに顔がカッコイイ!何にも悪いところがない!全てを満たして生まれてきて不公平だよ。」
『そうだよ…』
海斗の次はあきの姿に変わった。
「野上さん…中学高校の途中まで明るかった。成績も勝てなかった。そのときには魔術師だったなんて。今は原田さんと仲良いし中島君と付き合ってる…」
『そうだよ…』
あきの次は樹理奈の姿に変わった。
「原田さん…Juri…僕は…ずっと会いたかった…話もしたかった…まさか大学が一緒で研究室も一緒になるなんて思ってなかったけど…ストーキングしてたわけじゃない!僕は…」
貴司はようやく目が覚めた気分になった。
「そうだよ!僕は自分が行きたい大学、行きたい学部、行きたい研究室に来たんだ!そこにたまたまJuriもいた!中島も追いかけてきたように見えないって言ってくれたんだ!僕は…堂々としても大丈夫なんだ!それに…Juriが好きになったんだ!」
貴司がそう叫んだ時、目の前の樹理奈の姿が消えた。
『大林君!』
樹理奈の姿は消えたのに樹理奈の声が辺りにこだましていた。
「原田さん…Juri!」
貴司の目の前に光が差して、貴司は光に手を伸ばした。
「大林君!」
樹理奈が貴司に向かって叫んでいた。
パンと貴司を包んでいたもやが弾け、貴司が姿を現した。
「大林君!」
「良かった!」
勇太たちが口々に貴司も闇の中から脱出できたことに喜んだ。
「みんな…もう出てきてたんだね。」
貴司は自分が最後だったことが少し悔しかった。
「俺だって1番じゃなかったんだ。勇太が先だった。」
「まぁ、これは順番が大事ではなかったからね。」
海斗と勇太は貴司に笑いかけた。
「ありがとう。原田さん…僕は…ファンでした!Juriの。」
貴司はまっすぐ樹理奈を見て言った。
「デビューの時からファンだった…CDも買ったし、ドラマも見てたよ。ライブも行った。それがJuriの引退宣言したライブだったけど。」