それぞれの心の闇ー貴司3
その後、魔術界への扉が開いて、研究室メンバーのあき以外の4人が魔術修行をすることになった。
はじめの師匠はパールだった。
パールは優しく丁寧に教えてくれた。
貴司はそんな優しさに安堵しながらも修行していた。
研究と修行を通して勇太と海斗とも仲良くなった。
勇太とは研究室からの帰り道で修行の話を含めた色々な話ができた。
海斗は貴司と成績が同じぐらいだが、かっこよくてモテて何人の女子と付き合っていたのを貴司でも知っていた。
海斗のことは自分とは対極の存在に感じていたが、海斗が勇太と海斗の部屋でする飲み会に呼んでくれたり、研究室での反応式を聞きに来たので一緒に考えたりして、距離が縮まってきたことにうれしく感じていた。
樹理奈からケータイのアドレス交換をして欲しいと言われた時は冷静さを装うのに必死だった。
『Juriのファンが見たら怒るだろうな…』
そんなことを思っていた。
貴司は自分から樹理奈にメールを送ることはできなかった。
送りたくても何て送って良いのか分からなかった。
魔術修行、海斗誘拐、勇太を介しての安倍晴明の復活、敵の奇襲…魔術界に関わったことで、様々な出来事があった。
それを研究室のメンバーと一緒に乗り越えていったことで、特別な絆ができた気がしていた。
樹理奈とも気を楽にして話せるようになったが、たまに樹理奈のことを『Juri』と言ってしまいそうになっていた。
そして、だんだん樹理奈への想いが憧れから好意へと変わっていった。
そのことに貴司も自覚し始め、余計にファンだったことが言えなくなってしまった。
魔術修行がより楽しく感じ始めたのはモリオンが貴司の師匠になってからだった。
「貴司、この人がモリオンよ。」
上級魔術師になって修行を始める時にパールから紹介された男ーボサボサの髪に黒ぶちの円い眼鏡をかけ、無精髭を生やした黒い袴を履いた20代後半ぐらいの青年だった。
そんなモリオンの容姿に親近感を覚えながら、
「こんにちは。貴司です。よろしくお願いします。」
とあいさつした。
「あなた以来の無属性よ。モリオンの修行を思い出させてくれる子なの。今日はモリオン1人でお願いね。」
そう言ってパールは姿を消した。
「相変わらず、俺のことガキ扱いだな。」
モリオンがやっと口を開いた。
「俺はモリオン。今、大学で研究もしてる。さて、何からするか。」
モリオンは積極的に術を教えてくれた。
図書館から本を持ってきて、今なぜこの術を
教えてくれるのだろうと思うような術まで教えてくれたが、それが後に大いに役立ったので、モリオンは先を見据えて教えてくれているものだと分かった。
研究者気質のモリオンとも話が合うので、貴司はモリオンのことを憧れのお兄さんのように感じていた。