それぞれの心の闇ー貴司2
『Juri芸能界から引退』
『欲しいものとは何か?明かさぬままライブ会場を後に』
『結婚?妊娠?それともシオン?』
Juriの突然の引退宣言の次の日からワイドショーやスポーツ紙、週刊誌がこの話題で持ちきりだった。
貴司もネットで必死になって情報を集めていたが、どれも同じような内容ばかりで真相は分からず終いだった。
『結婚説が一番有力って言われてるけど、相手が分からない…武田シオンと週刊誌で写真撮られたけど、Izuが否定してた…それにあのスキャンダルで武田シオンが売れだしたんだ…きっと売名に間違いなかったんだ…じゃあ欲しいものって何だ…?』
貴司は調べるのを諦めて大学受験に専念することに決めた。
高校3年生になって、成績は落とさずにいたので、新設される一條学園大学薬学部を第一志望に決めた。
『僕たちの年が最後の4年制だ。それ以降は薬剤師になるのに6年も大学にいなきゃいけないとなると学費がかかる…薬の研究って道もあるし。』
そんな中、
「聞いてー!Juriが一條学園の薬学部受けるって!」
クラスで女子が話しているのを聞いた。
貴司は思わず話している方に振り向いた。
「それって、マジなの?」
「先輩の友達が通ってる予備校にJuriもいるらしくて、そっからの情報。」
「間接的すぎて怪しくない?」
貴司は驚きすぎて硬直しっぱなしだった。
『Juriも一緒の大学…しかも同じ薬学部!…まさか…』
貴司は半信半疑だった。
しかし、ネットでJuriが一條学園大学薬学部を受験することが出回り始めた。
貴司は悩んだ。
『Juriを追いかけて一條を受験したって思われないだろうか…おっかけ…ストーカー…違う、僕は知る前から第一志望にしていたんだ!』
貴司は意を決して一條学園大学薬学部を受験した。
貴司は一條学園大学薬学部に合格し、入学式に行くと人だかりが見えた。
「Juriだよ!ウワサは本当だったんだ!」
誰かがそう言っているのが聞こえた。
みなと同じスーツ姿で、人だかりからJuriが抜けていくのが見えた。
『ほっ…本当だったんだ…』
ライブでよりも近くでJuriを見て貴司はうれしさのあまり顔を赤らめた。
大学が始まって、貴司はJuriことが樹理奈が気になって仕方がなかった。
なるべく見ないようにはしていた。
しかし、樹理奈を見に来る他学部の生徒や教師たちが目に入ってしまっていた。
樹理奈が誰かと付き合うのかもずっと気になっていた。
自分からファンだったと言いに行く者、告白する者もいたが貴司は自分がそうすると樹理奈にドン引きされると思いしなかった。
大学で仲良くなった友達にも言わなかった。
そして、3回生の9月に研究室配属の発表が掲示板であった。
“以下の者を有機化学研究室に配属する。
野上あき 松下海斗
大林貴司 中島勇太
原田樹理奈
以上
教授 金剛大也”
「大林君は有機化学に決まったんだー。」
一緒に掲示板を見に来た友達に言われたが、貴司は驚いて声が出なかった。
『Juriと一緒!?』
うれしかったが、研究室で樹理奈と話ができる自信がなかった。
講義が終わり、友達と別れて1人で研究室に向かった。
研究室の扉を開いて中に入るとあきが入口と反対にある奥の部屋に入っていくのが見えた。
貴司はあきについていった。
あきが円いテーブルの一番奥の椅子に腰かけた。
「野上さんも一緒だね。」
「えぇ。」
貴司とあきは中学から一緒の中で成績も上位グループだったがさほど話したことはなかった。
貴司もあきの右2つ隣の椅子に腰かけようとした時だった。
「あっ、そっちにいるんだ!」
樹理奈も研究室に入ってきて貴司たちがいる奥の部屋に向かってきた。
貴司は慌ててあきの右真横の椅子に座った。
「後、2人だねー。」
樹理奈はあきの左横の椅子に座って貴司にほほえんだ。
貴司はドキッとして顔が赤くなるのを抑えながら、
「そっ、そうだね。確か…松下君と中島君…」
と答えた。
樹理奈と話したのは初めてだった。