それぞれの心の闇ー貴司1
「今日からデビューします、『こすもおーら』のIzuでーす!」
「Juriでーす!」
貴司の目が釘付けになった。
『かわいい…それに何か他の子と違う!』
デビュー曲『COSMOの彼方へ』を躍りながら歌っているJuriこと原田樹理奈に貴司は見とれてしまった。
『年は僕より1つ上…『こすもおーら』に入る前はオーディション落ちまくってたって…審査員の見る目ないぞ!…何だろう…他の子たちとオーラが違うのに!』
貴司はJuriのことをパソコンで調べまくった。
販売されるCDもすぐに購入し、すっかりファンになっていた。
『歌も上手いし、ダンスもかっこいい…けど、『こすもおーら』のファンって知られたらまた気持ち悪がられるだろうな…』
貴司は誰にも『こすもおーら』のファンだとは明かさなかった。
しかし、『こすもおーら』のライブ開催が発表されると行きたくて仕方がなかった。
『クラスの女子にファンの子結構いるんだよな…もし、ライブに行って遭遇したら…』
クラスで『こすもおーら』のファンだとバラされるのが怖くて、初ライブは行かなかった。
時が経つにつれ、『こすもおーら』はどんどん売れ、ファンも増えてクラスの男子も自分はファンだと公言する者も出てきた。
『僕がファンだとバレても大丈夫かな…だったら、今度のライブは行くぞ…!』
貴司は成績を元の状態にまで上げたらライブに行くことを決めた。
授業の合間の休憩時間にも必死に勉強し、試験を終えた貴司はドキドキしながら掲示板を見に行った。
“1位 野上あき
2位 土屋匠
3位 大林貴司
…”
「やった…」
思わずガッツポーズして声が出てしまった。
近場でのライブは1年後だった。
そのチケットに当選し、貴司は意気揚々とライブ会場に向かった。
電車で1時間の所にあるホールには様々な男女が集まっていた。
貴司はホールの客席の真ん中より前の席をゲットできた。
最前列には『こすもおーら』のメンバーの名前を書いたうちわを持った女子の集団、『こすもおーら』グッズのTシャツを着た男子の集団を見て貴司は自分がファンであることは気持ち悪くないと思い安心した。
ライブが始まり、貴司は周りの観客と一緒になって立ち上がり拳を振り上げ盛り上がった。
突然、Juriがマイクを握りしめて1人ステージの中央に歩いて来た。
「最後の曲ですがー…私、Juriは…欲しいものができました!芸能界から卒業します!」
Juriの突然の発言に観客席はどよめいた。
貴司も驚いて目を見開いたまま硬直していた。
『…そんな…勉強頑張ってやっとライブに来れたのに…僕にとって最初で最後の『こすもおーら』のライブになってしまった…』
『こすもおーら』のJuri以外のメンバーは事前に知っていたようで落ち着いた様子だった。
最後の曲はデビュー曲の『COSMOの彼方へ』だった。
Juriは笑顔で、目は涙をにじませながら歌っていた。
「さーあ、行こう。COSMOの彼方へー。」
最後の歌詞パートはJuriのソロだった。
貴司は呆然と眺めていた。