それぞれの心の闇ー樹理奈2
「じゃあね。試験頑張って!合格したら4人でお祝いしよう!」
「ありがとう!泉も仕事頑張ってね!」
樹理奈と泉はその後色々雑談をして別れた。
『私、昔も今も色んな人に支えられてる…』
帰り道、樹理奈はひとり物思いに耽っていた。
『だから今は目の前の問題に全力で立ち向かわなくちゃ!泉と話できて吹っ切れた気がする。』
樹理奈は正直、芸能界に未練がないわけではなかった。
泉の言っていた通り、事務所の社長からの復帰の誘いもあったが、国家試験に集中したいと言って断っていた。
社長からの誘いはうれしかったが、中途半端にアイドルを辞めて、また中途半端に復帰するのはさすがに気が引けた。
『あの人に…少しは芸能界に戻りたい気持ちがあるって分かってしまったら幻滅されるだろうな…今まで中途半端な気持ちでやってたのかって。中島君にはもう誰かバレちゃったかな…あきちゃんがバラすのは考えにくいけど。分かったとしても中島君のことだから黙っててくれるかな。』
樹理奈には好きな人がいるが、それが誰かはあき以外の誰にも明かしていない。
勇太には好きな人の存在しか言っていないが、そろそろ気づかれているだろうかと思っていた。
『国家試験も…金属中毒のことも…すべて終わったら告白しようかな…』
そう考えながら帰宅した樹理奈は眠りについた。
「フローライト、クリソコラ。この2人は心の闇とちゃんと向き合ったんだな。」
研究室でモリオンが海斗と樹理奈の様子を見てつぶやいた。
横で研究の手伝いをしていた貴司は気まずそうな顔をした。
モリオンはそれを見逃してはいなかった。
「焦るな。ジルコニウムの動向が分からない今だからこそ、心の闇と向き合っておく必要があるが、敵は今日明日に襲撃してくるとは限らない。それに、今はこの建物に強力な結界を張ったり、お前たちにクォーツたちが護衛用の式神をつけている。まだ時間はある。」
貴司は黙っていた。
「明日は講義、午前中までよね?」
帰り道、勇太にあきが言った。
「そうだね。あきは午後から図書館で勉強?」
「ううん…行きたい所があって。中島君、一緒に付き合ってもらっていい?」
「いいよ。」
また突然、ラブホに連れていかれるわけではなさそうだが、あきは帰り道ずっと何か考え事をしているようだった。
勇太も黙ってあきの手を握っていた。
『大丈夫。何があっても守るから。』
そう思いをこめて握っていた。