それぞれの心の闇ーターコイズ
「モンドは人の心の闇につけこむのに長けている。心の闇はどんな人間にも存在するものだ。後ろめたいこと、避けていることが心に少しでもあればモンドにつけこまれて引き込まれる。モンドと対峙するのなら術云々を鍛える以前に心の闇を自身で克服しておくことだ。」
クォーツが言った。
心の闇ー後ろめたいこと、避けていることとはなんだろうかと勇太は考えた。
「それぞれないわけではないはずだ。」
クォーツがそう言った時、ゾクッとするような寒気を感じた。
勇太だけでなく他の4人も感じたようで、みな体が硬直していた。
「これが闇属性魔術か?」
ターコイズがクォーツに聞いた。
「あぁ。」
クォーツが返事した。
「なんで今、闇を?」
貴司が聞いた。
「悪いがお前たちの心の闇を見せてもらった。みなそれぞれ何かしらあるようだな。ターコイズ、お前もな。」
クォーツが言った。
ターコイズは黙っていた。
「…土屋君だよね?」
貴司がターコイズに言った。
「見覚えがあるなって思ってたんだ。高校の時に同じクラスだった土屋君とそっくりだって思った時、その時まで土屋君の存在を忘れてたんだ。だから、高校卒業後、術で土屋君に関する記憶を消されたんじゃないかって思ったんだ。モリオンに聞いたよ。ターコイズは附属高校にずっといるって。ただ、勉強するためだけに何十年も高校生をしてるって。」
ターコイズは気まずそうな顔をした。
「ターコイズ、観念したら?大林君をあなどってはいけないね。」
あきが言った。
「えっ、あきは知ってたの?」
勇太が驚いて聞いた。
「私も同じクラスだったもん。でもなんでずっと高校生してるのかは知らない。」
あきが答えた。
「地縛霊みたいにずっとあそこにいるのはもう止めたらどうだ?」
オパールが真剣な顔でターコイズに言った。
ターコイズはしばらく黙ったが口を開いた。
「後、5人分…俺は高校生活をおくらなきゃいけないんだ。」
「5人?」
樹理奈が聞いた。
「俺は戦中、特攻隊隊員だった。俺の前に出撃して命を落とした連中はそれが家族や国のための名誉なことだと本気で思っているヤツもいたさ。俺もその1人だったけど。でも、ある1人がぽつりと言ったんだ。『もっと勉強しておけばよかった』って。俺の出撃命令が出る前に戦争が終わって、俺は無気力になってしまってさ。でも、そいつの言葉がずっと耳に残っていた。それで、ダイヤが一條に頼んでくれて何十年と高校生活をおくっているってわけだ。」
ターコイズが言った。
「土屋君は…成績も良かったのに全然目立ってなかった。仲の良い友達も思いつかない。それも術で?」
貴司がターコイズに聞いた。
「そうさ。どうせ高校卒業と同時にみんなの俺に関する記憶を消すのに友達なんか作ってもな。成績が良かったのはそりゃ何十回も高校生活をおくってりゃな。それでもあきに負けたことはあったけど。」
「それって高校生活をすごしてるって言えないんじゃ…」
樹理奈が言った。
「だって友達との時間も含めての学生生活じゃない。部活とか彼女とかもあっていいと思う。私は高校生活の半分以上が芸能活動だったから学校の行事に参加できなかったこともあって、今でも少し後悔してるの。今は何年生?」
「2年生だけど…」
ターコイズは樹理奈に少し圧倒されながら答えた。
「じゃあ、後1年半は好きなようにすごしたら?2年の今頃って一番楽しい時じゃない!」
ターコイズは少し目を潤ませていた。
「樹理奈ちゃん…クリソコラの言うとおり、もう義務感にかられることはないってことだ。」
オパールはターコイズの肩にポンと手を置いた。
「とりあえず、ターコイズは大丈夫なようだな。」
クォーツがつぶやいた。