正の感情
勇太は魔力を5分以上球体に維持できるようになった。
今度は大きさを変えたり、形を変える練習を始め、これもできるようになってきた。
「お前、何か良いことがあったのか?」
修行の休憩中にペリドットが勇太に聞いた。
「えっ、特に何も…」
勇太は戸惑いながら答えると、ペリドットが笑いながら、
「今のお前は“正の感情”が勝っているんだよ。魔力が豊かだから上達も早くなるんだ。」
「“正の感情”?」
「英語でポジ…」
「positive?」
「そう!それ!この時代の学問、一応勉強したつもりだったんだけどな。」
海斗と貴司と飲み会をしてから2人に差をつけられている感じがずっとあった。だから少しでも差を縮めたいという思いがより強くなって、できることから2人に頑張っていこうと思っていた。それが“正の感情”だというのだ。
勇太はふとあきの話を思い出した。
「心の闇…闇の魔術師たちが強くなるって…」
「知ってたのか。この前話した属性魔術の1つ、“闇魔術”は自分以外の人間の負の感情つまり“心の闇”をも糧にして増大する性質があるんでな。今のお前の感情を大事にしてくれよ。」
勇太は座りながら目をつぶって手を広げた。
「おぉ!」
ペリドットが歓喜の声をあげた。
勇太の手から魔力の玉が大きくなったり小さくなったり、分裂したりくっついたりを繰り返した。
「ふぅ…」
魔力の玉が消えて勇太はため息をついた。
「合格ね。明日から初級魔術師の修行をしてもらうわ。」
突然、ルビーが現れて言った。
勇太は驚いたが、ペリドットは平然としていた。
ペリドットは、
「早かっただろ?」
とルビーに得意気に言った。
「えぇ。今回、みんな上達早かったわ。この子が最後。」
ペリドットは目を丸くした。
「ほかの連中はもう初級魔術師に上がったのか?」
「海斗と珠理奈は3日前、貴司は昨日から始まってるわ。」
ペリドット以上に勇太も驚いていた。また先越されてたんだ…愕然としていると、
「すぐに追い越せるさ。」
ペリドットが勇太の肩を叩いてニカっと笑った。
「そうね。引き続きペリドットに師匠をお願いするわね。」
ルビーが言った。
「もちろんだ。任せてくれ。」
ペリドットは勇太の肩に手を置いて言った。
「ルビー、ちょっと。」
あきも突然現れた。ルビーは険しい顔になりあきと一瞬にどこかへ行ってしまった。
『そういえば、野上さんは俺たちが修行しているときは何をしているんだろう…』
勇太はふと疑問に思った。