魔術界の礎
「この3人にはムリだな。」
クォーツが言った。
「私たちはダイヤを裏切ることはできない。そういう『契約』なの。」
エメラルドが勇太に微笑んで言った。
「契約…?」
勇太が言いかけたが、
「魔術界の清らかな水はサファイア、煌々と燃え盛る火はルビー、生い茂る草花たちはエメラルドの魔力がそれぞれ源なんだ。だから、この3人の誰かが闇に染まると魔術界に異変が起きる。」
とクォーツが説明した。
勇太は水属性の建物の中で濃い青色の透き通った大きな宝石から川の水が出ていたのを思い出した。
『魔術界はこのように特別な宝石から魔力を帯びた水や火を使って生活できているのです。開発したのはダイヤ様と安倍晴明様です。』
『闇に触れられるのを一番避けなければならないので。』
カバンサイトがこのように勇太に説明してくれていた。
「じゃあ、あの宝石が…」
「それぞれの魔力の結晶なんだ。」
勇太は納得した。
「僕、いつまでここにいるの?ずっと偽者のままでも不審に思われるよ。」
貴司が聞いた。
「そうね。大学の敷地内なら問題ないだろうけど、自宅周辺は私の式神をつけておくわ。」
ルビーが言った。
「それじゃあ…!」
「明日1日は体のチェックをして明後日に人間界に戻って良いわよ。」
「良かった!」
勇太は貴司と樹理奈と3人で喜んだ。
「お前たちはそろそろ戻るか。また何かあったら連絡する。」
クォーツが言った。
勇太と樹理奈は『扉の空間』に戻された。
「私、守られてばっかりだね…」
樹理奈がポツリとつぶやいた。
「そんなこと…」
「確かに、呪いを受けていたのが私なら死んでたかもしれない。けど、素直には喜べないよ。」
「それは俺だって一緒だよ。」
「中島君はあきちゃんと松下君が疑われているのどう思ってるの?」
「もちろん、2人ともそうじゃないって信じてるよ。」
「そうだね。」
「ペリドットが言ってたんだ。『jewelsの中に裏切り者がいるからjewelsを信じるな』って。それは俺たちがjewelsになる前のことなんだ。だから、クォーツもあきと海斗は可能性としては低いと考えてると思う。」
「私たちも用心しなきゃ。」
「そうだよね。あきのこと色々心配してくれててありがとう。あき、もう大丈夫だと思う。」
勇太は少し気になってることを思いきって樹理奈に聞いてみることにした。
「最近、ほとんどあきと一緒にいるよね?気を使ってくれてるの?」
「ううん。違うの。確かに、あきちゃんがずっと1人なのが気にはしてたけど、最近はね、私があきちゃんといると楽なの。」
樹理奈は少し微笑んだ。
「ずっとグループでも『元 芸能人』扱いで、私も背伸びしてたのもあったの。本当の私は芸能人らしくなくてもっと地味なのに。でも、あきちゃんと一緒だと肩の力を抜いて話できるから。お互い秘密を共有する仲から始まったけど、あきちゃんと一緒にいたくているの。あきちゃん、迷惑って言ってた?」
樹理奈は心配そうな顔をした。
「そんなことないよ。原田さんと一緒にいるようになってあき、明るくなったと思うんだ。だけど、原田さんはどうなんだろうって思ってさ。元々いたグループもあるから。」
「まぁ、確かに文句は少し言われてるけどでもそんなの私の勝手だし。」
緊張の糸が切れたように樹理奈は笑った。
「本当に素で話できるのって研究室メンバーぐらいかも。」