内通者の存在
いつものように大学に通っている勇太だが、敵の襲来以来、気になることがもう1つあった。
サファイアたちに魔術界に呪いの治療のために連れていかれた貴司のことだった。
人間界の貴司はルビーが用意した偽者だったが、模試が終わって1週間経っても本物の貴司は戻ってきていなかった。
樹理奈は責任を感じているようで、元気がなかった。
研究室のモリオンに貴司の様子は知らされていないらしく、
「俺まで疑ってやがる…」
とぼやいていた。
夜、勇太の携帯電話に1通のメールが来た。
“今すぐ1人で扉の空間に来い”
差出人はクォーツからだった。
勇太は『扉の空間』に行った。
「来たか。」
勇太を確認したクォーツが言った。
「こんな時間に何か用?」
「そっちもそろったわね。」
勇太が言いかけた時、アメジストの声がした。
アメジストは樹理奈を連れてこちらに歩いてきた。
「今からフリントストーンの所へ連れていくが、これは極秘だ。」
クォーツが勇太と樹理奈に言った。
「フリントストーン…大林君、元気なの?」
「極秘ってどういうこと?」
勇太と樹理奈が同時にクォーツに疑問をぶつけたが、
「とにかく、ついてこい。向こうで話してやる。」
クォーツがそう言うと、勇太たち4人の足下に大きな魔法陣が現れて光ったと同時に勇太たちは別の場所に立っていた。
「クォーツ、来たか。」
勇太たちの目の前にサファイアが立っていた。
真っ白な大きな部屋の奥にベッドが置かれていて、
「病室みたい…」
と樹理奈がつぶやいた。
そこに貴司が座っていた。
「大林君!」
貴司は勇太たちに笑顔で手を振った。
「良かった。元気そう…」
樹理奈は安堵の表情だった。
勇太と樹理奈は貴司に駆け寄った。
「心配かけてゴメン。もう大丈夫だから。呪いも完全に消えたって。」
「良かった!大学に来てるのがずっと偽者だったから心配だったんだ。」
「大林君、ゴメン…私のせいで…」
樹理奈が涙ぐんでいた。
「あなたのせいじゃないわ。私たちもジルコニウムのことをあえて伝えていなかったから。」
いつの間にか、勇太たちの背後にエメラルドが立っていた。
「どうして?」
勇太が聞いた。
「知っていてもどうすることもできないから。実際、そうだったでしょう?」
エメラルドの言葉に勇太たちは黙ってしまった。
「フリントストーンはモリオンから聞いていたみたいだから、ジルコニウム対策をモリオンとしていたのよね。だから、フリントストーン以外でジルコニウムの呪いを受けていたら本当に死んでたわ。だから、あなたは責任を感じることはないの。」
ルビーも突然現れて言った。
「じゃあ次にまたジルコニウムが現れたら…」
「俺たちがアイツと戦うしかない。」
クォーツが言った。
「それよりも、もう1つ問題なのがジルコニウムと誰かが通じてるってことなのよ。だから、ここは極秘空間ってわけ。あの女、昔っからプライド高いからもし自分の呪いが完全に消されたと知ったら止めを刺しに来るかもしれないし。」
アメジストが言った。
「メー太とクリナは大丈夫って判断したわけよ。」
「だから、クリナはイヤだって!」
樹理奈がアメジストに言った。
「『メー太』って…」
「メタモルフォシスって長いじゃん!だから『メー太』。」
いつの間にか、勇太はアメジストに『メー太』と呼ばれていたようだった。
「で、でも、海斗も大丈夫だよな?」
勇太が言った。
「あの子、ニッケルの洗脳を受けたらしいから。新しい内通者になってる可能性はゼロじゃない。」
ルビーが言った。
「それはモリオンがあらかじめ対策してくれててはねのけたって…」
「可能性が少しでもあると用心しなきゃいけないの。正直、私も弟子を疑うのは辛いの。」
「ブルーサンドストーンはもちろん、シルバーに洗脳されたロード、ニッケルと接触があったオパールなんかも内通者の可能性があるわ。ダイヤがスパイとして送り込んでいたガーネットもゼロじゃない。あの子、コッパーになりかわるまえからダイヤに何も報告してなかったって。」
ルビーとエメラルドが言った。
「じゃあ聞くけど…」
勇太が意を決して口を開いた。
「ルビー、サファイア、エメラルドが内通者でないと言い切れるの?」
勇太はじっとルビーたち3人を見た。