説教
「女よ、わしの言ったことを分かっていないの。」
晴明があきを見た。
「逆に利用してやれば良いものを。何故そうせぬのだ。闇の力を消し去っても根本的な解決にはならん。」
勇太はまだあきの胸に手を当てていたが、冷気を感じなくなったことに気づいた。
晴明の出現のせいか黒い冷気は消えていて、勇太は手を下ろした。
「じゃあ、どうすれば…」
「闇は悪だと誰が決めた?」
晴明は勇太とあきの2人をじっと見つめた。
「確かに心の闇は増幅させれば悪となるが、それに打ち勝てば闇は己の糧となり、人間は成長する。元々、魔術には闇属性もあったのだぞ。」
その説明に勇太は納得してしまった。
「クォーツたちは闇属性を使えるけど使わないのは?」
勇太が晴明に聞いた。
「大也のが怨霊に奪われて使えなくなってしまったからだろうの。清太のことだ。師匠に遠慮しているのだろう。全ての属性を完全に使いこなすことができると何ができると思う?」
勇太とあきは顔を見合わせた。この質問の答えを全く検討がつかなかった。
「自然界で人間が操れぬもの、『時間』と『空間』だ。人間界と別の空間にあるもの、『魔術界』と時間を止めた人間界と魔術界の間にある『扉の空間』はわしと大也で創った。弟子たちも少しは手伝ったか。何故、敵は人間界にずっと隠れていたのか、闇と金属だけではその力は得られぬからだ。信子を引き込んだとはいえ、あやつもまだまだだったからの。」
勇太は晴明の話を真剣に聞いていた。何より、晴明がこんなに魔術界について自ら語ってくれるのは初めてだった。
「敵の闇の魔力は大也の魔力と怨霊の心の闇からできたものだ。だから、大抵のものは怨霊の強大な心の闇に飲み込まれてしまうのだろう。しかし、女よ。そなたはそうではなかったのだ。だからこそ、そなたは闇を手放していいわけがないだろう。」
晴明はクルッと勇太たちに背を向けた。
「さて、わしからは以上だ。邪魔者は消えるかの。」
そう言って晴明は姿を消した。
「はぁ…」
あきはため息をつきベッドに座った。
「色々難しいけどさ。」
勇太があきの横に座った。
「今度、『いっちゃん』の試食会に一緒に行こうよ。おいしいもの食べて元気だそう。」
「ふふふ。中島君らしいね。」
あきは勇太にもたれかかり、そのまま眠ってしまった。
「何故、何もしなかった!?」
帰宅した勇太に晴明が呆れたように言った。
「何もって…あき寝てしまったし、あの状態でやれっての?」
「男と女が2人きりになってるのだぞ?!やることは1つ。」
「でも、あきの闇の力が…」
「主の言葉で抑えることができてたわい。情けない。」
「まあまあ、晴明殿。勇太の良いところでもあります。本当に勇太が覚悟できてからの方が…」
ペリドットが勇太をフォローした。
「そういうそなたはあの式神の女とは?」
「なっ、何も…オリーブとは…」
ペリドットは顔を真っ赤にし、口ごもってしまった。
「少なくとも思ったことはあると言うことか。」
ペリドットは黙ってしまった。
「おっ、俺風呂に入ってくるから!」
勇太は部屋を飛び出した。
『晴明のノリ、彬とか晋也に似てるような…』
勇太は少し顔を赤らめながら階段を降りていった。
「晴明殿、あなたの計画通りに勇太はかなり成長しましたね。」
勇太が部屋を出ていった後、ペリドットが言った。
「計画通りとな?」
晴明がペリドットの方に振り返った。
「あなたは勇太を使って…」
「計画通り…ではないな…それ以上だ。」
晴明はニヤリと笑った。