闇との格闘
「あき、俺はあきのこと、愛してるよ。」
勇太はあきを抱きしめたまま言った。
「でも、今のままじゃあきを抱いてはいけない気がするんだ。」
勇太の脳裏にはクォーツの過去が浮かんでいた。
「闇魔力核の力に負けちゃダメだ。」
このまま流れに任せてあきを抱いてしまえばクォーツの想い人であったすずのようにあきの心は闇により深く支配されてしまうかもしれないと勇太は思った。
「だったら…どうして…マーキュリーなんかを庇ったの?!」
あきはわあわあと泣き出した。
「庇ったって?」
勇太には何のことか分からなかった。敵であったマーキュリーを自分が庇った覚えななかったが、ふとあきがマーキュリーに止めを刺そうとしたのを止めたことだと気づいた。
「ずっと…ずっと命を狙われていて…それなのに…庇うなんて…」
「庇ってなんかない!あの時、あきがマーキュリーに止めを刺したらあきは満足だったの?!あきに人殺しなんかさせるわけにいかないだろ!」
「じゃあ…私のこと好きなら…愛してるなら…抱いてよ!安心させて!」
あきは強く勇太を抱きしめた。
勇太はあきの胸の冷気がさらに強くなり、冷気が勇太の体の周りにまとわりついてきているのを感じた。
『これが…闇魔力が俺も支配しようとしているのか…』
勇太はあきを抱き締め返した。視界がふわふわとしてきた。
『もっと触れてほしい、そばにいてほしい、抱きしめてほしい。そんな簡単な女心も分からないなんて男としてダメだ。』
頭の中にシルバーの声が響いた。
『あきはずっと…俺に求めてたのか…』
勇太はぼんやりとそう思った。
『お前、まだ彼女と最後までやってないのか?』
『おいおい、誠実すぎるぞ!』
彬と晋也の声も頭の中で響いていた。
『俺は…男として…あきを…』
そう思った時、
『お前は…俺のようになるな。絶対に…』
クォーツの言葉が勇太の頭の中で静かに木霊した。
『そうだ…あきを…あきの心を救わなきゃ…』
勇太が目を開くと自分とあきの周りに黒いもやがまとわりついているのに気づいた。
冷気の正体があきから発せられた闇魔力のもやだと勇太は確信した。
「あき、俺のこと、信じて。俺は魔術と関わって後悔していない
。あきとの架け橋になってくれたから。普通の大学生生活と違った楽しみができたと今は思えるよ。全然男のらしくないけど俺も少しは変われたかな。色んな魔術師、師匠とも出会えてよかったと今なら本当に思えるよ。だから、あきの中の闇の力を一緒に克服したいんだ。俺たちを飲み込もうとしてる闇の力を一緒に抑えようよ。」
少しずつ黒いもやが消え始めた。
勇太には体の周りが暖かくなっているように感じていたが、それが勇太から発せられた魔力だとは気づかなかった。
「ゴメン…私…私のこと…幻滅した…?マーキュリーに嫉妬してたのかも…」
あきはすすり泣いた。
「そんなくらいで幻滅するわけないだろ!嫉妬ぐらい、俺もするし。」
「えっ?そうなの?」
「意外?なんで?」
あきからやっと笑顔がこぼれた。
勇太はようやく安心した。
2人で顔を見合わせて笑った。
「中島君、お願い。」
あきは勇太をまっすぐ見た。
「私の中の闇魔力核を中島君の魔力で無力化して欲しいの。」