誘い
模試が終わった後の休日に勇太はあきにデートに誘われた。
「気分転換に。行こうよ。」
あきからのお誘いは珍しかった。
勇太はOKしたが、ジルコニウム襲来以来、気がかりなことがあった。
あきからピリピリとした空気を感じていたのだ。
あきの成績では国家試験のプレッシャーからではないのは分かっていた。
勇太たちの前で闇属性の魔力を使ったことを気にしているのだと勇太は思っていた。
デート前夜に樹理奈から電話があった。
『中島君、今大丈夫?』
「うん。大丈夫だけど。」
『明日デートなのよね?ちょっとあきちゃんのこと、気になって…』
「原田さんも気になってた?あれ以来様子が少し変な気がするんだ。」
『うん。闇魔力核の力が強くなってるのかもって思って…中島君、あきちゃんを助けてあげて。』
デート当日、あきはそんな樹理奈の心配をよそに機嫌よくランチを食べていた。
その様子に勇太は少し安心した。
「次、どこ行く?ゲーセンとか…」
勇太がそう言いかけた時、あきは勇太の手を引っ張って黙って歩き出した。
「あき?どこ行くの?」
あきは繁華街を抜けて、人気のない道に出た。
『そっちの方向…まさか…?!』
勇太はドキドキしていた。
ドキドキしすぎてあきの手が冷たくなっているのに気づかなかった。
あきはどんどん人気のない暗い道を進んだ。
そして、大きくて派手な建物の前で足を止めた。
『マジか…?!』
「あき、あの…」
勇太はあきに声をかけたがあきは顔を赤くして黙っていた。
『ファッションホテル L』と書かれた建物に意を決してあきは勇太の手を引っ張ったまま入っていった。
『やっぱりラブホ…だよなここ?』
勇太はドキドキしながらあきに引っ張られるまま部屋に入った。
バタンと部屋のドアが閉まり、勇太は奥に大きなベッドが置かれている壁一面がピンク色の部屋にあきと2人きりで気まずい空気が流れた。
あきが勇太に抱きついた。
勇太もあきの腰に手を回し抱きしめた。
勇太は今日のあきの服装がいつもと違い、胸元が少し見えて、スカートも短い理由が分かった。
『あきから誘ってる…これは男として…』
しかし、勇太はもう1つあることに気づいた。
あきの体が冷たく感じた。
特に胸の辺りが氷の様に冷たかった。
樹理奈の言った通り、闇魔力核の力が強くなってるのだと勇太は分かった。
「中島君…」
あきは勇太を強く抱きしめた。
「分かる…?」
勇太はあきから誘っているのは分かっていたが、
『そりゃあ…男として答えなきゃいけないのは分かってるけど…でも…』
あきの胸からさらに冷気を感じた。