主従関係
あきがジルコニウムに攻撃している間、勇太、海斗、樹理奈の3人は倒れた貴司の周りに座って腕の黒い呪いのあざを消すことを試みていた。
樹理奈と海斗で癒しの樹の炭であざに付着した金属を除去することに成功した。
勇太は光属性の魔力で貴司の腕の呪いを消そうとした。
「ただの闇属性の呪いじゃないみたい…」
勇太の魔力で消えそうにない呪いを見て樹理奈が言った。
「色んな術式が複雑に絡み合ってるみたいだ…」
勇太は唇が紫色に変わりつつある貴司を見て言った。
『この呪いを知恵の輪みたいに1つ1つの術式にバラすことができれば…』
勇太は貴司が弱っていくのを見て焦っていた。
「早くしなきゃ死んじゃうわよ!」
ジルコニウムはそんな勇太たちの様子を見て嘲笑うように言った。
「そうだ!陰陽術は?勇太、使えるか?」
海斗が突然閃いた。
「陰陽術か…晴明に教わっていれば…」
勇太のその言葉にジルコニウムは、
「『器』はただの『器』だ。本当に中身がないわね!」
と嘲笑った。
そんなジルコニウムにあきは怒りに任せて鎌を大きく振った。
ジルコニウムはヒラリとあきの攻撃をかわした。
『陰陽術って、偽者とか式神とかを操るぐらいしか知らない…式神…?』
勇太の頭の中にはある考えが閃いた。
この方法なら晴明は助けに来てくれるかもしれないーしかし、晴明との今までの関係が崩れてしまう可能が高い…勇太は迷ったが、血の気がなくなっていく貴司の顔を見て決心した。
「来い!晴明!」
勇太は目の前の地面に手を向けて魔力をこめて叫んだ。
勇太の前に五芒星が描かれた魔法陣が現れ、そこに晴明が立っていた。
「晴明…」
勇太と晴明の久々の再開だった。
「せっ、晴明様?!」
ジルコニウムは晴明が現れたことに驚いて裏返った声で叫んだ。
「主、久しぶりだな。」
晴明が勇太を見下ろして言った。
いつもと変わらない晴明の様子に勇太は安心した。
「晴明、さっそくだけど大林君にかけられた呪いを解いて欲しいんだ。俺たちじゃどうすることもできなくて…」
晴明は貴司の腕に手をあてた。
「ふむ…良くできた呪詛だ。かなり腕を上げたな、“風子”よ。」
晴明がジルコニウムを見て言った。
「あっ…ありがたきお言葉…しかし、晴明様、私は“風子”ではなく“信子”ですわ。妹の方です。あっ…あなた様が私たちを間違えるなんて…」
ジルコニウムは晴明に褒められたことが素直にうれしかったらしく涙目だった。
「晴明、どう?」
勇太は心配で晴明の顔を覗きこんだ。
「死にはせん。ただ、今は完全に呪詛を取り除くことはできんがな。」
晴明は余裕そうに言った。
「よかった…じゃあ…」
「晴明様!何故その男の召喚に応じたのですか?!あなた様ほどのお方ならそんなこと…」
ジルコニウムが叫んだ。
「簡単なことだ。わしはこの主の式神だからだ。主の召喚に応じるのは当然だ。」
『よく言う…』
晴明はそう言ったが、今まで勇太が散々頭の中で呼びかけても応じなかったことを勇太は不満を感じていた。
「この者の体力を回復してやった方がいい。主よ、ペリドットを呼んでやれ。あやつの得意分野だろう。」
晴明が勇太に言った。
「分かった。」
勇太は晴明に言われるがまま頭の中でペリドットに呼びかけた。
『ペリドット、来てくれ!』
「勇太、事情は分かっている。」
ペリドットはすぐに勇太の呼びかけに応じて現れた。
「どれ…呪いは別のヤツに任せて…大丈夫だ。こいつは助かる。」
ペリドットは貴司の胸に手を当てて言った。
「ふむ、任せたぞ。」
晴明は貴司から離れてジルコニウムとあきの戦いを眺めていた。




