闇の力
「助けねぇ…」
ジルコニウムが伸びをしながら言った。
「うーん、いずれは来るだろうけど。その前に全員始末するか。」
ジルコニウムはニヤリと笑った。
「さて、女王になり損ねたかわいそうなプラチニウム。せっかくモンドから特別な闇魔力核をもらってんのにさ?白金って魔力とか才能だけじゃなれないのよ?今のあんたはね、マーキュリー以下よ!」
あきの顔が険しくなった。
「闇の使い方はマーキュリーの方が上ね。大人しくシルバーのお人形さんのままでいた方があんたの価値があったのに。」
あきの体を黒いもやが包み込み始めていた。
あきはジルコニウムめがけて黒い魔力を放った。
「あらっ。」
ジルコニウムは軽々と避けた。
「一応、使えるみたいね。」
ジルコニウムはずっとあきを見下すような冷たい視線だった。
「あき、まともに聞いては…」
勇太がそう言い掛けたが、あきの表情は険しいままだった。
あきの手から出た黒い魔力が大きな鎌の形になり、鎌を握ったあきはジルコニウムめがけて勢いよく飛んだ。
「あぁ!」
あきは叫びながら鎌を大きく振りかざし、ジルコニウムを切りつけようとしたが、ジルコニウムは宙に浮き上がってあきの攻撃をかわした。
「やるじゃない。」
ジルコニウムはニヤリと笑った。
あきも宙に浮き、ジルコニウムに更に攻撃を加えようと鎌を大きく振りかざした。
勇太たちは豹変したあきに驚き、ただ呆然と眺めていることしかできなかった。
「闇魔力を武器に変えるなんて。白金の特性も上手く使ってるけど、まだまだね。」
ジルコニウムはあきの攻撃をかわしながら言った。
「あき…」
勇太は小声で呟いた。
勇太の目には、目の前のあきは自分が知っているあきではないように映っていて、寂しさと混乱で複雑な気持ちだった。
「これはどうかしら?」
ジルコニウムがあきの方を見ながら樹理奈を指差した。
樹理奈の背後には先程マーキュリーを飲み込んだ正八面体の物体が何十本も触手を向けて襲いかかろうとしていた。
「あっ…!」
それを見たあきは我に返った。
「危ない!」
貴司は樹理奈を突き飛ばしたが、触手は貴司の腕に絡みついてしまった。
「大林君!」
倒れて貴司の方を振り返った樹理奈は悲鳴を上げた。
「大丈夫…」
貴司はそう言うと先程ジルコニウムの攻撃を防いだ黒い玉を正八面体の部分に押しつけた。
バシュッという音と共に、正八面体は破裂して触手も貴司の腕から離れたが、貴司はその場に倒れてしまった。
「大林君!ゴメン…私のせいで…」
樹理奈は貴司に駆け寄った。
「そっちにも効果あったんだ。でも呪いうけちゃったわね。さぁ、あとどのくらいもつかしら?」
ジルコニウムは貴司を見下ろして言った。
「許さない…」
あきは再び鎌を握りしめてジルコニウムに攻撃した。
しかし、ジルコニウムはまた軽々と避けた。
樹理奈は貴司が触手にからみつけられた腕の袖をめくりあげると、どす黒いあざが腕に広がっていた。
「魔術界の癒しの樹で傷は癒せるけど、呪いを出さなきゃ…」
樹理奈が言った。
「あざに金属のような粉がこびりついている…原田、炭にしたらどうだ?粉状にした炭で金属だけでも先に取りだそう。」
海斗が言った。
「吸着炭…うん!やってみる!でも火が…」
「火は俺が使えるから。」
「俺も…闇属性の呪いならなんとか対処できるかも…」
勇太も倒れている貴司の所へ駆け寄った。
貴司の体はずっと震えていて、冷たくなっていた。