ジルコニウム
あきはマーキュリーに近づいて、泣き崩れているマーキュリーに手を向けて攻撃しようとしていた。
「あき、もうマーキュリーは戦えない。拘束して魔術界に連れて行こう。」
勇太が言ったが、あきは手を下ろさなかった。
「あきちゃん…マーキュリーはもう何もできないわ。」
樹理奈はあきに近づいて、あき肩に手を置いた。
あきはうつむいていた。
樹理奈はあきの手を握った。
「拘束の魔法陣は知ってるけど、念のため光属性もまとわせたいから中島君、手伝って。」
貴司が言った。
貴司が勇太に魔法陣を教えようとした時だった。
突然、マーキュリーの背中に八面体の銀白色の物体が突き刺さった。
「何っ?!」
樹理奈は悲鳴を上げた。
マーキュリーに突き刺さった物体から植物の根のようなものが何十本も生え、マーキュリーをあっと言う間に包み込んだ。
「あっ…あぁ…!待って…ジル…」
マーキュリーの悲鳴が途切れた途端、ぐしゃりと音をたてて物体はマーキュリーを飲み込んだ様で、一瞬人の形に肥大したが、根の間から黒い球体が吐き出された。
「あれは…闇魔力核か…?」
突然の出来事に驚きながらも海斗が言った。
闇魔力核はふわふわと浮かび上がり、勇太たちの背後へ飛んでいった。
勇太たちは闇魔力核を追うように振り向くと女が立っていた。
「もうあんたは用済みなの。粘着質で嫉妬深いのが取り柄だったのに、その嫉妬心がなくなったら存在している意味はないわ。」
女は手のひらに乗った闇魔力核に向かって言った。
勇太たちはただ呆然と女を見ていた。
露出の高いボンデージ姿の女の顔に見覚えがあった。
『ジルコン…?まさか…!?』
勇太はその女の正体が分かった。
他のメンバーたちもジルコンにそっくりな女の正体が分かりはじめたようだった。
「初めまして、新人jewelsたち。ジルコニウムよ。」
ジルコニアは見下すような冷たい視線で言った。
「あーぁ、金属中毒もほぼ全滅だし、どうしよう?とりあえず、あんたらを始末しようかしら?」
ジルコニウムは勇太たちに向けて真っ黒い魔力を放ち、攻撃してきた。
貴司がポケットからピンポン玉ぐらいの黒い玉を取りだし、ジルコニウム攻撃に向かって投げると、玉は破裂して大きな盾の魔法陣が現れて勇太たちをガードした。
「あら、モリオンの発明の1つかしら。相変わらずよくできてる。」
ジルコニウムは自分の攻撃が防がれたにも関わらず、あっけらかんと言った。
「ジルコニウムは他の金属中毒とは違う…金属と闇だけじゃないって…魔術界の創設にも関わったって…このことは魔術界でも話すことはタブー扱いになってるらしいけど。」
貴司が言った。貴司の手は震えていた。
「光以外の属性も使えるらしいんだ。自ら敵に堕ちた魔術師…晴明の弟子だったから陰陽術は得意、だからジルコンの式神のジルコニアたちに細工したり破壊できるのもジルコニウムだけだって。」
「こちらの状況が魔術界に把握されにくくなってるのもジルコニウムの仕業ってことか。マーキュリーとジルコニウムが生きてたことは知っていて警戒しているはずなのに誰も助けに来ないのは妙だからな。」
海斗が言った。
今まで戦った金属中毒の中でもジルコニウムは異質な存在であることは勇太も感じていた。
『さっきの攻撃は…あれは闇だけじゃなかった…色々混じっているような…大林君のお陰で助かったけど…俺も何とかしなくちゃ…!』
勇太は拳をグッと握った。
「助けが来るまで何とか生きのびなきゃ。」
勇太もジルコニウムの攻撃に備えて構えた。