儚い想い
「シルバーはあきに殺されたんじゃない!ガーネットだ!」
勇太はマーキュリーに向かって叫んだ。
勇太以外の4人は驚いて勇太を見た。
「そんなことどうだって良い!あの女さえ殺せば!」
マーキュリーは血走った目で勇太に言った。
「あきはシルバーと…してないんだ!」
勇太は言葉を慎重に選ぼうとしたが、出てこなかった。
「中島君、何言ってるの?」
あきが少し怒って言った。
「あきとシルバーの間には何もなかったんだ!だから…」
海斗は状況を理解できたようで、
「体だけの関係は本当の愛じゃない。心は満たされない。お互いの気持ちが通じてなきゃ虚しいだけだ。」
と言った。
「そういうこと…」
樹理奈も理解したようだった。
「ロードはまだ苦しんでる…無理矢理シルバーに…だから、ロードは喜んでなんかないわ!あなたはうれしいかもしれないけど、シルバーはただ楽しんでるだけよ。誰も愛していない。それでも良かったの?」
樹理奈はじっとマーキュリーを見て言った。
「…うるさい!うるさい!お前たちに何が分かる!シルバーは私にとって…」
マーキュリーの頬に涙が伝った。
その時、勇太の頭にはまた別の光景が広がった。
薄暗い洞窟の中ー鉱山の中のようだった。
ボロボロになったマーキュリーがうずくまっていた。
「派手なやられ方をしたな。」
マーキュリーをアイアンが見下ろしていた。
「おっ、マーキュリー、どうした?」
シルバーが近寄ってきた。
「マーキュリーが魔術界の見習いのヤツにやられた。そいつはマーキュリーの特殊能力が効かない上にかなりの実力だったと。」
「ほぉ。」
シルバーがマーキュリーをじっと見下ろした。
「マーキュリーの処分はどうする?特殊能力以外に取り柄がないマーキュリーの特殊能力が効かないヤツが出てきたとなっては…」
「まだ見習い1人だけだろ?」
アイアンの言葉をシルバーが遮って言った。
驚いてマーキュリーはシルバーを見上げた。
「マーキュリー、修行しとけ。」
そう言ってシルバーは出ていった。
マーキュリーはいとおしそうにシルバーを見つめていた。
「私は…シルバーのお陰で…」
マーキュリーは勇太たちに手を向けて攻撃を仕掛けようとしていた。
勇太の頭には今度はまた別の光景ー今度はマーキュリーの横にシルバーが立っていた。
見覚えのある光景だった。
シルバーとマーキュリーの目線の先には勇太とあきが手を繋いで並んで歩いていた。
あきとの初デートの時の光景だった。
「あの女だろ?お前がやられたってのは?」
シルバーがマーキュリーに言った。マーキュリーは悔しそうにグッと拳を握っていた。
「プラチニウムだとよ。」
「えっ?!」
「あの女はプラチニウムだ。闇魔力核を持っている。これはもう魔術界も知っている。今度、あの女を使ってボスが復活する。」
「どういうこと?!」
「俺にボスが憑依し、ボスは肉体を得て一時的に復活する。そしてあの女に子供を産ませ、その子供にボスが転生しボスは完全に復活するってわけだ。」
「そんな…憑依されたシルバーはどうなるの?」
「俺はボスに俺の力と肉体を一時的に与えるだけだとさ。まぁ、それだけじゃすませねぇ。ボスの力も少しは頂くつもりだ。」
「なんであの女がプラチニウムなの?!なんでシルバーと…」
マーキュリーは半泣きだった。
「プラチニウムの素質があるってことはかなりの力とボスが欲したものを持っているってことだ。そいつにたまたま闇魔力核を入れてたのをボスは忘却術でついさっきまで思い出せずにいた。俺は良い女とやれるなら文句はない。むしろボスが完全復活し、不要になった女をまたいただけるのならなおさらだ。」
シルバーはじっとデート中の勇太とあきを見ていた。
「あんな男のどこが良いのか。俺が男の味を教えてやるさ。」
シルバーはニヤリと笑った。
『シルバー…なんであの女なの…なんで私じゃないの?…私を…私を見て…!』
勇太の頭の中にマーキュリーの声が響いていた。
「あぁぁぁ!」
マーキュリーは泣きながら水銀蟲をまた勇太たちに向けて放ったが、あきが手を向けると水銀蟲は崩れ落ちて跡形もなくなった。
マーキュリーはその場で泣き崩れた。